城福監督が万年J2だった東京Vを16年ぶりJ1昇格に導いた「理由」を告白

熱弁をふるう城福浩監督(右)と武田修宏氏

J1に復帰した東京Vの城福浩監督(63)はいかにチームを進化させたのか。16年ぶりの昇格を果たした名門クラブOBの元日本代表FW武田修宏氏(56)との対談。2回目は深刻な資金難により毎年、主力選手が大量流出する状況下でも、好チームをつくり上げられたのはイレブンに「我慢」を指導したからだという。

武田氏(以下武田)23年6月にプライベートで練習を見せていただいた。クオリティーも高く、厳しさもありました。普段の練習でやっていることの積み重ねが昇格プレーオフの勝利につながった思うんですけど、どんな風にチームの環境づくりをしていますか。

城福監督(以下城福)ヴェルディってやんちゃなイメージがあったんだけど、こちらが要求することを必死にやろうとする。それを結果につなげるのは練習で地道に積み上げること。いい局面もあれば悪い局面もある。そこで我慢することを練習で伝えた。それができればヴェルディらしいボールを大事にするとか、局面の勝負にこだわる姿勢とかをチームとして表現できるんじゃないかとやりながら感じた。

武田 我慢するのは大事なことですね。

城福 昨季J2で夏以降ずっと4位だったけど、終盤に連勝し最終節で3位になって、J1にも上がれた。我慢して積み上げていけば結果が出ることを選手も実感できたんじゃないか。今年も我慢してやり続ける。ラモス(瑠偉)、カズ(三浦知良)、武田、前園(真聖)と今のプレーヤーにとっては歴史に刻まれている選手がいたチームでした。今は成長途上の若い選手が泥くさくハードワークする「新しいヴェルディ」を目指している。彼らとともに新たな歴史をつくっていきたい。

武田 試合中は厳しい言葉も出ているけど、選手の力を120%、引き出していますよね。毎オフ、いい選手がお金のあるチームに引き抜かれているけど、それでも城福さんのつくるチームの選手は走れるし、頑張る。その秘訣は? やはり積み重ねと我慢ですか。

城福 練習においての密度やクオリティー、集中度は日本一でありたいと思っている。選手たちができることを試合で発揮できるように練習から同じ環境にして、それを日常にしてあげること。だから練習中に大きい声も出るわけですよ。

武田、今の時代、なかなか厳しくできないですけど、あえて緊張感をもたせることが重要だったんでしょうね。それがなかったらJ1に上がれなかったと思う。

城福 それに「昔はこうだった」と言っちゃいけない。社会も変わって自分も変わらないといけないのでロンド(ボール回し)の最初の鬼(ディフェンダー)を決めるときも「昨日髪を切った選手が鬼」とか「青いスパイクの選手が鬼を決めろ」とかね。そうすると選手たちが「今日は何を言うかな」って。若い選手に「こうやれ」と言っても本心でやり続けられるのか。それでメリハリはつけるようにしている。

武田 Jリーグの日本人指導者で最年長(63歳)なんですね。外国人では(J1札幌のミハイロ)ペトロビッチ監督が66歳で最年長になるけど世代交代が加速している現状をどう見ているのか。経験を積んだ指導者にしかできないこともあると思うんですよね。

城福 年齢との戦いでもある。サッカー界は若い方が良いとか欧州が新しいとされ、年を重ねると新しくないとみられる。若い指導者が台頭して来る中で(経験者の)僕は常に違いを見せないといけない。だからこそ受け持ったチームを変革できないと次がない。そのために彼らに響かせる努力はしている。例えば育成段階で使われているサッカー用語は一切、使わないよ。「チャレンジ&カバーだぞ」と言うよりは「靴一足分寄せろ」という表現をしている。

武田 城福さんや(J2熊本監督の)大木(武=62)さん、(J1名古屋監督の長谷川)健太(58)さんら世代の指導者が結果を出してくれないと(クラブは)すぐに若返りしたがるので(笑い)。たくさん経験してきた城福さんや健太さんたち指導者は独自の哲学、スタイルを持っているじゃないですか。誰が言おうと変えない。そういうのも大事ですよね。

城福 10年前は違うタイプだったけど、自分も成長しないと、チームを任せてもらえない。ただ当時を振り返ると、選手に自信をなくすような言い方をしてしまったときもあったし、申し訳ないなって。自分は未熟だったし、今ならフォローができた。ときどき、スタジアムで当時の選手と顔を合わすでしょ。そのときは心の中で「ごめんな」と言っている。

武田 今はヴェルディの監督。まずはここで頑張るのでしょうけど、自身の将来をどう描いていますか。

城福 サッカー界は宮本(恒靖)が協会会長になって、2、3世代は若返った。武田もわかるだろうけど、サッカーって変わるべきものと不変なものがある。自分の中にもあって、まずは「ヴェルディって、こういうチームだよね」って誰もが形容できるようなチームをつくりたい。それをやり遂げられれば、次のチャレンジが見えてくると思う。

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