「小林製薬に製薬企業を名乗る資格はない」…薬が効くと信じ込ませる商法

小林製薬の公式サイトより

小林製薬が販売する「紅麹(べにこうじ)」の成分が含まれた健康食品を摂取し、その後に死亡した人が5人に上るなど(9日現在)健康被害が出ている問題。同社に医師から症例の報告が入ったのは1月15日であり、3月22日に自主回収を発表するまで2カ月以上かかっていたことがわかり、業界内からは「製薬企業を名乗る資格がない」という厳しい批判もあがっている。なぜ同社は対応が遅れたのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

小林製薬は先月22日、自社で製造する紅麹原料が含まれるサプリメントを摂取した人から腎疾患などの健康被害が確認されたとし、機能性表示食品「紅麹コレステヘルプ」など3商品を自主回収すると発表。いずれもコレステロールや血圧を下げる効果があるとされた商品だが、同商品を摂取した人に腎疾患の症状が発症し、一時は人工透析が必要となった人もいることが明らかとなった。

同社は紅麹原料の製造量のうち約8割を他の食品メーカーなどに供給しており、厚生労働省は28日、供給先の食品メーカーなど173事業者を公表。同省は全事業者に対し、過去3年間に医師から健康被害が報告された製品があるかなどについて自主点検した上で報告するよう求めていたが、被害が認められたという報告はなかった。

同社は「想定しない未知の成分が入っていた可能性がある」としていたが、同社と厚労省は29日、同社のサプリに青カビからつくられる天然化合物「プベルル酸」が含まれていたと発表。毒性は高く抗生物質としての特性があるが、腎疾患を引き起こすのかは不明。同社と厚労省は今後、毒性を評価していくが、プベルル酸に関する情報が少ないため、健康被害との関連があるかについては調査に数カ月程度かかるとされる。原因の究明が待たれるなか、今月3日には、プベルル酸が検出された紅麹サプリの紅麹原料はすべて同じ紅麹菌の株からつくられていたことが明らかになった。昨年に製造された紅麹原料33ロットのうち、プベルル酸が含まれていたのは10ロットのみであった。

9日現在、同社の紅麹サプリを摂取した後に入院した人はのべ212人、死亡した人は5人に上るが、同社に医師から腎疾患発症の報告があったのは1月15日のことだった。2月の1日と27日にもサプリにカビ毒である「シトリニン」が含まれているのではないかなどと問い合わせが入るなか、同社は2月5日に社内で対応を協議し、研究部門に対し原因の調査を指示。一部の紅麹菌株が生産する有毒物質であるシトリニンは検出されなかったため、同社は報告を入れた医師とも面談しながら、紅麹が生成する「米紅麹ポリケチド」やアレルギー反応による症状の可能性などを検証していたとされる。

そして3月に入り、16日には健康被害を起こした可能性がある商品はいずれも同じロットの原料を使用したものであることが判明。同社は18日に緊急対策本部会を開き、21日に消費者庁に一報。22日には消費者庁、厚生労働省と面談を行い、同日中に公表するに至ったが、この時点で医師から第一報が入ってから2カ月以上が経過していた。

薬剤師の小谷寿美子氏はいう。

「製造過程で想定しない成分が生じたのか、異物が混入したのか、現時点でも原因は不明ですが、ここ数年、製薬業界で品質不正問題が相次いでいるなか、自社の製品の摂取者から健康被害が出た時点で、速やかに自主回収すべきであったと考えられます。原因が特定されないという理由で情報を公開せずに販売を続けたことで、被害が拡大した可能性があり、大手製薬企業としての十分な感度を持っていたのかが疑問です」

製薬業界では品質不正が相次いでいる。2020年、後発薬(ジェネリック医薬品)メーカーの小林化工の経口抗菌剤(水虫薬)「イトラコナゾール錠」に睡眠導入剤の成分が混入し、服用者に意識消失や記憶喪失などの健康被害が起きていたことが判明。福井県から116日間の業務停止処分を受けた。日医工は21年、10年間にわたり出荷検査で不合格となった錠剤を砕いて再加工したり、再検査して出荷していたことが発覚。75品目を自主回収し、富山県から32日間の業務停止命令の処分を受け、経営悪化に伴い22年に事業再生ADRを申請した。

昨年10月にはジェネリック医薬品最大手の沢井製薬が、胃炎・胃潰瘍治療薬「テプレノンカプセル50mg『サワイ』」の品質確認検査で約8年にわたり不正を行っていたと発表した。承認を受けた手順とは異なり、カプセルから内容物を取り出して別の新しいカプセルに詰め替えた検体で溶出試験を行い、合否判定を行っていた。不適切な試験方法は社内の担当者の間で長年にわたり伝承されていた。

製薬メーカー関係者はいう。

「1~2月に医師から入った報告はいずれも腎疾患という点が一致しており、原因が不明ながらも紅麹アプリが何らかの健康被害を生じさせている可能性があることは十分に認識できたはず。少なくても2月1日に2回目の報告が入った段階で即座に自主回収を行うべきだった。少し前には他社の製薬メーカーで異物混入が問題となっていたことから、製薬企業であればそのリスクを察知して対応を取るべきであり、2カ月以上も情報を隠したというのは明らかに問題。これでは製薬企業を名乗る資格がない」

視点を変えて製品化して市場を開拓

小林製薬は社名に「製薬」と入っているものの、全社売上のうち医薬品事業の比率は低い。2023年12月期の国内事業の売上高1304億円のうち、医薬品事業のそれは339億円と、全体の約26%にすぎない。「消臭元」「Sawaday」「ブルーレット」「チン!してふくだけ」「かんたん洗浄丸」などの「衛生雑貨品」「芳香消臭剤」「家庭用品」からなる「日用品」カテゴリー(国内売上高490億円)のほうが売上規模としては大きく、「桐灰」のブランド名で知られるカイロも同社の主要商品となっている。

同社の医薬品は肩こり薬や水虫薬、二日酔い薬など、OTC医薬品といわれる一般用医薬品のみであり、病院で投与・処方される医療用医薬品は取り扱っていない。もっとも、「アイボン」「アンメルツ」「のどぬ~るスプレー」「ガスピタン」「フェミニーナ軟膏」「ラナケインS」など同社の医薬品には一般的な認知度が高い商品が多い。

前出・小谷氏はいう。

「まったく新しい薬を開発するというよりは、すでにあるものを視点を変えて製品化して市場を開拓するというのが同社の特徴。たとえば『ナイシトール』は漢方薬の成分を使って肥満を解消するという薬ですが、『ダイエットできる薬』という市場を開拓しました。『コリホグス』は従来から存在する解熱鎮痛剤とほぼ同じ成分ですが、肩こりに効く薬として販売しています。

また、CMや製品パッケージの表現が非常にうまく、症状に効くと視聴者に思わせることに成功しています。私たち薬剤師の話を聞くまでもなく、CMを見て『この薬が欲しい』と言う方も多く、そんな“小林マジック”を生んでいると感じます」

ちなみに同社が販売している医薬品のなかで、厚生労働大臣もしくは都道府県知事による製造販売承認を得るまでの過程において、治験を実施した商品がどれだけあるのかを同社に取材したところ、以下の回答が寄せられた。

「現在、弊社は紅麴関連製品の回収および体調不良を感じておられるお客様のお問い合わせへの対応等に全力を上げて取り組んでおりますため、回答を差し控えさせていただきます」

機能性表示食品制度

今回の事案をめぐっては、機能性表示食品という制度そのものが問題を引き起こしたとも指摘されている。機能性表示食品制度は2015年に当時の安倍晋三政権が規制緩和による経済成長戦略としてスタートさせたもので、メーカーは国の審査を経ることなく届け出のみで販売することが可能で、その効能なども自社の判断で謳(うた)うことになる。そのため、制度の検討当初から安全性の担保面で懸念する声も強かった。

政府も危機感を持ち始めている。今回の事案を受けて29日、関係閣僚会議で林芳正官房長官は、同制度の今後のあり方を見直し、5月末までに取りまとめるよう指示。同制度を所管する消費者庁の新井ゆたか長官はすでに昨年から制度見直しの必要性を示唆しており、先月28日の会見では「届出全体の総点検の結果を見る必要がある」としていた。

前出・小谷氏はいう。

「従来からあった特定保健用食品、いわゆるトクホも摂取による効果・効能を謳うことができますが、国の審査を受けて承認を得ないと販売できないため、メーカーとしては膨大な手間とお金がかかり、あまり普及せず、せっかく効果が認められる商品があっても消費者のもとに届きにくい状況がありました。一方、機能性表示食品は国の承認が不要なため、消費者側からすると安価な価格で効果のある食品を手に入れやすくなり、その意味でメリットがあります。ですので個人的な見解としては、この制度は存続したほうがよいと考えています。

もっとも、消費者はメーカーが公表するデータを信用するしかないわけですから、メーカーは正しい情報に基づき、そして国が推奨する製造工程管理の基準であるGMPを順守することが求められます」

(文=Business Journal編集部、協力=小谷寿美子/薬剤師)

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