日本の路上喫煙禁止は「いいアイデア」 外国人愛煙家、厳しいルールに困惑も…滞在中に納得する理由

日本の喫煙環境について考えを教えてくれたアダムさん(左)とアメリアさん【写真:ENCOUNT編集部】

外国人観光客が見た「日本の喫煙事情」、デンマーク&クロアチア編

訪日外国人の増加が止まらない。今年2月の外国人旅行者は推計278万8000人(日本政府観光局発表)で、同月の過去最多を記録。2023年2月が約147万5000人だったことを考えると、この1年での急速な伸びが一目瞭然となっている。自国とは異なる日本独自の文化や風景に魅了される外国人観光客が増えるなか、街中の喫煙所では海外から来た愛煙家の姿も目立つようになった。彼らは日本でタバコを吸う上で、どのような感想を抱いているのか。東京・渋谷の喫煙所にいたデンマーク人カップルとクロアチア人男性を直撃した。

平日の昼下がり、渋谷のスクランブル交差点には多くの外国人観光客の姿があった。信号が青に変わるとスマートフォンを片手に歩き出し、思い思いのポーズで記念撮影。今や東京の街を象徴する一大観光スポットになっている。

その一角の歩道上に、高い壁で仕切られたエリアがある。渋谷区が設置している喫煙所だ。同区では2019年4月に「渋谷区喫煙ルール」を制定。屋外の公共の場所(区内の道路・公園・広場・その他公共の場所)が終日禁煙となり、違反した場合は過料(2000円)の対象となるため、決して広いとは言えない喫煙所に次々と人が吸い込まれていく。

その中に観光客と見られる外国人愛煙家の姿があった。彼らは日本の喫煙環境について、率直にどのように感じているのか。

「とても制限されているね」と語ったのは、喫煙所の中で長身がひと際目立っていたアダムさん。同じく喫煙者であるアメリアさんと一緒にデンマークから2か月に及ぶバケーションへ出発し、日本を初訪問。東京、飛騨高山、京都、大阪を回り、その後はベトナムとタイに行く予定だという。

アメリアさんは日本について「街が本当にきれい。そして、とっても人が多いわね」と語ると、喫煙環境について母国と比較しながら違いを明かした。

「デンマークとは大違いよ。デンマークでは路上でたばこが吸えるし、オープンカフェでも吸えるの。ただし、屋内での喫煙は厳禁。たまに喫煙可のバーがあるけど、それだけ。以前は室内でも喫煙エリアがあって、そこで吸えたんだけど、だいぶ変わったの」

屋外で自由に喫煙できる母国とのルールの違いに戸惑い、初めて訪れた異国の地で喫煙所を探すのに苦労しているとのことだが、それでもアメリアさんは「悪いことばかりでもないのよ」と切り出し、言葉を続ける。

「私たち、禁煙しようかって話もしているから。禁煙するのは難しいけど、吸える場所が見つからなければ、必然的にたばこの量は減るでしょ? 実際、減っているしね」

日本のさまざまなエリアで導入されている路上喫煙禁止のルールが、たばこ本数の減少につながっているというアメリアさんの見解に、アダムさんも「日本のやり方のほうが、利点が多いように思う。健康面を考えても、良いことが多いんじゃないかな」と同意。さらにアメリアさんは「たぶん、多くの人にとって(屋外での分煙は)便利な方法だと思うの。例えばデンマークでは、たばこを嫌いな人が副流煙(火をつけたたばこの先端から立ち上る煙)を吸っても『それは煙のあるところにいた、あなたの責任でしょ』ってなるけど、しっかり分煙された日本であれば、たばこが嫌いな人は副流煙を吸わなくて済むし、副流煙は喫煙者だけの問題になるでしょ」と語り、日本のやり方に好意的な見解を述べていた。

日本の分煙化は「あるべき姿」と語ったエリクさん【写真:ENCOUNT編集部】

母国クロアチアは「屋内での喫煙は選択肢にすら入らない」

もう1人、渋谷スクランブル交差点の喫煙所から出てきたところで話を聞いたのが、気さくな人柄のクロアチア人男性、エリクさんだ。

すでに日本に3週間滞在しており、東京、名古屋、京都、大阪、沖縄を巡った。日本の文化は「とてもユニーク」と語った上で、「食事は世界で最高レベルだと思う。僕は41か国を訪問したことがあるけれど、食事に感動したのは3か国だけ。ベトナム、トルコ、そして日本。独自の食文化があるし、日本ならではのスパイスもたくさんあっていいね」と絶賛した。

そして「日本はどこでもきれいだね。クリーンな国で本当にいい。街中の道がこれだけきれいって最高だよ」と、歩道の上を指差しながら笑顔を見せる。一方で、喫煙者としての滞在のしやすさについて問うと、「う~ん、少し大変な面もある。この通り、道にはゴミ1つ落ちていないし、灰皿もないからね」と路上喫煙禁止のルールに本音を明かした。

「クロアチアは外ならどこでもタバコが吸える。でも、建物の中は一切禁止。レストランやバーでは吸えないけれど、路上はオーケー。東京は(路上喫煙禁止だが)ホテルの部屋では吸えるし、レストランでも吸えるところがある。すごく不思議だなと。クロアチアでは屋内での喫煙は選択肢にすら入らないから、ホテルでも屋外に出て吸わないといけないんだ」

母国の喫煙ルールとの違いをそう説明したエリクさんだが、「ただ、クロアチアは小さな国だから人口も少ないし、路上で吸っても大したことではない。逆に日本は人口が多いから、路上での喫煙を許すと大変なことになるんだろうね」と指摘。そして分煙化を推進する日本の動きについて「あるべき姿だと思うよ」と理解を示した。

「だって、吸いたくない人は吸いたくないんだから。いいアイデアだと思う。喫煙者は嫌煙者をリスペクトするべきだし、守らなくてはいけない。喫煙者は自分の意思で煙を吸っているけど、嫌煙家が副流煙を吸ってしまうのは自分の意思とは関係のないこと。だから、喫煙者を隔離するのは仕方のないことだと思う。僕は何の不満もないね」

デンマーク、クロアチアという欧州2か国から来た外国人喫煙者は、ともに母国とのルールの違い、とりわけ路上喫煙禁止に戸惑いを見せていたものの、それが日本の美しい街の風景を支えていることに納得した様子だった。喫煙所のさらなる整備が進めば、外国人愛煙家にとって日本への旅はより快適なものになりそうだ。ENCOUNT編集部

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