焦点:円安けん制、利上げ連想に飛び火も 重み増す巧みな手綱さばき

Takaya Yamaguchi Kentaro Sugiyama

[東京 10日 ロイター] - 為替円安を受けて通貨当局のけん制発言が目立ってきた。ただ、強すぎる口先介入は日銀による追加利上げの連想を誘発し、景気回復の流れに水を差すリスクもはらむ。止まらない円安と、金利上昇両にらみの巧みな手綱さばきは、これまで以上に重みを増しそうだ。

<高まる実弾介入観測>

「あらゆるオプション(選択肢)を排除せず、断固たる措置をとっていきたい」。鈴木俊一財務相は3月27日、円が一時34年ぶりとなる節目の1ドル=152円台に迫る中、こう語気を強めた。

あえて明言することはしないが、「断固たる措置」という文言には実弾介入も含まれ、やや円安に振れたぐらいでは使わない。実弾介入に踏み切った2022年秋以降は、事実上封印されてきた。その後も当局からのけん制発言は続き、高い緊張感を持って為替の動向を注視する姿勢そのものは崩していない。

足元の為替相場は、1ドル=152円に迫ると膠着感が強まる展開を繰り返している。これがかえって「上抜けした場合はかなり円安に振れ、1ドル=152円台では済まなくなる可能性があり、先手を打って介入する蓋然性が高い」(大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジスト)との見方につながっている。

米商品先物取引委員会(CFTC)が5日発表した「IMM通貨先物の非商業(投機)部門の取組」(2日時点)に基づき、ロイターが集計したところ、円の売り持ち(円ショート)は14万3230枚と13年12月以来の高水準だった。前週の12万9106枚からも、さらに増えている。

こうした現状に対し「(介入条件となり得る)投機の動きが関与しているのは明らか」と、政府関係者の1人は言う。

<金利上昇に漂う不安>

他方で、「当局が円安阻止を強調すればするほど日銀の追加利上げも含めて政策が総動員されるとみる市場参加者がいてもおかしくはない」(経済官庁幹部)との声も、政府内にはある。強い口先介入を繰り返すことで、追加利上げが早期に織り込まれ、消費マインドに影響する可能性も懸念される。

日銀は3月18、19両日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策とイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)を解除するのと併せ、当面は、緩和的な金融環境を維持する姿勢を強調した。

政策スタンスを巡って首相周辺の1人は「一定の評価をしている。基本的に、その考えをもとに(金融政策が)進められると受け止めている」と語る。

内閣府が8日発表した3月の景気ウオッチャー調査では、景気の現状判断DIが前月から1.5ポイント低下し、49.8となった。景気判断そのものは据え置かれたが、異次元緩和からの決別後初めての調査では、金利上昇に伴う住宅や自動車販売への先行き不安も聞かれた。

「岸田官邸が貸出金利を跳ねさせてでも、この円安を何とかしてほしいとは言わないのではないか」と、別の政府関係者は話す。この関係者は「追加利上げは国民生活への影響という意味で重みが異なり、政府・日銀の間でより密な意思疎通が必要だ」としている。

(山口貴也、杉山健太郎 編集:橋本浩)

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