猪子寿之がアート活動できるのは「“青春の魔法モデル”のおかげ」 成田悠輔がチームラボのビジネスモデルに迫る

経済学者・成田悠輔が番組MCを務める対談番組『夜明け前のPLAYERS』。第14夜の対談相手は、『森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス』を制作したteamLab(チームラボ)の代表・猪子寿之。2人はオープン前のミュージアムを見学し、アートについて語り合い、話題はチームラボの成り立ちやビジネスモデルにも至った。

チームラボは、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索する国際的で学際的なアート集団だ。アーティスト、プログラマー、エンジニア、CGアニメーター、数学者、建築家などさまざまな分野のスペシャリストから構成され、2001年から活動。本ミュージアムの前身となる東京・お台場の『チームラボボーダレス』は2019年、来館者数において単一アート・グループとして世界で最も来館者が多い美術館として世界記録に認定されている。

チームラボの作品になぜ人は集まるのか? 成功の秘訣(ひけつ)を成田が深掘り

チームラボボーダレスのみならず、チームラボが展開するどのアート展、ミュージアムにも多くの来館者が訪れていることに成田は「(アートという側面以外に)娯楽やエンタメとしてのチームラボ作品、というのも本質的なんじゃないか」と猪子に問う。

“娯楽やエンタメ”の定義を「何か多くの人の心をつかんでしまうモノ。多くの人の足を動かしてしまうモノ」とした場合、アートと呼ばれるものの多くは良くも悪くも「すごくニッチでエリート的で、選ばれた特殊な人たちの趣味になってしまいがちだが、チームラボの作品には、普通の人がデートのために来る。それを可能にしているものは何なのか」と成田は気になっていたらしい。

「確かに……」と少し考えた猪子は、「人は、見たこともない世界、もしくは知らない世界で、かつそれが美しいならば、しかもそれが知らない美しさならば、見たいんじゃないですかね」と回答。

「でも」と食い下がる成田。前日に観た前衛的な舞踏に感動した経験を例に「“知らない美しさ”を提供しているモノの中で、なぜか多くの人を呼び寄せてしまうモノとそうでないモノがあると思う。特に、突き詰めているモノはニッチになりがちになるにもかかわらず、チームラボが違うのはなぜなのか」とにじり寄った。

猪子は、コンテキスト(文脈や背景)が前提になっているモノか、人間の認識や認知の原理に触れるモノかの違いがあるのではないかと言う。

「例えば、ヨーロッパに脈々と続く哲学のようなコンテキストが前提の作品だと、コンテキストを共有していないと面白くない」。一方、ルネサンス期に登場した“写実的に絵を描く”ということには前提となるコンテキストはなく「誰にでも適用できるものだ」と言う。「そういう認識の原理に触れるものは、当時はエリート層には批判されたかもしれないけれど皆が夢中になった。夢中になるというのは、十二分にエンタメだと言えますよね」と分析した。

成田は、原理のほうが適用できる人の数が圧倒的に多く、数百年・数千年単位で人間の中に生き続けることを挙げて「それをチームラボの作品は別の原理に関してやろうとしているのかな」と自問。「そういうのにすごく興味があるし、そういうことをやっていけたらいいなとこっそり思っています」と猪子が加えた。

もうかっていますか? 幼なじみと親友と事業を始めたことが「僕の最もラッキーだったこと」

凡人には理解を超える会話だが2人は納得した様子。そこで成田は経済学者らしい質問を投げる。「多くの人を引き付けた結果、もうかっていますか」。

「いやいやいや、全くもうかってないですよ。見たでしょう。作っている装置を」と猪子。「確かにコストも半端ないですよね」と同意する成田だが、「もうかっているか」と聞いたのはチームラボのビジネスモデルに興味があったからだ。

「入場料ですね」と猪子。「(チームラボを)始めた時、さっきの話のようなことを他の人たちが興味を持つとは思っていなかったし、それがコンテンツとして成り立つとも思っていなかった。だからそれ(アート的な活動)で経済的に成り立たせようということは全く思っていなくて」と話し出す。

ただ「自分はどういうふうに世界を認識したいか、もしくはどう認識しているかを知りたい」といった欲求があり「お金にならないけれど自分にとっては意味があるからやろうみたいな感じで、それは夜にやって、昼間はテクノロジーやクリエーションみたいなものを企業に提供してご飯を食べられたり、家賃を払えたりしたらいいなと思っていた」と猪子。

「僕が最もラッキーだったのは、地元の幼なじみと大学の親友とチームラボを始めたことですね。何かの目的を共有してビジネスをやろうというのではなく、一緒にいたいから一緒に始めたんです」と振り返る。

チームラボの収益の基本は、デジタルテクノロジーを企業に提供する事業であり、メンバーの7、8割もその事業に携わっているという。そういった組織が猪子のアート活動の基盤になり、経済的にも、またシステムやテクノロジーに明るいといった面でも、さらにそれらを重要視するという企業文化的にもインフラになった。「そのおかげで作品が作れている」と猪子は感謝を口にした。

成田は「チームラボって多分、2000年以降に日本で始まった企業の中で、最もグローバル化した会社の1つじゃないですか。それがそういう“なんとなく企業”でスタートしたというのは素晴らしいです」と言い、「はっきりした目的や戦略を作っちゃったら、こんなところにはたどり着かないですね」と感嘆した。

猪子も「友だちと始められたのはほんとうに良かった」と言う。「青春時代ってちょっと魔法がかかっていると思うんですよ。だから価値観が違う人ともずっと一緒に入られるし、すごく一緒にいたいとも思う。言葉にしなくていい信頼関係がある。その延長みたいな感じでチームラボを始めたので、共同創業者たちはアートに関わっていないけれど、“いること”そのものを肯定し合える。“青春の魔法モデル”ですね」と笑った。

「(起業した当時の)ご自身にアドバイスをするとしたら?」と聞く成田に猪子は即座に「何ものでもない当時の自分にアドバイスするとしたら、それは“しない”だね」と答えた。

「なぜなら、こういうこと(現在行っているようなこと)をやりたいけれど、お金がないからお金は別で稼がなきゃいけないと思っていた。だから必死に企業のシステムを作っていたわけですよね。それはすごく遠回りだったけれども、基盤という意味ですごく積み上がった。生きるために夢中だったから、そういうこともできたわけですよ」と言うと、成田も「いいアドバイスですね」と深くうなずいた。

本対談は『夜明け前のPLAYERS』公式HPでノーカット版が、公式YouTubeでディレクターズカット版が配信されている。

「夜明け前のPLAYERS」
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