【初年度は53人。昨年は32人】「最後の百名山に選ばれがち」光岳小屋によるアットホームな記録達成のお祝いとは

みんなで記念写真。富士山もお祝いしているようです!(撮影:小宮山花)

先日、若手小屋番奮闘記というテーマで、北アルプス蝶ヶ岳ヒュッテの中村梢さんと石丸謙二郎さんのNHKラジオ番組「山カフェ」にお邪魔しました。

小屋番になって体験したあれこれを、同世代の梢さんとお話し。生放送なので緊張して仕方なかったのですが、1時間ちょっとの時間は始まってみるとあっという間に過ぎていきました。

山は思わぬ出会いと経験を運んでくれます。番組の裏側を覗くことができ、業種は違えど刺激をもらって、渋谷の街からまだまだ寒い長野に帰りました。私たちテカリチームも今できることを張り切って進めなくては。「読むラジオ」でおしゃべりをのぞくことができます。ぜひ。

■昨年もたくさんの方が光岳で100座目を迎えました!

初めてくす玉でお祝いさせてもらったお二人!

言わずもがな光岳は深田久弥さんの百名山に選ばれた山である。そのおかげで光岳小屋を利用してくれる登山者の方がいて、静かな山も夏は少し賑やかになる。この山に登ってくる登山者の中には、百名山の完登を目指す方々も多い。よく耳に入ってくるお客さんの会話といえば、「残り、あと10座なんだ〜」とか「私はあとテカリと聖岳と幌尻岳」など、いよいよカウントダウンに突入している方や、「明日、100座目を光岳で迎える」という方も多い。

最後の1座を光岳にしようと大事にとっておいてくれたというより、残っちゃったんだよね〜という話をよく聞く。登山口までのアクセス、山頂までの標高差などで、とにかく遠かった! 辛かった!!! というわけで、なかには「なんでこの山が百名山なんだ!」と少しキレ気味の方もいらっしゃるのだから面白い。

光岳が百名山でも、百名山じゃなくても、私はこの山が好きだから「そんな言い方しなくてもいいじゃんか〜」と思うこともあるけれど、私にとっては記念すべき瞬間を一緒に迎えられることは嬉しいことだから、「最後にとっておいてくれてありがとうございます」とにやりと笑うようにしている。

■みんなでお祝いする時間は忙しい1日の楽しみ、スペシャルな時間だ

できたてほやほやのくす玉。お祝い初日は、なぜか私、自分で割ろうとしています……

百名山を登った方には、それぞれ100個の思い出があるはずだけど、最後の1座なんて嬉しい。なにか記念品を用意するのも良いかもしれないけれど、その時を一緒にお祝いしたいな、なにができるだろう。そんなことから始まったのが、くす玉を使ったお祝い計画だ。くす玉でお祝いといったら上等に聞こえるが、そんなに大きな声で言えない出来で恥ずかしい。なんてったって、まだザルのままだし。

昨年は準備に追われ、「今日こそ、くす玉を作りたい」と思いながら早一週間が経とうとした頃、テカリで百名山を達成するという熊本からのお客さんがやってきた。とうとうこの日が来たか! と食事の仕込みをスタッフに任せて、私はせっせとくす玉を作る。記念すべきくす玉1発目の熊本のおっちゃんは、前年に鳳凰小屋を訪れた時に出会っていた方だった。

宿泊者の皆さんの食事が済んだ頃を見計らい、いざお祝い。この日はなんと、「私も百座目なんですよ〜」という方がもう一人いらっしゃって、お二人もお祝いできたおめでたい日となった。

■いろんなドラマがあって面白い!

初年度は53人、昨年は32人皆さんのお祝いをすることができた。

なかでもひとつ、百名山を迎えるお兄さんのお祝いに、ご両親とご兄弟、5人家族でいらした夏の話を披露しましょう。

17時過ぎに到着したのは、お疲れ顔のお客さんだった。17時はちょうど食事の準備で忙しい時間帯で、「お疲れ様でした!」の声かけもそこそこに、先に夕食にしてください、なんて余裕のない感じで言ってしまう。まだまだ私は「管理人らしく」うまく振る舞うことができない。

食後にひと息ついてもらってから、受付や案内をしながら話を伺うと、コロナ化の影響もあって今日は2年ぶりに家族全員が揃ったとのこと。なんと、東京、浜松、アメリカはハワイとミネアポリスから2人が集合したというから驚いた。

飛行機が遅延して、日暮れまでに間に合うかわからなかったけど無事に辿りついてホッとした、と娘さん。お母さんは私がバテてしまって遅くなってしまってごめんなさい、と言う。

こちらこそなにも知らずにごめんなさい、ようこそお越しくださいました!

そんなに遠くから、家族みんなが集まってきてくれたのだ。そりゃあ時間かかりますね! と声を大にして言いたい。一体移動にどのくらいの時間がかかるだろう。前泊もしてと、と計算すると、今回の山行のために1週間くらいかかっているのでは?

家族みんなで仲良く、暮れてゆく空を眺めている姿を見て、少し羨ましくも思った。その日は夏の日には珍しく夕立もない穏やかな1日だった。

翌日、見送ったあともっと違う迎え方ができなかったのか、という後悔もあり、やっぱり余裕って大事だなと思うのだった。

この2年間は、たくさんの嬉しい瞬間に立ち会うことができて、おすそ分けをいただいた気持ちだ。いつも心に、ちょんと座っているような温かい気持ちがたまっていく。今年もどんな出会いがあるだろうか。

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