JR京葉線「上下分離方式」にしたら快速走らせ放題? こんな妄想に識者「理論的には可能」と語るが...

「上下分離方式」という鉄道用語をご存じだろうか。列車の運転はじめ業務は鉄道会社が担当するが、線路など鉄道インフラは自治体が所有するものだ。双方がそれぞれの業務に徹することで、鉄道会社の経営状況が苦しい場合にその財務状況を改善する効果があるとされる。

2024年4月6日、その上下分離方式が導入された滋賀県の近江鉄道は、米原駅で「出発式」を行った。同社の鉄道部門は、30年連続で赤字になると見込まれるほどの「火の車」だ(2023年度に関しての赤字は見込み)。この上下分離方式、経営難でなくても応用できないだろうか。例えば最近、ダイヤ改正をめぐってひと悶着あった、あの路線......。

千葉県と千葉市が共同で京葉線を買い取ったら

記者が思い浮かべたのは、千葉県と東京の湾岸エリアを走るJR京葉線だ。23年12月下旬、同県民の通勤手段を揺るがす騒動が起きていた。JR東日本は24年3月16日改正の新ダイヤで、京葉線の朝と夕方以降の通勤快速と快速を廃止にすると発表し、波紋が広がったのだ。

23年12月28日、JR東日本千葉支社の土澤壇支社長が千葉市の神谷俊一市長を訪問した。この際、神谷市長は快速電車の廃止の撤回を要請。また、24年1月4日に土澤支社長が千葉県の熊谷俊人知事を訪ねた際も、同知事から同様の要請が行われた。これらの働きかけが功を奏したのか、24年1月中旬にはダイヤ改正後も朝の上り(東京方面)2本の運行を継続する方針がJR側から示され、騒動は沈静化した。

ただ今後、同様の騒動が起きる可能性はゼロではない。例えば、千葉県と千葉市が共同で京葉線を買い取り、上下分離方式で運営すれば良いのではないだろうか。突飛かもしれないが、鉄道に詳しいライターの小林拓矢氏にこのアイデアをぶつけた。

ダイヤを最終的に決定する権限はJRにある

小林氏は「理論的には可能」としつつも、実際の実現可能性は「ほぼ不可能」と断じた。確かに、JR東日本から駅や線路などの不動産を購入しさえすれば、それは上下分離方式となる。しかし現実は、「地価などが高く、とても千葉県や沿線自治体で負担できるものではありません」。

さらに、小林氏は「鉄道の運営はJR東日本が行うので、ダイヤを最終的に決定する権限はJR東日本にあります」。つまり、仮に上下分離方式を導入しても今回のような「快速廃止騒動」は再燃し得るとも。また、

「京葉線は千葉県や千葉市だけの路線ではありません。沿線には複数の自治体があり、列車ダイヤ作成には、それぞれの自治体の意向を反映させなければなりません」
「沿線の自治体だけではなく、京葉線の通勤快速の恩恵を受けていた外房線や内房線の自治体にも上下分離方式に参加してもらう必要があります。そうなった場合、さまざまな沿線自治体の意向が入り乱れて思い通りにならない可能性もあります」

と説明。もはや、収拾がつかなくなる可能性に言及した。これらを総括しつつ小林氏は、

「JR東日本千葉支社に今後のダイヤ改正に向けて普通に申し入れするほうが、現実的」

との考えを示した。

(J-CASTニュースBiz編集部 坂下朋永)

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