混乱…断捨離して入った“ケアハウス”突然の廃止、理由を聞いた男性「理不尽」 人生最後の決断で入所した女性「ばかにしている」 仲間と楽しく暮らす“ついのすみか”破壊、「どっか行けと言われても」女性が涙

約70人が入所するケアハウス「ぎんもくせい」。「見沼田んぼの桜回廊」が近く、屋上からは富士山を望めるという=7日、さいたま市緑区馬場

 埼玉県さいたま市は、民間参入や老朽化を理由に、高齢者福祉の複合施設「グリーンヒルうらわ」(緑区)の廃止方針を決定した。同施設のケアハウス(軽費老人ホーム)「ぎんもくせい」を2030年3月末に廃止する予定。約70人の入所者らは突然の廃止方針に、「ついのすみかと思っていた。混乱し不安を感じている」「先が見えず途方に暮れている」と訴えた。反対の署名活動をして、市に見直しを求める要望書を近く提出する。

 市高齢福祉課によると、公設民営方式による高齢者福祉サービスについて、民間事業者の参入や施設の老朽化の課題から見直しを検討した。1993年に開設されたグリーンヒルうらわは、年間約2億2千万円の指定管理料や老朽化による修繕費が必要とされる。民間参入により、市側は「公設で運営する意義が薄れている」と説明。市議会6月定例会に関連する改正条例議案を提出するとしている。

 市は指定管理者の市社会福祉事業団と連携して、他の施設への転所を調整する方針。清水勇人市長は3月12日の定例会見で、「大変不安な状況が続いていると思う。不安な状態を一日も早く解消すべく、さまざま事情を伺いながら、移転先をしっかり確保していきたい」と述べた。

 市は昨年11月に廃止方針を決定。今年2月16日、市議会保健福祉委員会に概要を報告した。直後の2月25日、3月1、2日に計6回の説明会が開かれ、入所者らは「廃止」の説明を初めて受けた。

 2016年に夫妻で入所した男性(72)は「景色がよく、事務所の人が優しく対応してくれる。すごく楽しく暮らしていた」。説明会で廃止方針を初めて知り、「ついのすみかと思って入所した。非常に混乱し不安。話の進め方にも問題があると思っている」と訴えた。男性の妻(76)は「さいたま市の福祉のシンボルだと思っていた。入所者の気持ちを無視し、なくすのは福祉の破壊」と強調した。

 6年前に入所した女性(82)は、人生最後の決断だったという。「老人をばかにしている。子育て世代に予算を使いたいのは分かるけど、私たちも税金をちゃんと納めてきた。見放さないでほしい」

 入所から間もない人もいる。昨年2月に入所した男性(76)は「断捨離をして入ったので、ただただびっくりしている。市が公設で運営する意義が薄れたという理由は理不尽」。昨年4月に入所した男性(83)は「突然の発表で途方に暮れている。白紙撤回か、廃止をもう少し先に延ばしてほしい」と求めた。

 ケアハウスは無料か低額の自立型の施設。ぎんもくせいは前年度の所得に応じて、入所費用は月額8万~10万円台という。元職人の男性(81)は「安い賃金で四苦八苦しながら生活し、ここにたどり着いた。少ない年金しか受け取っていない。移転先を示してもらわないと不安」と話した。

 卓球や折り紙、カラオケなどのサークル活動も行われ、コミュニティーが確立している。女性(68)は「みんなと楽しく暮らしてきた。どっか行けと言われても、(転所先で)仲良くできるか分からない。絶対に廃止にしてほしくない」と涙声で訴えた。

 入所者の有志6人が説明会後、反対の署名活動をして、大多数の入所者が署名した。市長宛ての要望書と署名を近く市に提出する。施設を取材で訪れた時は、入所者約30人が集まり、不安な気持ちを語り、白紙撤回を求めた。

 市はこのほか、グリーンヒルうらわの介護老人保健施設「きんもくせい」やデイサービスセンターなどを25年3月に廃止する方針。

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