なぜブラジル代表ガビゴルは2年間の出場停止となったのか。異常事態の舞台裏を母国記者明かす。「勝手に容器を持ち去って尿を採取し...」【現地発】

フラメンゴは南米で最も裕福なチームの1つだ。そのためブラジル代表だけでなく、他国のスター選手もそろっている。ウルグアイのスターで、2023年のブカンピオナート・ブラジル最優秀選手に選ばれたジョルジアン・デ・アラスカエスタのようなトップクラスの選手も年俸も支払える。チーム人気も高く、ここ3年間はどんな大会でもチケットはほぼ完売だ。

そんなフラメンゴに激震が走った。チームの中心選手であるガビゴルことガブリエウ・バルボサに2年間の出場停止処分が下ったのだ。

事件は1年前の2023年4月8日、フラメンゴの練習場であるニーニョ・ド・ウルブで起こった。ブラジルの反ドーピング取締局(ABCD)は、事前に通告することなく、抜き打ちでドーピング検査を行うことがある。抜き打ち検査は通常、チームの練習場で行われ、この日はフラメンゴにこの検査が入った。

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ガビゴルを除くフラメンゴの全選手は、午前10時のトレーニング前に検査を受けた。しかしガビゴルだけは係官の呼びかけを無視してピッチに直行、練習後は昼食に行き、戻ってくるとやっと検査に応じた。だが、その時も自分で勝手に容器を持ち去って尿を採取し、係官にそれが本当にガビゴル本人のものであるか確認させるのを拒んだ。

おまけに容器は密封して提出しなければいけないというのを、蓋が空いたままの状態で提出した。ドーピング検査の結果は陰性であったが、ガビゴルのこの一連の不可解な行動は、ブラジル・アンチ・ドーピング規程法第122条の「管理プロセスにおける不正行為または不正行為の企て」に抵触した。ABCDはガビゴルが検査の実施を故意に遅らせ、係官の指示に従わなかったことで申し立てを行った。これが23年の4月30日のことである。

この件についての裁判は今年3月の半ばから始まり、同25日にはガビゴルに2年間の出場停止処分が言い渡された。ちなみに事件が起こったのは2023年4月8日だったため、出場停止は2025年の4月8日まで。この間1年プレーしてきたかどうかは、どうやら関係ないらしい。

厳しいのはこれからの1年間、ガビゴルはフラメンゴの練習場でトレーニングをしたり、関連施設を使用することも禁止されることだ。フィジカルコンディションを維持するためには、どこか別な場所を探さなければならない。

そこで真っ先に手を差し伸べたのはジーコだ。彼はガビゴルが望むなら、自身の所有するCFZ(ジーコスポーツセンター)の施設を提供すると提案した。

もう一つ大きな問題がある。現在27歳の彼とフラメンゴとの契約は2024年末で切れるが、しかし会長は現在「微妙な状況」であるため、契約更新について話し合うことはできないと述べているのだ。

ともかくガビゴルはこの決定を不服とし、今後はスイスにあるFIFAのスポーツ仲裁裁判所(CAS)に控訴する予定である。

文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン(Ricardo SETYON)/1963年8月29日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。ジャーナリストとし中東戦争やユーゴスラビア紛争などを現地取材した後、社会学としてサッカーを研究。スポーツジャーナリストに転身する。8か国語を操る語学力を駆使し、世界中を飛び回って現場を取材。多数のメディアで活躍する。FIFAの広報担当なども務め、ジーコやカフー、ドゥンガなどとの親交も厚い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授として大学で教鞭も執っている。

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