大宮高校 安元利充監督#1「どの生徒も、始めたことは最後までやり切れる」【文蹴両道】

大宮・安元利充監督

 1927年(昭和2年)創立の大宮高校は浦和高校、浦和第一女子高校とともに埼玉の公立御三家と呼ばれる男女共学の進学校だ。91年に設置された募集40人の理数科は、今年の入試でも最終倍率が2.07倍で最も高かった。東大には今春、浦和の44人に次いで県内2位タイの19人が合格した。

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 野球部は埼玉を代表する古豪で、春夏通じて7度の甲子園出場は公立校では上尾と並んで最多だ。67年の国民体育大会(現国民スポーツ大会)では、硬式野球高校の部で初優勝したほか数多くのプロ野球選手も輩出している。

 サッカー部の安元利充監督は浦和市立(現市立浦和)のOBで、参加校が48校に定着した第62回全国高校選手権に主将として出場し、ベスト8進出。4月で就任10年目を迎えた指揮官に、超難関校で活動する部と部員などについて尋ねた。

大宮・安元利充監督

――安元先生はこれまで桶川高校、浦和西高校、大宮工業高校に勤務されました。いずれも男女共学校ですが、大宮はこの3校とは全く校風が違いますね。

 学校のウェブサイトで校長先生がお話されているように、『チーム大宮』という言葉があります。みんながひとつになって学び合い、励まし合い、支え合い、時には競い合うのが大宮高校の特長ですね。とにかくみんな仲がいい。これまでの3校に比べると、そんなところに独特の校風を強く感じ取っています。勉強と部活動の両方に全力を注ぎ、うまく両立させている生徒ばかりで、部活動への加入率は実に94.9パーセント(昨年4月)で、運動部にせよ文化部にせよ入っていない生徒はほとんどいません。学校としても勉強と部活動の両立、自主自立の精神を養うことを目指しているんです。

――指折りの進学校にあって、どうやってサッカー部を強化し、選手を育てているのでしょうか?

 まず魅力ある人間に育てたいという思いが第一にあります。その次にサッカーに目を向ければ、「目指すところはここだぞ」というふうに、こちらから強く押し付けるのではなく、これだけ優秀な生徒が集まっていますから自分たちで目標を設定し、それに向かって試行錯誤、チャレンジしています。新チームが結成されると自分たちで最終ゴールを決め、目標を達成するためのスタイル構築も彼らが決めているんですね。赴任1年目にしても「さあやるぞ!」みたいに私だけ鼻息が荒くなったこともありませんし、何かをガラリと変えることもしませんでした。練習メニューこそ異なりますが、前任の小田川功先生がやってきたスタイルを生かしながら、少しずつ味付けしていきました。

大宮・安元利充監督

――考える力が備わっている生徒の集まりですから、より自主性を重視しているわけですね?

 これだけできる生徒たちばかりなので、その能力をしっかりと生かしたほうがチーム強化にもつながると考えています。言われたことだけを忠実に実行する指示待ち人間ではありません。自分たちでいろんなアイデアを出し合ったりすると、そこにプラスアルファも生まれてくると思います。

――文武の両立とはいえ優先順位はやはり勉学だと思いますが、このあたりはどう指導されているのでしょうか?

 全員が現役で最難関の大学合格を目指しているので、入部した時から3年間の計画を立てて励んでいます。3年生になってから慌てて机に向かっているようでは(志望校には)届かないので、1年生のうちにプランニングするように導いています。だいたい1、2年生で基礎固めをし、3年生で応用編に入っていくような形で取り組みます。結局のところ、部活動をしっかりと最後までやり切った生徒ほど、大学進学の実績も芳しいですね。それは先輩たちが示してくれています。6月のインターハイ予選で負けると3年生が引退する学校もありますが、うちは辞める選手が一人もいません。秋の全国高校選手権予選決勝トーナメントに進む目標を立てているので、そこまでは迷いなく突き進みます。

大宮・安元利充監督

――腕に覚えのある逸材も何人か入部してくるのですか?

 昔は浅黒くて筋肉質のスポーツマンタイプの選手もいましたが、最近は見かけなくなりましたね。クラブチームでやっていた選手は一人で、中体連出身者ばかりです。50メートル走で7秒かかるとか、高校からサッカーを始めたとか、テクニカルな選手も見当たりませんが、みんな楽しく最後まで一生懸命やり抜いてくれます。

――自分たちで考える力がありますから、「こんなことをやりたい」など選手からの要望も盛んなのでは?

 アプローチしてくることもたまにはありますが、基本的には自分たちで考えたことは自由にやりなさいと日頃から伝えているので、選手だけで試合に向けた話し合いもしますし、キャプテンが「明日の試合はこんなふうに戦おう」とグループLINEなどを使って考え方を共有しています。何も言わなくても選手同士で考えながらやっており、それに対して私から指示する必要もありませんのでそこは任せています。

――進学校で部活動に全力投球できる生徒というのは、勉強も私生活もしっかりしていますね。

 それは強く感じます。私はここで4校目ですが、これだけ部活動を辞めないというか貫き通す学校は初めてです。うちの生徒は体育祭や文化祭といった行事をはじめ、何にでも盛り上がるんです。遊ぶ時は遊ぶとか、どこに全力を注いだらいいのかよく理解しています。だからどの生徒も、始めたことは最後までやり切れるのでしょうね。

――サッカー部の代表的な1週間の流れはどんな感じですか?

 週に2日は休養日を設けていますから、日曜日に試合をすると月曜と木曜がオフになります。リーグ戦の最中や県予選を控えた時期ですと、戦術練習に時間を割き、試合で浮き彫りになった課題を徹底的に修正して次のゲームに臨みます。それ以外の時期はシーズンでテーマを掲げて取り組んでいます。1日の練習時間は概ね2時間半です。

――合同練習の後に自主トレもするのですか?

 いや、基本的にはやりません。やらせたい気持ちもありますが、生徒たちは県内各地から通っているので帰宅時間が遅くなってしまう選手も出てきます。帰ってからもやることがたくさんありますし、午後7時には校内から出るように指導しています。ただ稀ではありますが、昼間から練習をスタートできた時などは自主練習するケースも見られます。        

(文・写真=河野正)

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