「文明開化」の雰囲気を味わえる!一級建築士が絶賛する、京都〈岡崎公園〉周辺の名建築10選

(※写真はイメージです/PIXTA)

岡崎公園周辺には、京都府立図書館をはじめ、世界各国の様式を取り入れた名建築を目にすることができます。今も残る文明開化の香りを、周辺を散歩することで感じてみましょう。建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、見どころを解説します。

京都の「文明開化」は岡崎から始まった

[写真1]京都府立図書館 出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

岡崎公園周辺は、武田五一や伊東忠太などそうそうたる建築家が登場する盛りだくさんな場所である。とくに京都市京セラ美術館は見逃せない。外観だけではなく、内部もほぼ竣工当時の姿を守っているのがうれしい。京都府立図書館は解体の危機にあったが、広範な保存運動の結果、外壁だけが保存された幸運な建物である。当時は全体を残して欲しいと強く願っていたが、今考えてみれば外壁だけでもよく残ったものだ。武田五一の最初期の作品のひとつで、ウイーン分離派の香りのする佳品である。

01.土蔵風のレンガ造洋館は必見!山県有朋の別荘「無鄰菴」

地下鉄東山駅から北東方向にある無鄰菴(むりんあん)は、明治時代の政治家山県有朋の別荘である。川治兵衛の作庭で知られ、洋館部分は土蔵造りのような外観だがレンガ造だ。最初、山県は無鄰菴を故郷の山口県で建てた。となりが見えないほど遠かったのでこの名があるという。公開されているので見学しておきたい。庭園に面した和館座敷はカフェとなっている。

[写真2]無鄰菴 洋館1898年 新家孝正 京都市左京区南禅寺塩草町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

02.屋上の八角塔まで“東洋コレクション”!「藤井斉成会有鄰館第一館」

仁王門通りを西へ向かった藤井斉成会有鄰館第一館は、実業家藤井善助の東洋美術のコレクションで有名な美術館で、建物も東洋風にまとめられている。バルコニー下の雲形の片持ち梁や玄関アーチの龍のレリーフなどおもしろい建物だ。少し離れて見れば、この建物が旧島津本社のようにスパニッシュスタイルをベースにしていることがわかる。スパニッシュに東洋趣味を散りばめる自由さが武田らしい。左右対称でないところも武田の作風だ。ちなみに屋上の八角塔も藤井のコレクションのひとつである。

[写真3]藤井斉成会有鄰館 第一館1926年 武田五一 京都市左京区岡崎円勝寺町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

03.ファサード保存された武田五一の最初期の代表作「京都府立図書館」

疏水(そすい)を渡って岡崎公園内ひとつ目は、武田五一の最初期の作品、京都府立図書館だ。図書館の向かいにある京都市京セラ美術館の場所には、元は陳列館と呼ばれる展示施設があり、武田は陳列館と図書館をセットで設計している。どちらもウイーン分離派を思わせる優美な建築だった。白い外壁に金色のラインが入り、まるでウイーンのカールスプラッツ駅のカラーコーディネートと同じだ。ウイーン分離派スタイルは当時の日本の若い建築家の心を捉えたが、とくに武田は当事者たちとの交流もあったためか、終生そのスタイルを大切に使った。

[写真4]京都府立図書館1909年 武田五一京都市左京区岡崎円勝寺町9
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

04.和風とモダニズムの融合「京都市京セラ美術館」

図書館向かいの京都市京セラ美術館は、2020年にリニューアルオープンした。改修設計は公募の結果、青木淳と西澤徹夫のふたりの建築家チームの案が採用された。正面玄関前を掘り下げて、新たに地下玄関を設けている。中央の天井の高い展示室をエントランスホールに作り変え、地下から直接上がるようにした。美術館としての機能を上げながら、外観も内装もほぼ昔のままなのがうれしい。正面玄関吹き抜けの天井ステンドグラスも健在である。照明器具も古いものが残っており、見ごたえがある。

[写真5]京都市京セラ美術館(旧京都市美術館)1933 年(2020 年改修) 前田健二郎、京都市営繕課、(改修設計:青木淳、西澤徹夫) 京都市左京区岡崎成勝寺町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

まだまだある!岡崎公園周辺の名建築

05.近代建築の再生事例「ロームシアター京都」

ロームシアター京都は京都会館に大幅な改修が加えられて本格的なオペラ劇場として2016年に再オープンした。中庭の回廊部分にガラスのカーテンウォールを立てて内部に取り込んだ。ガラス壁を使ったのは、元のデザインがガラス越しに見えるようにしたためだ。

[写真6]ロームシアター京都(旧京都会館)1960年 前川國男京都市左京区岡崎最勝寺町13
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

06.コンクリートで表現された和風建築「旧京都市公会堂東館」

ロームシアターの東隣の旧京都市公会堂東館は、大きな屋根や玄関の唐から破風をコンクリートで再現している。滋賀県の旧琵琶湖ホテルもそうだが、この時代には和風をほぼそのままコンクリートで表現できるようになっている。玄関ホールもよく残っているので、見て欲しい。

[写真7]京都市美術館 別館(旧京都市公会堂 東館)
1931年 京都市営繕課 京都市左京区岡崎最勝寺町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

07.随所に息づく宮中建築「平安神宮」

岡崎公園の中心、平安神宮は、明治時代における和風の本格的な取り組みのひとつだ。ご承知のように、この建物は遷都1100年を記念した博覧会のために大極殿を模して作られたパビリオンで、その後神社に改造された。

左右の特徴的な塔は鼓楼と鐘楼だと思われ、青龍と白虎の名前が付いている。屋根が緑釉瓦なのも好ましい。青や緑は春を寿ぐ色だからだ。左右に腕を伸ばして中庭を抱え込むような平面プランは、宇治の平等院のように龍穴を守るかたちである。龍穴とは気の出入りする大地の穴のことだ。やはり宮中建築の伝統が生かされたのであろう。

[写真8]平安神宮
1895年 木子清敬、伊東忠太 京都市左京区岡崎西天王町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

08.松室重光の最初期の和風建築「京都市武道センター」

平安神宮の西にある京都市武道センターは、松室重光のほぼ最初期の作品だ。当時の若手の建築家は、最初に和風に取り組むことが多い。伊東忠太の平安神宮、長野宇平治の奈良県庁、武田五一の勧銀本店などだ。まず和風を覚えさせるのが、師である辰野金吾の教育方針だったのかも知れない。

[写真9]京都市武道センター(旧武徳殿)
1899年 松室重光 京都市左京区聖護院円頓美町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

09.今なお現役の小さな発電所「関西電力夷川発電所」

疏水沿いに西へ進むと関西電力夷川(えびすがわ)発電所があるが、この小さな発電所が今も現役だというから驚きだ。しかも1890年に設置された発電機が1992-93年に取り替えられるまで使われたというからなおさら驚く。琵琶湖からやってきた船は、この閘門で水位を下げて鴨川運河へ移ることができる。その閘門を動かす電力を自前でまかなっていたのではなかったろうか。

[写真10]関西電力 夷川発電所
1914年 設計者不詳 京都市左京区聖護院蓮華蔵
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

10.インド様式の不思議模様「旧京都市立新洞小学校」

京阪三条駅に戻る手前のここ旧京都市立新洞小学校もなかなか良い校舎である。外からではよく見えないが、玄関まわりとその上の2本の柱に守られた窓に特徴がある。柱頭部には不思議な模様があるが、これも京都市役所営繕課の得意なインド模様なのだろう。今も大事に使われている校舎を見るのは気持ちがいいものだ。

[写真11]旧京都市立新洞小学校
1929年 京都市営繕課 京都市左京区仁王門通新東洞院西入ル 新東洞院町
出所:『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ増補改訂版』(エクスナレッジ)より抜粋

円満字 洋介
建築家

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