「ボイジャー1号」のデータが読み取り不能になっている原因をNASAが特定 修復には楽観的

アメリカ航空宇宙局(NASA)が1977年に打ち上げた惑星探査機「ボイジャー1号(Voyager 1)」は、2023年11月から読み取り不能な状態のデータを送信するトラブルを抱えています。

このトラブルに関して、NASAは2024年4月4日付の公式ブログへの投稿で、問題が発生したコンピューターのメモリの一部が破損していることが原因だと断定したと公表しました。問題解決には数週間から数か月かかる可能性があるものの、NASAは壊れたメモリを経由せずにデータを読み出せる方法を見つけられると楽観的な見方を示しています。

【▲ 図1: 深宇宙を進むボイジャー1号のイメージ図 (Credit: Caltech & NASA-JPL) 】

■運用開始から46年経過した「ボイジャー1号」

NASAの惑星探査機「ボイジャー1号」は、予定されていた木星と土星の探査を終えた後も、太陽系外縁部に関する貴重な科学観測データを送信し続けています。深宇宙に新たな探査機を送ることは費用も時間もかかるため、ボイジャー1号をできるだけ長く運用させる努力が続けられているのです。

しかし、電源として搭載されている原子力電池(放射性同位体熱電気転換器)の出力が低下し続けていることや、遠く離れた探査機と通信を行うNASAの通信網「ディープ・スペース・ネットワーク」でも通信できなくなるほど信号が弱くなることから、開始から46年が経過したボイジャー1号のミッションは2025年から2036年のどこかで終了すると予測されています。

また、半世紀近く作動し続けているボイジャー1号は探査機自体が少しずつ劣化しており、そのために運用状況に問題が生じることもありました。2022年5月には無意味な信号が送信される問題が発生しており、この時は「姿勢および関節制御システム(AACS: Attitude and Articulation Control Subsystem)」が何年も前に稼働を停止したオンボードコンピューターを経由してデータを送信したことで、無意味な信号が生成されてしまったことが原因だと突き止められました。

このように書くだけでは伝わりにくいかもしれませんが、半世紀も前の技術で作られたレガシーシステムであるボイジャー1号で起きている問題の原因を突き止めて解消する作業は困難です。問題解決のために送信されたコマンドが別の致命的な問題を招いてしまう恐れがあることから、予期せぬ結果を避けるためには当時書かれた膨大な資料を読み込まなければなりません。それに、ボイジャー1号は現在地球から約240億km離れており、送信したコマンドがボイジャー1号に届くまでに約22.5時間、直ちに応答が返されても受信するまでには約45時間かかるため、原因の特定と対処にはどうしても長い時間が必要となります。

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■FDSから意味不明なデータが送信されるトラブルが発生

【▲ 図2: ボイジャーに搭載されたFDSの外観写真(Credit: NASA-JPL) 】

AACSの問題が解決してから1年4か月ほど後、NASAは2023年12月12日付の公式ブログへの投稿にて、ボイジャー1号の通信内容に別の問題が発生していることを公表しました。

問題が発生したのはボイジャー1号に3台搭載されているコンピューターの1つ「フライトデータシステム(FDS: Flight Data System)」です。FDSはボイジャー1号が観測した科学データや探査機の状態に関する工学データを「テレメトリ変調ユニット(TMU: Telemetry Modulation Unit)」というサブシステムを介して地球へと送信しています。

ところが、ボイジャー1号のTMUは2023年11月から、0と1が繰り返される意味不明なバイナリーデータを送信していました。問題の原因がTMU側ではなくFDS側にあることを突き止めた技術チームは、FDSを再起動して問題が起きる前の状態に戻すことを試みたものの、問題は解消されませんでした。そこで、技術チームはもっと根本的な部分に問題が起きている可能性を考慮して原因究明を進めました。

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■原因はチップの一部破損と断定

NASAはこの問題に関して、2024年3月13日付の公式ブログへの投稿で、FDSを構成するメモリ全体の読み出しデータを受信したことを公表しました。このデータはFDSのシーケンス実行に問題が生じた場合に備えてソフトウェア内にある別のシーケンスを実行する「poke」と呼ばれるコマンドを同年3月1日に送信した後、同年3月3日に受信されました。

受信したデータは正常時のFDSのデータとは異なる形式だったため、ボイジャーのミッションチームは当初その内容を解釈できませんでした。しかし、ディープ・スペース・ネットワークの技術チームが解読したところ、FDSのコードや変数、科学・工学データといった、FDSのメモリ全体の読み出しが含まれていることが同年3月10日に突き止められました。この結果、問題が発生する前のFDSのデータと比較することで、FDSのどこに問題が生じているのかを突き止められるようになりました。

そして、NASAは同年4月4日付の公式ブログへの投稿で、FDSのメモリの約3%が破損し、通常の動作を行えなくなっていることを突き止めたと発表しました。破損の原因はメモリを構成するチップの1つが機能していないためではないかと推定されています。機能停止の原因まではわかっていないものの、運用開始から46年が経過したことによる経年劣化か、宇宙線などの高エネルギー粒子による物理的な破壊の可能性が挙げられています。

原因を断定することができたため、技術チームは問題解決に向けて使用できないメモリを経由せずにFDSからデータを読み出す方法を模索しています。数週間から数か月かかるかもしれませんが、NASAは修復は可能であるという楽観的な見方を示しています。

Source

  • Naomi Hartono. “Engineers Pinpoint Cause of Voyager 1 Issue, Are Working on Solution”. (NASA)
  • Denise Hill. “NASA Engineers Make Progress Toward Understanding Voyager 1 Issue”. (NASA)
  • Miles Hatfield. “Engineers Working to Resolve Issue With Voyager 1 Computer”. (NASA)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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