『ゆるキャン△』は静かに高揚させる 登場人物たちと共有する旅の醍醐味

キャンプや旅行に最適なシーズンになった今こそ読んでほしい!

漫画年数百の漫画を読む筆者が、時事に沿った漫画を新作・旧作問わず取り上げる本連載「漫画百景」。

第二十四景目は『ゆるキャン△』です。

4月4日からTVアニメの第3期が放送開始となり、春を迎えて新学期へ──いつもの主人公メンバーたちに新入生も加わって、さらに賑やかになるようです。

そんなアニメの原作を、今読むべき漫画として紹介します!

あfろ原作の人気キャンプ漫画『ゆるキャン△』

『ゆるキャン△』は、あfろさんによる漫画作品です。芳文社の漫画誌『まんがタイムきららフォワード』で2015年に連載開始。

2019年から同社の漫画アプリ・COMIC FUZに移籍し連載されています。番外編のショート漫画『へやキャン△』もCOMIC FUZに掲載中です(現在は休載)。

アニメは2018年にTVシリーズ第1期、2021年に第2期、2022年に劇場アニメ、そして2024年4月から第3期が放送。実写のTVドラマも2期まで制作・放送されています。

キャンプ関連はもちろん、作中の主な舞台となる山梨県ほか、地方自治体とのコラボも多い人気作品です。

なお、TVアニメの放送を記念して、COMIC FUZでは現在6巻まで完全無料公開中。未読の方は今がチャンスです。

『ゆるキャン△』のあらすじと主な登場人物

『ゆるキャン△』の主人公は、1人でキャンプするソロキャンプが趣味の志摩リン(しまりん)と、キャンプ初心者の各務原なでしこ(かがみはらなでしこ)。山梨県の同じ高校に通う2人です。

わけあって本栖湖から家に帰れず困り果てていたなでしこを、リンが助ける1話から物語がはじまります。

なでしこはリンに触発されてキャンプに興味を持ち、高校のまったり系アウトドア同好会・野外活動サークル(通称・野クル)に入部。

部員の大垣千明(おおがきちあき)、犬山あおい(いぬやまあおい)、そしてリンの友人・斉藤恵那(さいとうえな)と、グループキャンプを楽しむようになっていきます。

ソロとグループ、徒歩やバイクなどキャンプの楽しさを包括的に描く

本作はリンのソロキャンプ視点と、なでしこたち野クル組のグループキャンプ視点を交互に繰り返し、両方のキャンプの楽しみ方を見せていくのが主な流れです。

合間でキャンプに最低限必要なもの、焚き火の起こし方、キャンプに欠かせない寝袋やアウトドアチェアなどの解説コーナーが挟まるため、キャンプの簡単な知識を得られる側面も。

また、リンはバイク。野クル組は徒歩、自転車、車、電車やバスなどの公共交通機関を使いキャンプ場を目指すのが基本で、交通手段によって異なるキャンプ、ひいては旅の楽しみ方も別個で描写されます。

バイクなら、ツーリングキャンプはもちろん気ままな一人旅にも適しており、かつ道中の景色も楽しみの一つであることがよくわかるようになっています。

自分と向き合う時間が多いソロと、友人たちとの時間が多いグループのそれぞれの良さ、交通手段別の道中の楽しみなど、同じキャンプの枠組みのなかでも枝分かれするこだわり・スタイルを、各キャラクターの個性に沿って包括的に描き出しているのが、『ゆるキャン△』の大きな特徴です。

キャンプをしていない日常があるからこそ面白い

『ゆるキャン△』は文字通りゆるい作風のキャンプ漫画なのですが、実はキャンプをしていない場面も多いです。

主な登場人物は学生なので当然学業がありますし、時間はあっても使えるお金が豊富なわけではないので、活動資金を工面するためにバイトに勤しんだりしています。

頑張ってバイトしたお金で少しずつキャンプ用品を買い揃えていったり、旅先で地元の名産を味わったり、お土産を買ったりと、等身大の高校生らしさに親近感を覚えやすい。

はたまた、どこのキャンプ場に行って、現地で何をするのかといった計画を立てるところからエピソードがはじまるため、登場人物たちのワクワクに共感しやすい。

旅は計画を立てているときからはじまっていて、この時すでに、どこか静かに高揚している。そんな気持ちを、誰もが一度は味わったことがあると思います。遠足前日のなかなか寝つけない夜のような、あの感覚を登場人物たちと共有できるのです。

キャンプだけではなく、日常を織り交ぜているからこそ、実際にキャンプに行く時のエピソードがより際立ちます。

予期せぬトラブルや出会いも余すことなく描く

キャンプ場へ行くまでの道程で起こるトラブルや、現地に着いた後のちょっとしたアクシデントも『ゆるキャン△』ではよく描写されます。

お目当ての温泉や宿泊する予定だったキャンプ場が休業していたり、道が凍結して通れない、何らかの事情で道路が通行止めになっているなんて場面があります。

実際に旅をしていると、予定通りに事が運ばないことはよくありますよね。十分な下調べをしたつもりでもそう。インターネットで調べたり、各所への問い合わせをした限りでは知り得なかった事にぶつかるわけです。

その度に自分たちで足を動かし考え事態を乗り切ったり、起きたことはしょうがないと受け入れて遠回りや寄り道を楽しんだり、あるいは人との出会いに恵まれて助けてもらったり。経験はないでしょうか?

そうした旅先での予期せぬ出来事と出会いを作中に積極的に取り入れることで、登場人物たちの情感をリアルに感じ取れるようになっています。ままならない状況も、旅の醍醐味だと教えてくれるのです。

外出しやすい春にはたまらない、旅テロ&飯テロ漫画

最後に言及しておかねばならないのが、全国各地の施設や観光地を色々な角度から丁寧に描いている点です。

見開きで見せる絶景の富士山や高台からの展望・夜景はその代表格。ほかにも何気ない道、林間や湖畔など様々なキャンプ場のロケーション、温泉に寺社、桜の名所など、実在する場所が多く登場します。

作者のあfろさんは『ゆるキャン△』の制作のために、モデルにする場所を複数回に渡って訪れ取材しているそうで、この時に撮影した大量の写真が作画の元になっているようです。

付随して、各地のご当地グルメもばっちり描かれています。色とりどりのキャンプご飯に、地場産の食材を使った美味しそうな料理もたくさん出てくる。地酒ももれなく付いてくる。旅したくなるし、お腹が減る、旅テロ&飯テロ漫画です。

キャンプに旅行に最適なシーズンになった今こそ読んでみてください。

© 株式会社カイユウ