南海電鉄「2200系」が、グリーンの復刻塗装ではるばる銚子にやって来た

  【汐留鉄道倶楽部】「ぬれ煎餅」「まずい棒」などのヒット商品や、さまざまなエンタメ企画で話題を提供する銚子電鉄(銚電、千葉県銚子市)で、南海電鉄から譲渡された2200系改め22000形の運用が始まった。「純粋な鉄道ファン(?)」にもアピールするニュースを受け、関東最東端の6・4キロを走るミニ私鉄に足を運んだ。

 試運転や出発式を終え、営業運転開始は3月29日に設定された。当コラムの締め切りと仕事との兼ね合いを考えると、訪問のチャンスは翌30日のみ。しかし残念なことに、当初から「30日は運行なし」との告知があった。それでも仲ノ町駅併設の車庫は150円払えば見学できるため、今回は停車中の新顔をあらゆる角度から撮影することにした。ちなみに当面の運行は午前7時台、8時台の各1往復のみで、遠方からの撮り鉄、乗り鉄には厳しい時間設定となっている。

銚電の現役車両そろい踏み。手前から仲ノ町駅に到着した2000形2002編成、車庫の敷地に停車中の22000形と3000形。2000形と3000形は京王電鉄から伊予鉄道を経て銚電入りした車両のため、今回の22000形デビューでは「中古の中古でない車両の導入は約30年ぶり」と〝新しさ〟をアピールしている

 12時ちょうどに特急「しおさい3号」で銚子駅着。駅前のコンビニで昼食を買い、隣の仲ノ町駅まで歩いた。青空が広がってまさに撮影日和、しかし22000形は走らない…。近くの醤油工場から漂う香りに包まれながら歩いていると、お目当ての緑色の電車が見えてきた。まだ汚れておらず新車のよう。写真を撮りやすい場所に止まっていてまずはほっとした。

 銚電の資料などによると、22000形2両編成は南海22000系(モハ22007―モハ22008)として1969年製造。橋本(和歌山県)以南の山岳区間を含む高野線で運用された後、2200系への改造(モハ2202―モハ2252に改番)を経て多奈川線などの支線で運行していた。筆者も3度の大阪勤務時代に南海の支線は何度か訪問していたので、当時撮影した2200系の車番を丹念に確認したところ、20年前の2004年4月に汐見橋駅(大阪市浪速区)で撮った車両に「2252」の車番が確認できた。

 20年前の塗装は既に現在の南海電車のものだが、銚電への移籍に当たり、デビュー当時の「オリエンタルグリーンの車体にエメラルドグリーンの帯」を復元。車番も22007―22008に戻している。愛称は南海時代の「ズームカー」から「シニアモーターカー」に変わった。

22000形はパンタグラフを上げ、コンプレッサーを動かしていた。サプライズの構内運転を期待したが、ドアの開け閉めにとどまった

 銚電は「オリジナルカラー」にこだわりがあるのか、22000形との入れ替わりで引退した元京王電鉄の2000形2001編成(デハ2001―クハ2501)も、愛媛県の伊予鉄道を経て銚子電鉄に来てしばらくは、京王時代のライトグリーン塗装だった。かつて在籍していた元営団地下鉄の車両も、銀座線の黄色、丸ノ内線の赤色に塗られていた時代があった。

 もちろん、色を塗り替えただけで新天地を走れるわけではない。1両の長さは17メートルと小型で問題ないが、大手私鉄の架線電圧は主に1500ボルトのため、600ボルトの銚電に合致する車両の選定は困難を極めたという。そんな中で、両方の電圧に対応できる仕様で落成した南海2200系が、改造により運行可能と判断された。2両のうちの1両は電装解除し、モーターなしとなった。

汐見橋駅で撮影した「2252」が「22008」になった。貫通扉の増結用「幌枠」は受け継がれており、いいアクセントになっている

 車両の説明が長くなってしまったが、銚電グッズであふれる仲ノ町駅の切符売り場で車庫見学の入場券を買おうとすると「車両検査実施のため、1月9日から3月31日まで車庫見学中止」の張り紙が。これは全くの想定外だった。車両の近くに行けなくなり、線路際やホームからの限られたアングルで撮影するしかなかった。4月1日以降の車庫見学は「土、日、祝日のみとさせていただきます。ご了承ください」との掲示も。これから銚電を訪問する方はご注意ください。

 そもそも仲ノ町の車庫で長居する予定ではなかった。というのも、鉄道会社のそれとは思えない銚電のホームページ(最も目立つのが「オンラインショップ」)で、「電車を止めるな! 銚子電鉄が作った映画 絶賛公開中」のバナーを見つけていたから。変電所の更新費用を捻出するため、クラウドファンディングで製作費を募り、2020年8月に公開された映画を、仲ノ町の一つ先の観音駅に近い「圓福寺」で毎日上映しているという。せっかくの機会なので、15時からの上映を見てから帰る計画を立てていた。

 それまで時間があったので、仲ノ町駅で購入した「南海電車2200形入線記念」の一日乗車券を使って犬吠駅のおみやげ売り場へ。売り上げの7割を占めるという「ぬれ煎餅」、累計500万本以上を売り上げた「まずい棒」のほか、新食感の「グミせんべい」、原材料費の上昇などでまずい棒の価格を改定した「きまずい棒」などの新商品も。前回6年前の訪問時においしくいただいた「鯖威張る(サバイバル)弁当」がなくなっていたのは少し残念だった。

 観音駅に戻り、歩いて圓福寺へ。上映を告知するポスターなど何もない。とりあえず寺務所で映画を見に来たと伝えると、なぜか帳面に名前と電話番号を書くよう言われた。2000円の鑑賞券を購入し、本堂の中を通って案内された「上映室」は、10畳以上ある和室2部屋を使い、中央に鎮座したプロジェクターから大きなスクリーンに映写するスタイル。椅子は8席用意されていたが、上映開始時間に座っていたのは筆者1人だけだった。

上は今回使用した一日乗車券(弧廻手形)、下は弧廻手形付き映画鑑賞券

 内容はネタバレになるので詳しくは書けないが、銚電に走らせた「心霊電車」を舞台にしたホラー映画。突っ込みどころ満載、奇想天外なストーリーのエンタメ映画と言ってしまえばそれまでだが、銚電のドキュメンタリー的な部分もあり、コウガシノブさん演じる社長が「銚電はいつもふざけたことばかりしていると言われるけど、俺たちは真剣にふざけているんだ。目的はただ一つ、鉄道を存続させることだ。たとえ古びた傷だらけの電車でも、そこに無限の可能性を信じて前進を続けること以外、俺たちの生きる道はない」という力強いセリフに「銚電イズム」があふれていた。

  「まずい棒」の企画プロデュース、「電車を止めるな!」の原作、脚本を担当した寺井広樹氏の著書「廃線寸前!銚子電鉄 〝超極貧〟赤字鉄道の底力」(2021年・交通新聞社)によると、「いざ撮った映像を見てみると、なぜかちっとも怖くない」となり、新型コロナで日本中が大騒ぎになる直前に追加の撮影をしたという。その甲斐があったか、数々の心霊現象の描写の完成度は高かった。真っ暗なお寺の部屋で1人で見るというシュールな状況も、お化けをよりリアルに感じるのに一役買ったかもしれない。

 経営難からの回復を目指す銚電は昨年、開業100周年を迎えた。2021年度、22年度は2期連続で黒字を達成。新たな車両も導入して〝上り調子〟の銚子電鉄だ。鑑賞券を購入した際に「映画が終わってから見てほしい」という銚電の竹本勝紀社長のメッセージとともに渡された封筒を、帰りの「しおさい14号」の中で開けてみた。感謝と決意が綴られた社長手書きの便せん1枚と、映画の中のエピソードにも絡む新しい焼き菓子「おとうさんのぼうし」が一つ入っていた。チョコレート風味の生地にメロン味がトッピングされておいしかった。

 映画の鑑賞券には、有効期限のない銚電の一日乗車券がついていた。22000形が昼間の運用に入ったら、その切符を使って君ケ浜駅の周りのキャベツ畑を入れて撮影しようと思う。それが筆者にとって8度目の銚電訪問になる。

 ☆共同通信・藤戸浩一 6年前に銚電を取り上げた当コラム(「まずい棒」は銚子電鉄を救うか)で、首都圏から銚子へは「えきねっと列車限定割引 トクだ値40」を使うと特急「しおさい」の指定席が、普通運賃のみとほぼ同額で利用できると記した。今回もそれで行くつもりだったが、適用がないどころか「しおさい」を含む房総特急が「全車指定席」になっていて驚いた。自由席を基準にすると「値上げ」となるが、着席を保証するため、との狙いには納得するしかない。筆者が知らなかっただけで、既に首都圏の他の在来線特急では実施済みだった。

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