【社説】跡地協議に日鉄不参加 地元軽視なら納得できない

 日本製鉄が撤退した瀬戸内製鉄所呉地区の跡地整備を巡り、新たな状況を迎えた。

 広島県が今月の開催を目指していた県、呉市、日鉄の3者協議に参加できないと同社が断りを入れてきたという。湯崎英彦知事が記者会見で明らかにし、不快感を示した。

 防衛省が提示する複合防衛拠点の案に注力したい。それが不参加の理由のようだ。既に社としてこの案に前向きな姿勢を示しており、いまさら自治体の議論には加わる気がないとでも言うのだろうか。世界有数の巨大企業なのに、地元軽視の姿勢だとすれば納得できない。

 会見の知事の踏み込んだ発言はもっともだ。製鉄所は地域の協力があって成立してきた。地域にとってベストの選択肢を考えることを、無視しないでほしい。日鉄の利害だけに注力しているように見えるのは残念だ、と。

 肝心の跡地所有者が参加しないなら協議の意義が問われかねない。県は引き続き参加を求めている。日鉄は方針を転換し、3者協議の場で言いたいことを伝えるべきだ。

 むろん国の方針を抜きにして跡地問題を語るのは現実的ではない。県のスタンスは本年度予算に計上した通り、産業用地としての利活用策を呉市とともに探る、というものだ。防衛省案も選択肢の一つと位置付けている。

 呉地域では重厚長大型の産業基盤が次々と撤退し、人口と雇用の減少に直面する。まちの未来を考える上でも、今こそ議論を尽くしておくべきだとするのは正論である。

 跡地約130ヘクタールを一括購入し、民間誘致を含む装備品の維持整備や製造基盤、防災拠点や部隊の活動基盤、港湾の機能を担うとする防衛省の構想は、いまだ具体性に欠く。弾薬庫整備も想定しているというが詳細な説明はない。

 そうした中で防衛省は2025年度予算に向けた夏の概算要求前後に、施設配置案の中間報告をする構えだ。国と日鉄だけで腹合わせをしていくつもりなのだろうか。

 基地と共存してきた呉の街には複合防衛拠点を歓迎する声もある。ずるずると結論が出ないまま跡地が塩漬けになるよりベターだとする冷めた受け止めもあろう。一方で基地機能の大幅な拡充になると懸念する意見も根強い。

 地域を置き去りにして結論ありきで押し切るのは許されまい。県は取りあえず防衛省案で示された「製造基盤」の具体的な説明を求めている。防衛省の方も跡地の土壌汚染対策で県、市の協力を望んでいるという。方向性のいかんにかかわらず情報をできる限り早く、詳しく示して課題を議論する開かれた姿勢が国にも、日鉄にも求められる。

 この製鉄所は4年前の閉鎖発表以来、地元への説明の不十分さが指摘された。知事の言う通り、旧日新製鋼の時代から市民に支えられ、雇用や消費で地域に貢献した歴史を思い起こしてほしい。後々に禍根を残さないためにも。

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