「産めないからこそ、ママ・パパ・赤ちゃんの力になりたい!」。14歳で子どもが産めないと告げられた助産師が、伝えたいこと【助産師・岸畑聖月】

2019年に助産師のネットワークを構築し、はたらく人を支援する法人向けサービスや、性教育ボードゲームなどのプロダクトを開発・展開する株式会社With Midwifeを設立した助産師の岸畑聖月さん(32歳)。岸畑さんは、自身の婦人科系の病気の経験を経て、助産師になって8年になります。
岸畑さんに、時代とともに子育てを取り巻く環境などが著しく変化する中で、助産師に求められていることを聞きました。
全2回インタビューの2回目です。

14歳のとき、婦人科系の病気で「将来子どもは産めない」と宣告。「なぜ私がこんな病気になったの?」と葛藤する日々から助産師の道へ【体験談】

少子化でも助産師の数は増加傾向

学会に参加する岸畑さん。

岸畑さんは、With MidwifeでCEOを務めると共に、大阪市内にある総合病院の産婦人科でも助産師として勤務しています。

――岸畑さんは、中学2年生で婦人科系の病気になり、医師に「将来、赤ちゃんが産めない」と告げられました。そのことをオープンにしようと思ったのはなぜでしょうか。

岸畑さん(以下敬称略) 自分が成しとげたい未来を口にするようになり、同時に応援してくれる人も増えました。14歳で判明した病気は、応援してくれている私の事業の原点でもあり、大切な私の過去です。すべての人に誠実であるためにも、後出しじゃんけんで「実は・・・」と言いたくなかったので。
また、私自身は赤ちゃんを産めないけれど、ママ・パパ・赤ちゃんの力になりたい! 産めないからこそ尊い命を守りたい! という思いで、助産師をしており、それは隠すことでもないと考えたからです。

――少子化に伴い、助産師の数は年々減っているのでしょうか。

岸畑 2023年12月に厚生労働省が発表した「令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によると、助産師の数は増えています。2022年には3万8063人にのぼります。
またこのデータでは、29歳までの助産師は21.6%、30代は24.6%で約半数を占めています。
しかし少子化に伴い、分娩数は減っているのが現状です。

パパの育休取得推進に伴い、産後うつになるパパも

時代と共に、子育てを取り巻く環境が変化して、最近はママだけでなく、パパも産後うつになることが。岸畑さんは、そうしたことによって助産師の役目が増えていると言います。

――分娩数の減少に伴い、助産師の仕事の内容は変わってきているのでしょうか。

岸畑 助産師の仕事というと妊娠・出産のサポートを思い浮かべるママ・パパが多いと思いますが、それだけではありません。退院後、家に帰ってから続く、産後や子育てのサポートも大切な役目です。とくに近年は、産後うつの予防・改善などママのメンタルケアが重要視されています。
またパパの育休取得推進に伴い、育児負担や仕事との両立の難しさなどから産後うつ(育児うつ)になるパパも増えています。そうしたママ・パパのサポートをするのも助産師の役目です。

――何かあったときパパも助産師に相談していいのでしょうか。

岸畑 助産師への相談はママだけではありません。パパも気軽に相談してください。
「どこに行けば、助産師に相談できるの?」と悩んだときは、地域の保健センターに行くと担当の助産師がいたり、近隣の助産院などを紹介してもらえます。 また出産した産院を頼ってもいいですし、最近ではオンラインで相談にのる助産師もいます。
私がCEOを務めるWith Midwifeでも、株式会社赤ちゃん本舗と共同でX(旧Twitter)の「with babylife」というアカウントで助産師がママ・パパの悩みに答えながら、必要があれば外部サービスの案内も含めた解決への道筋を作るサポートをしています。

――「with babylife」には、どのような相談が寄せられていますか。

岸畑 たとえば復職したママからは、「子どもが熱を出したりして保育園を休むことが多く、私も会社を休んでばかり。私自身も体調がすぐれないのですが、家ではできる範囲で事務作業をしないと追いつかないのでパンク状態です。経済的なことを考えると仕事を辞めるわけにはいかず、できれば今の会社を辞めたくありません。どうしたらいいのか悩んでいます」

パパからは「妻が、子どもが生まれてから人が変わってしまったようにイライラしたり、落ち込んだりしています。私もできる限り、子育てや家事をしていますが、妻のことを支えきれなくて悩んでいます。このままでは夫婦で共倒れになりそうです」

などの相談が寄せられています。

そのほか生理の悩み、第2子のこと、ママ(パパ)自身の体調やメンタルの悩み、夫婦関係・人間関係のことなどもあります。「こんなこと助産師に聞いていいのかな?」などと思わずに、ぜひ相談してください。とにかくママ・パパ1人で悩みを抱えて、自分を追い込まないでほしいと思います。

低用量ピルを服用する女性が増えて、若い世代でも性感染症が増加⁉

大学の学園祭で、学生に性教育を実施したとき。

助産師の仕事には性教育もあります。岸畑さんは、若い世代の性教育にも力を入れています。

――日本は、諸外国と比べて性教育が遅れていると言われています。性感染症の増加は、性教育の遅れが一因でしょうか。

岸畑 昨今、報道されている梅毒は、国立感染症研究所の発表によると、
【15~19歳】2023年 559人 【20~24歳】2023年 2788人
約10年前と比較すると、15~19歳は 約13倍、20~24歳では約21倍に増えています。

また20代の性器クラミジア感染症の報告数も依然として多く、不妊のリスクにもなっています。
このような背景の一因として性感染症への理解(性教育)の不足などが考えられますが、あわせて「低用量ピルを服用していても、性感染症は防げない」ということも知ってほしいと思います。海外のデータを調べても、低用量ピルの内服と性感染症の拡大との関連を示すものは得られておりませんが、ピルのオンライン処方の普及をはじめとして、安易に手に入れられるようになった反面で、コンドームなどを用いた性感染症対策を正しく行えていない方が増えてきたのも事実です。コンドームは性感染症予防にはとても重要です。

――学校の性教育だけでは不十分ということでしょうか。

岸畑 性教育に関しては、学校での教育だけは不十分だと感じています。親子で性についてオープンに話す家庭も限られている印象です 。
若い世代は、SNSやインターネットで情報を得ることが多く、なかには誤った情報もあります。学校教育の前に誤った情報を吸収したり、正しい情報に、若い世代が行きつかない・行きつきにくいことが課題です。

性に関する話はとてもプライベートなことでだれに相談していいのかわからず、1人で悩んで行き詰まってしまう人も多いのです。自分を守るためにも、悩んでいることやわからないことは気軽に生や性の専門家である助産師に相談してほしいと思います。助産師は、妊娠・出産する人をサポートするだけではないことを知ってほしいです。

――先ほど、助産師に相談するには地域の保健センターや出産した産院を頼るということでしたが、若い世代はどうしたらいいでしょうか。

岸畑 最近では各自治体が相談窓口を開設していることも増えました。また10代の方へ向けたユースクリニックというものもあります。ただ本心では、月経が始まったら定期的に婦人科の受診をしていただきたいなと思っています。よい先生に出会えるまで、苦労することもあるかもしれませんが、生理痛で悩んだとき、性感染症を疑ったときなど顔見知りの産婦人科医や助産師がいることは大きな安心感につながります。個人的には、遅くとも高校を卒業したら1年に1回は婦人科検診を受けてほしいと思います。

また「プレコンセプションケア」といって、妊娠前のヘルスケアという考え方があります。ライフプランにつながることなので、若いうちから、自分の健康に気を配る意識をもってほしいですね。

お話・写真提供/岸畑聖月さん 協力/株式会社With Midwife 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

早発閉経と診断され、妊娠が難しいとわかり落ち込む日々。夫の出会いを経て、悩んでいる人の背中を押したいという気持ちが芽生えた【気象予報士・千種ゆり子インタビュー】

岸畑さんは2019年に株式会社With Midwifeを設立。助産師のネットワークをいかし、ママ・パパをサポートするサービスなどを展開しています。紹介したXの「with babylife」もその一つ。助産師に悩みを聞いてほしいときは、#ミッドワイフコール または@with_babylifeをつけて投稿してください。ママだけでなく、パパや若い人たちも利用できます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

with babylife X│ 赤ちゃんと暮らすみんなの声が集まる場所

岸畑聖月さん(きしはたみづき)

PROFILE
助産師、看護師、保健師。香川大学医学部看護学科卒。京都大学大学院医学研究科修了。大阪市内の総合病院で助産師として働きながら、中絶、虐待、産後うつなどの社会問題を院外でも解決できる場を作るため、2019年株式会社With Midwifeを設立。CEOを務める。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。

© 株式会社ベネッセコーポレーション