被災地では「処方箋」が手書きになるため事故が起こりやすくなる【クスリ社会を正しく暮らす】

緊急時にどのように業務を行うかといった訓練も必要

【クスリ社会を正しく暮らす】

前回お話ししたように、今年2月、薬剤師として、大きな地震があった能登での災害支援活動に参加しました。

災害時において、「処方箋」は手書きとなる場合が多くみられます。今回の被災地でも私が目にした災害処方箋はすべて手書きでした。普段であれば、ほとんどの医師はパソコンで処方箋を入力しているため、いきなり手書きになることでミスが起こりやすくなります。

また、薬剤師も普段は印刷されたきれいな処方箋しか見ていないので、読み間違いなどが起こるリスクがアップします。たとえば粉薬は、医師はその医薬品の「成分量」で考える場合が少なくありません。医師が言う「粉薬100ミリグラム」とは、「粉薬の成分が100ミリグラム」というケースが多くあるのです。

しかし、市販されている医薬品は10%顆粒や20%顆粒などがあり、10%顆粒は1グラム中に100ミリグラムの成分が含まれています。普段はパソコンに入力した段階で、1回1グラム(成分100ミリグラム)と計算されたものが処方箋に印刷されるのですが、これが手書きになると「100ミリグラム」とだけ記されていることがありえるのです。この場合、処方箋に記載されている通りに100ミリグラムを計量すると、成分としては10ミリグラムしか投与されない……といった事態が起こる可能性があるのです。

多くの場合は、成分の投与量が少なすぎて、薬剤師がおかしいなと気づくのですが、過去にこんな事例がありました。

抗てんかん薬の「バルプロ酸Na」は、通常は1回に成分量400~1200ミリグラム服用するのですが、この薬は40%顆粒なのです。ちょっとややこしいですが、40%顆粒だと製剤量としては1000~3000ミリグラムとなります。

医師が成分量としても製剤量としてもありえる量の「成分量1000ミリグラム」を処方した場合、通常なら「製剤量2500ミリグラムである」と処方箋に印刷されるのですが、手書きの場合は「1000ミリグラム」とだけ記載されてしまいます。薬剤師もおかしな量ではないので、気付かずに製剤量1000ミリグラムとして調剤すると、成分としては400ミリグラムしか投与されない、という事故が生じてしまうのです。これが原因となり、患者さんがてんかん発作を起こしてしまったケースを耳にしたことがあります。

他にも粉薬を計量した後、分包機がない場合は粉薬を1回分ずつ薬包紙という紙で包んでいくのですが、若い世代の薬剤師の中にはやったことがないという方もいます。

緊急時、モノが当たり前に揃っていない状況でどのように業務を行うか、といった訓練も普段から行うことが大切かもしれません。

(荒川隆之/薬剤師)

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