スウェーデンから「日本のラジオ聴こえたよ」とラジオ局に受信報告 長距離で電波が届いた要因とは

北極を中心に見た時の昼と夜

昨年(2023年)の11月、スウェーデンから、神戸のラジオ局に「ラジオの電波を受信した」という受信報告が届きました。これはインターネットラジオではなく、放送の電波を受信したとのこと。果たしてそんなに離れた場所からラジオを受信することは可能なのでしょうか? 普段はラジオを陰で支えている技術スタッフが、ラジオの長距離受信について、ラジオ番組の中で話しました。

【写真】「放送が聴こえたよ」と報告するとラジオ局からもらえる公式のカードがあるんです…「ベリカード」っていいます。

神戸のラジオ局・ラジオ関西のAM放送(558kHz)の電波は、主に近畿地方で受信することができ、深夜など、時間帯によっては東京や広島などでも聴くことができます。

そのなかで、8千キロ(km)以上離れた「スウェーデン」在住のリスナーから、「(2023年)11月1日の24時に、放送を受信した」という受信報告がラジオ関西に届いたのです。

このようなラジオの長距離受信には、「電離層」という地球の大気の層の状態が関係しています。この電離層で電波を反射し“偶然にも”普段は届かないような遠い場所までラジオの電波が届くことがあります。

鹿児島工業高等専門学校が運営する「宇宙天気ニュース」と呼ぶサイトでは、太陽活動と地球の電離層の状態などについて、科学的な観測や予測を提供しています。同サイトでは太陽風(太陽から噴き出る「プラズマ」と呼ぶ電気を帯びた粒子の嵐)の様子を、地球の手前150kmにある米国の衛星DSCOVR(ディスカバー)が観測した数字として見ることができます。

この数値を見ると、地球の電離層の状態をある程度推測することができます。スウェーデンから日本のラジオが聞こえたという2023年11月1日の深夜24時は、太陽風の速度が高く、多数のプラズマが地球の電離層へ届いている状態でした。この大気の状態は「電波が飛びやすい」と言われています。

この時間の太陽風の速度は470km/s(秒速)に達し、前後24時間では比較的高い速度でした。ただし、特に速かったわけではないようです(より高速な時は600~700km/sに達します)。なお、翌日の平常時は300km/s程度まで落ちました。

また電波を受信した時の日本は深夜24時ですが、スウェーデンは日没が近づく午後3時頃。そのため日本とスウェーデンでは電波を反射する電離層の高さや状態が変わります。これらの偶然が重なり、ラジオ関西の放送電波がスウェーデンへ到達しやすくなったと思われます。

このような状況になるタイミングは、めったに起こりえないかもしれませんし、明日また起きるかもしれません。目に見えない電波には不思議が多いのです。

※ラジオ関西『おしえて!サウンドエンジニア』2024年4月1日放送回より

(文=須藤達也 / 会社員のかたわら、ラジオの受信技術や電子工作を中心に雑誌やブログにてテクニカルライターを担当)

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