体操・杉原愛子が開発 性被害対策と実用性を兼ねた「新型ユニホーム」で業界に新風吹き込む【パリ五輪を目指す注目女子アスリートの履歴書】

「アイタード」を着用する杉原(C)日刊ゲンダイ

【パリ五輪を目指す注目女子アスリートの履歴書】

杉原愛子(24歳/株式会社TRyAS)=体操(第3回)

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東京五輪を終え、やはり、大勢の観客の前で演技をしてから競技生活に一区切りをつけたい。そう決意して臨んだ2022年6月の全日本種目別選手権(ゆか)に出場し、銀メダルで有終の美を飾った。

「選手活動に未練はありませんでした。翌春に武庫川女子大の卒業を控えていて、セカンドキャリアのことも考えていました。それならちょうどいいと。でも、その1年後にこうして復帰しているんですけどね(笑)」

表舞台を去った期間に「株式会社TRyAS」を起業。現役復帰した現在はパリ五輪を目指して練習に励みつつ、社長業との二足のわらじを履いている。

「起業もそうで、誰もやっていないことに挑戦するのが好きなんです。パイオニアになりたいし、後進のためのロールモデルになることへの憧れもあります」

こう話す杉原は体操界に革命を起こそうとしている。

女子アスリートに対する性的画像問題が顕在化している昨今、体操選手が標的にされることも少なくない。体操協会や大会運営側の“盗撮”取り締まりにも限界があり、アスリート側が泣き寝入りするか、自衛策を取らざるを得ないのが現状だ。

そこで杉原がプロデュースしたのがレオタードならぬ、「アイタード」。馴染みのあるハイレグとは異なり、太もも上部までカバーするように裾がついている。

体操はユニホームに厳しい規定が設けられているが、これは「国際基準」をクリアしている新モデルだ。性被害対策はもちろん、実用性も兼ねている。

■「レオタード」がスタンダードになりすぎている

「体操と生理は切り離せない問題です。体操では大会中だけでなく、練習中にナプキンをつけていたら、『はみ出しているかも』と不安になる選手は多いはず。それでは演技に100%の集中はできません。アイタードならそんな心配を取り除いてくれます。私も使い始めてからは不安が一切なくなりました」

東京五輪ではドイツ代表が足首まで裾のあるロングスパッツタイプの「ユニタード」を着用して大きな注目を集めた。しかし、空中で足を掴む際などに手が滑り、大事故につながる危険性は否定できない。

これを理由に杉原は感心しつつも着用を検討すらしなかった。

「だからこそアイタードは選手たちに新しい選択肢を示せると思っています。生地が増える分だけ価格はレオタードよりも少し高いけど、普段の練習でスパッツをはいている選手なら、その費用を抑えられてトントンになる。昨年12月に販売開始したばかりですが、幼い娘がレオタードで演技することに抵抗のあったという親御さんから、『安心して着させられる』といううれしい声も頂きました」

アイタードは体操ユニホームの製作会社「オリンストーン」のウェブサイト上からでも注文できる。

「今まで誰も思いつかなかった理由ですか? レオタードが当たり前になりすぎているからだと思います。私も会社を起こして外部の人の意見を聞いたり、一歩離れて業界を見ていなければ、アイタードは生まれていなかったと思います」 (つづく)

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