高校サッカー試合中落雷事故「予兆なく発生」も指導教諭らは注意義務違反? 悲劇防ぐ 「ためらわない」判断力

なんの予兆もなくズドンも…。「まぁ大丈夫」はリスク大(やえざくら / PIXTA)

宮崎市内で3日、高校サッカーの練習試合中にグラウンドで落雷があり、18人が救急搬送され、うち1人が意識不明となっている。現場には当時、雷注意報が発令されていたが、現場の教員らは把握していなかったという。雨でも決行されるサッカーは、部活動中の落雷事故が後を絶たず、日本スポーツ協会(JSPO)も、「スポーツリスクマネジメントの実践―スポーツ事故の防止と法的責任―」としてマニュアルも作成している。

基本的に雨天決行のスポーツ、サッカーは特に落雷事故に遭うケースが少なくない。JSPOが発行するマニュアルの冒頭に出てくるトピックも、1996年8月に大阪で起こった高校サッカーの試合中の落雷事故だ。事故では生徒一人が意識不明の重体となった。

そこには、事故後の裁判のことも記載されている。<裁判では、「平均的なスポーツ指導者ならば、黒く固まった雷雲が立ち込め、雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていたら、落雷の危険性が迫っていると予見することは可能」と指摘されました>

この裁判は結局、差し戻し審までもつれた末、大会の運営担当の学校と主催者の体育協会の責任を認め、総額約4億8000万円の支払いを命じている。一般的な科学的知見をもとに、引率教諭の予見可能性、回避義務を認定し、注意義務違反とした。

リスクマネジメント実践の4つのポイント

こうしたことを教訓に、JSPOはスポーツにおけるリスクマネジメントの重要性を示すべくマニュアルを作成。マニュアルにはリスクマネジメント実践における4つのポイントが示されている。

  • 事故事例をできるだけ多く知る
  • 「まぁ、いいか」をなくす
  • 事故発生時には最悪を想定した行動をとる
  • 治療費や慰謝料の支払いに備えて保険をかける(賠償責任保険)

要は、事故に備え、十分な事前準備をしておく。そして、迷ったら安全を選択するということだ。

とはいえ、今回の事案では学校側は、「雷が鳴った際は練習を中断する」とマニュアルに定めていた。ところが落雷はほとんど予兆なく発生したという。

ネット上では「突然は避けようない」「やる方がおかしい」の声が混在

ネット上のコメント欄には「雷鳴がないのに突然落雷があったら避けようがない。防ぐには雷注意報が出てる時は練習や試合を中断するくらいしかない」「注意報が出てる時は安全なところに、なんてやってたら仕事やスポーツだと何もできない時が多すぎる事になり現実的でないです」との声も多かった。

一方で、「雨が降ってて雷注意報出ていたんだから、いつ雷落ちてもおかしくない状況でしょ!こんな状況でサッカーさせるほうがおかしい!」「中断イコール中止になるよね。練習試合とのことで難しい判断だろうし、結果論だけど、中止にしなきゃいけなかったんだろう」という意見もみられた。

同マニュアルには「スポーツ事故発⽣時の法的責任」についての解説もあり、「事故が発生した場合、民事責任や刑事責任を、指導者等の個人またはクラブが問われることになります。 クラブに法人格がない場合、民事責任は個人が問われます。 集合から解散(管理下)までが、クラブの責任です」と記され、具体的な事例なども紹介されている。

文科省は「ためらわず」中止決断を要請

スポーツにおける事故には競技中の直接的なものだけでなく、さまざまなケースがあり、今回の天災のように予測が難しいものもある。その際、重要となるのが決行か否かの判断力だ。

万一があった場合、指導者等や運営担当が大きな責任を負う。それを踏まえれば、早すぎるくらいでも中止を決断する。それが最悪の事態を防ぐ最善の選択といえるだろう。今回の事故を受け、文科省は5日、落雷の兆候があれば、ためらわずに屋外での活動を中止するよう、全国の教育委員会に通知で要請した。

なお、冒頭の1996年の事故で落雷が直撃した生徒(当時16歳)はその後、心肺停止30分から電気ショックで蘇生。そこから2カ月間意識不明が続き、両目失明、下半身機能全廃、言語障害など重度障害を負ったが、リハビリを経て7年8カ月後に盲学校高等部に入部。「不断の努力」で大学への入学も果たしている。

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