今季最大のセンセーション。なぜレバークーゼンは“ビッグネームなし”でも強いのか【コラム】

今シーズン、欧州で最もセンセーションを巻き起こしているチームは?

そう訊かれたら、「レバークーゼン」と迷わずに答えられる。ドイツ、バイエルン・ミュンヘンが帝国を築いてきたブンデスリーガで首位。その成績以上に、スペクタクルなサッカーを実践し、新時代の幕開けのような予感すら漂う。

昨シーズンの途中、シャビ・アロンソ監督は降格の危機が迫っていたチームを率い、一気にヨーロッパリーグ(EL)出場圏内まで引き上げた。

その反転攻勢だけで瞠目に値するが、選手を成長させ、価値を向上。フロリアン・ヴィルツ、ジェレミー・フリンポン、ヴィクター・ボニフェイスのような若手を啓発し、アレハンドロ・グリマルドのようにグッドプレーヤーの域を出られなかった中堅をトッププレーヤーに“再生”。ビッグネームなしで強力なチームを作り上げた。

どこにボールを通し、どのタイミングで人が動くべきか、そのオートマチズムは出色だ。

【動画】流れるような攻撃!レバークーゼンELゴール集
EL、プレーオフのセカンドレグのカラバフ戦では、残り20分で0-2からひっくり返したが、その奇跡も必然だった。

例えば5分、右センターバックのタプソバが縦パスを入れ、ホフマンがFWとMFのライン間で受ける。ターンしてさらに縦パスを入れ、ヴィルツがMFとDFのライン間でコントロール。それを横に流し、ボルハ・イグレシアスがシュート。確実にライン間を取っており、おかげで簡単にボールを前進させ、ゴールに迫った。

後半に入って48分には、相手が守備を固めたことからエセキエル・パラシオスがグラニト・ジャカとパス交換しながらブロックをずらす。ラインの乱れに対し、パラシオスはヴィルツとのワンツーで潜り込み、ヴィルツがトップのボルハ・イグレシアスに入れて落としたボールを、パラシオスが受けて際どいシュートを放った。

どちらもゴールにならなかったが、パスの出し入れで相手を動かし、ライン間に入る、もしくは裏まで走る、という連動を90分間にわたって続けていた。結果、打つも打ったりシュートは30本以上。リードを許すも、相手の体力を相当に削っていたのだろう。結果、相手を一人少ない状況に陥らせ、終盤の猛攻で逆転に成功した。

「縦パスを入れ、戻し、相手を動かし、そのスペースに次々に人が入って、ゴールに迫る」

その特性を言語化はできるが、言うは易し。実現できているチームは少ない。ライン間で技術の高い選手がボールを受け、ターンで来ただけで、サッカーは本来チャンスになる。

最近は戦術用語を持ち出し、複雑化する人が多いが、シャビ・アロンソ監督は単純化することで、誰にもできないことをやってのけつつある。

残り20分での逆転劇は一つの奇跡だが、必然の論理で生み出された景色と言えるだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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