【没後47年】エルヴィス・プレスリーとジョン・レノンの“因縁”とは?『プリシラ』のエルヴィスは“光る君”!?「実は生きている」都市伝説映画も

『エルヴィス・オン・ツアー』© 1972 Turner Entertainment, Co and Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved.

1977年8月16日「エルヴィスが死んだ!」

――いまから47年前の1977年、エルヴィス・プレスリーが亡くなった時のインパクトを覚えている世代の映画批評家・音楽評論家というのも、少数派になってきたかもしれない。

1950年代、60年代に彼が素晴らしい曲の数々を発表し、くだらない映画の数々に出演していた時期こそリアルタイムでは知らないが、絶不調の時期を経て1969年にラスヴェガスのショーで大復活を遂げてから、そのライブ・ドキュメンタリー映画『エルヴィス オン ステージ』(1970年)、『エルヴィス・オン・ツアー』(1972年)が公開。1970年代に入ってからのエルヴィスは、ザ・ビートルズの解散と共に再びホットな話題の中心となっていたから、その絶頂期の突然の死――当時、ドーナツの食べ過ぎによる死と噂された――は、一般紙でも大きく報じられた。

様々な俳優たちが演じてきたエルヴィス、「実は生きていた?」都市伝説映画も

そのエルヴィスは、近年頻繁に映画で描かれている。エルヴィスの存在が遠い過去のものとなり、距離感が生まれてきたからかもしれないが、実際はその死後すぐの1979年に製作されたジョン・カーペンター監督、カート・ラッセル主演の『ザ・シンガー』(TV映画だが日本では劇場公開)を皮切りに、『Elvis And The Beauty Queen』(原題:1981年)ではドン・ジョンソン、『Great Balls Of Fire』(原題:1989年)ではマイケル・セント・ジェラルド、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)と『Protecting The King』(原題:2007年)ではピーター・ドブソン、『ウォーク・ハード ロックへの階段』(2008)ではジャック・ホワイトと、様々な俳優がコンスタントにそれぞれエルヴィスを演じてきた。

「実はエルヴィスは生きている」という都市伝説もまことしやかに語られてきて、その説に基づいた映画というのも結構ある。たとえば、ジョン・ランディス監督の『眠れぬ夜のために』(1984年)ではブルース・マッギルが「King Lives!」と車体に大きく書かれたキャデラックに乗り、晩年のプレスリーそっくりのコスプレ男(ヒロイン=ミシェル・ファイファーの弟役)で登場して笑わせたし、『グレイスランド』(1998年)ではハーヴェイ・カイテルが偽装死のあと放浪していた年老いたエルヴィスを演じている。『トゥルー・ロマンス』(1993年)にはヴァル・キルマー扮するエルヴィスの幻影が登場したし、ブルース・キャンベル主演の『プレスリー VS ミイラ男』(2002年)もエルヴィスは南部のとある老人ホームで今も余生を過ごしていた、という内容だった。

バズ・ラーマン監督『エルヴィス』はエルヴィス伝記映画の集大成か

1970年にエルヴィスがホワイトハウスを訪れてニクソン大統領と面会した事実に基づくTV映画が『エルヴィスとニクソン』(1997年)で、リック・ピーターズがエルヴィス役。同じ題材を劇映画にしたのが2016年製作の『エルヴィス&ニクソン(エルヴィスとニクソン ~写真に隠された真実~)』(日本ではPrime Videoで配信)で、こちらではマイケル・シャノンがエルヴィスに扮していた。

そして、数あるエルヴィス伝記物の決定版として『ムーラン・ルージュ』(2001年)のバズ・ラーマン監督が発表したのが、撮影時に19歳だった若手俳優オースティン・バトラーを主演に大抜擢した『エルヴィス』(2022年)だ。

本作は、無名のエルヴィスを見出してロックンロールのキングの座にまで押し上げたマネージャーにして、その稼ぎを搾取し、働き続けさせるために薬漬けにし、結果的に“エルヴィスを殺した男”という評価を突き付けられたトム・パーカー大佐(トム・ハンクス)の目を通してエルヴィスを描いていた。

口元が時おりエルヴィスに見えなくもないものの、目の感じが異なり似ているとは言い難いオースティン・バトラーだが、彼の地声とエルヴィス本人の声とをコンピュータで合成したこともあってか、歌唱シーンは聞きごたえがあり、黒人居住区で育ったために黒人音楽のR&Bを何よりも愛し、それをロックンロールに昇華させたエルヴィスの音楽的ルーツや立ち位置について判りやすく、かつエネルギッシュに描いていた。

ハンクスのパーカー大佐は戯画的に誇張されているが、『フォレスト・ガンプ/一期一会』では若き日のエルヴィスに腰のくねらせ方のヒントを与えたのが子役演じる若き日のガンプだったのだから、ハンクスのキャスティングは確信犯的なものだろう。

妻から見たエルヴィスの真実の姿とは? ソフィア・コッポラが描く最新作『プリシラ』

『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)、『オン・ザ・ロック』(2020年)で知られるソフィア・コッポラ監督の新作で、彼女のこれまでの作品の中で最高傑作との呼び声の高い『プリシラ』(2024年4月12日より公開)は、エルヴィスの年若き妻プリシラの視点で描いた作品。

プリシラ・プレスリーと言えば、エルヴィスの死後に女優デビューし『裸の銃を持つ男』シリーズ(1988年ほか)のヒロインを演じたことで知られるが、恥ずかしながら筆者は彼女とエルヴィスのなれそめを全く知らず、単にエルヴィスの愛を射止めたグルーピーの一人だったのだろう、くらいに思っていた。

だが、『プリシラ』を見て、ドイツでの軍隊生活の中でまだ高校生だった彼女を見初めたエルヴィスが、彼女の両親を説得してメンフィスの家に引き取り、学業をちゃんと終えるように支援し、卒業させるまでは身体の関係を持たずにいた事実を知った。――それはまるで、光源氏が山里でまだ幼女の紫の上を見出し、強引に連れ帰って手許で養育し、その後に妻にした「源氏物語」のような話ではないか!

エルヴィス役のジェイコブ・エロルディはカート・ラッセル以来最も適役だと思うが、それ以上に、プリシラに扮したケイリー・スピーニーがよい。全米で最も若い女性たちを熱狂させていたエルヴィスに見初められ、高校の同級生たちに「あれがエルヴィスの彼女よ!」などと陰口を叩かれながら学校に通っていた気持ちって、どんなだったろうと想像させて余りある。

“エルヴィスへの憧れ”から出発したザ・ビートルズの伝記映画と気になるその内容

バス・ラーマンの『エルヴィス』では、エルヴィスがビートルズのことを高く買っているように描かれていた。しかし『エルヴィス&ニクソン』と『プリシラ』では嫌悪しているように描いていた(特にジョン・レノンを)のが印象深かったが、実際、初めて訪米した際にビートルズはメンフィスのエルヴィス邸を訪れて、憧れのスターと初対面している。

その際に、エルヴィスは彼らのことを認めている証として「君たちのレコードを何枚か持っているよ」と言ったのに、レノンは「僕はあなたのは一枚も持っていない」と虚勢を張り、ギクシャクした対面だったという。後にレノンは自曲「God」で“I don’t believe in Elvis”と歌い、エルヴィスはレノンの反戦活動を「アメリカの若者を反体制的に扇動している」とニクソン大統領に訴えた。

……そしてエルヴィスは1977年に42歳で亡くなり、3年後の1980年にはレノンもまた40歳で殺害されている。この二人の関係を描いた映画というのも、きっといつか作られるに違いないだろう。

ところで、『007/スカイフォール』(2012年)、『007/スペクター』(2015年)のサム・メンデス監督が、ビートルズの4人それぞれの視点で描かれた長編ドキュメンタリー映画4作を撮ることが先ごろ発表された。

ポール、リンゴに加えて、ジョンとジョージの遺族も全面協力する予定だというそれらの作品は2027年の公開予定だが、さて、ジョン・レノン編にエルヴィスとの関係は出てくるのだろうか、と今から楽しみだ!

文:谷川建司

バズ・ラーマン監督『エルヴィス』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年4月放送

ソフィア・コッポラ監督『プリシラ』は2024年4月12日(金)より全国ロードショー

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