「酒は百薬の長」は過去の話…2018年の研究で明らかになった、“もっとも長生きできる飲酒量”は?【医師が告白】

(※写真はイメージです/PIXTA)

中国古代の史書『漢書』に記載された「酒は百薬の長」という言葉。実際、研究結果としても「まったく飲酒をしない人よりも少量飲んでいるほうが死亡リスクが低い」というデータがあり、「少量飲んだほうが健康」だと信じられてきました。しかし、それを覆す最新の研究結果があると、『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(KADOKAWA)著者で医師の尾形哲氏はいいます。飲酒と健康の関係について、詳しくみていきましょう。

「酒は百薬の長」は過去の話!?

出典:『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(KADOKAWA)より抜粋
漫画:松本麻希 出典:『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(KADOKAWA)より抜粋
漫画:松本麻希

「少量の飲酒なら体によい」と信じられてきたが…

中国古代の史書『漢書』に記載された「酒は百薬の長」という言葉は、酒好きの人の救いになっているかもしれません。

この言葉を裏付けるように、“まったく飲酒をしない人よりも、少量の飲酒をする人のほうが死亡リスクが低い”ことが示されたデータがあります(図表1)。

[図表1]飲酒量と死亡リスク 出所:Holman CD,et al. Med J A ust. 1996; 164:141-145.
『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(KADOKAWA)より抜粋

このデータは海外の14の研究を解析した研究で、横軸に飲酒量を、縦軸に死亡率をとっていて、グラフの形状がJの字になることから、「Jカーブ効果」と呼ばれることもあります。この研究結果が、長年、少量の飲酒なら体によいと信じられる根拠になってきました。

2018年の研究が示す「健康のためには飲酒量ゼロがベスト」の根拠

しかし、2018年に医学雑誌『ランセット』に報告されたアルコールと疾病罹患リスクに関する研究は、これらの主張を完全に否定しました。

1990〜2016年に発表された、195の国と地域のデータが掲載された約600の論文を集めて分析を行い、“健康のためには、飲酒量はゼロがよい”と示したのです(図表2)。

[図表2]飲酒量とアルコール関連疾患のリスクの関係 出所:GBD 2016 Alcohol Collaborators, The Lancet. 2018; 3 92:1015-1035.
『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(KADOKAWA)より抜粋

この研究結果でも、心疾患については少量の飲酒で発症リスクを抑える効果があるとされましたが、がんや脳梗塞などの疾患リスクは少量の飲酒でも高まるので、心疾患の予防効果が相殺されると結論づけています。

病気の予防には飲酒ゼロがベストですが、人生を楽しむために上手にお酒と付き合いたいですね。

肝臓だけじゃない!お酒の飲みすぎがリスクになる病気

お酒は円滑なコミュニケーションをもたらしたり、リラックス効果がある一方、慢性的な飲みすぎは健康への悪影響を及ぼします。

肝臓や胃などの消化器のほか、神経、筋肉、循環器など全身のさまざまな臓器にも障害を引き起こす可能性があります

アルコールはがんの発症リスクを高める危険因子としても知られています。世界保健機関(WHO)は、アルコールは60種類以上の病気の原因であり、200種以上の病気やけがに関連すると報告しています。

【肝臓のほかに注意したい臓器】

食道
……咽頭同様に、唾液中の細菌によって生じたアセトアルデヒドが食道の粘膜をがん化させることがあります。特にお酒を飲んで赤くなる人にリスクが高いので、飲みすぎには注意が必要です。

咽頭
……アルコールが肝臓で分解されるときに生じる毒性の高いアセトアルデヒドは、唾液中の細菌によって生じることも。多量の飲酒で、咽頭にアセトアルデヒドが増えるとがんの原因に。

乳房
……飲酒をする人のほうが、乳がんの罹患リスクは高くなります。乳がんは女性ホルモンのエストロゲンの刺激が影響しますが、飲酒によってエストロゲンの濃度が上昇すると考えられています。

大腸
……飲酒量が増えるにつれて、大腸がんのリスクが高まります。国立がん研究センター発表の「がんのリスク・予防要因 評価一覧」でも、飲酒はリスクとして「確実」と評価しています。

[図表3]飲酒でリスクが上がる病気 出典:『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(KADOKAWA)より抜粋

尾形 哲
医師
一般社団法人日本NASH研究所 代表理事

© 株式会社幻冬舎ゴールドオンライン