森永卓郎66歳「三途の川が見えた」ステージ4がん告知からの13人の医師と血液パネル検査「意外としぶといでしょ」

撮影/小島愛子

「たぶん、来年の桜は見られない」そう医者から告げられたら、あなたなら、どうしますか。昨年12月、主治医から、ステージ4のすい臓がんであると告知されたのは、テレビの情報番組のコメンテーターとしてもおなじみの森永卓郎氏。現在、書籍『書いてはいけない』(三五館シンシャ)が14万部超えのベストセラーとなっている経済アナリストだ。
柔和な笑顔を浮かべながら政権の暗部に鋭いメスを入れる一方で、著書『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)では、経済格差に苦しむ我ら庶民に対して、どう生きるべきかを懇切丁寧にアドバイスする。
そんな66歳の硬骨漢は、どのようにして病と向き合ったのか? 昨年末からの突然の闘病生活について、ラジオの生放送終了後の同氏に聞いた。(全5回/第1回)

免疫の量が健康な人の「5分の1」ぐらいに

――お写真では、かなり痩せてしまった感じでしたが、お元気そうで安心しました。先日のスポーツ紙で、「私の場合は、オプジーボ(がん治療薬)が効いているのではないか」とラジオ番組の中でコメントされたと報じられていました。

効いているかどうかはわかんないんですけど、去年の12月29日は、本当に三途の川が見えた状態だったんですね。抗がん剤が合わなくて生死の境をさまよったんですけど、その後、気付け薬みたいのを飲んで、最悪の状況を脱して、年明けに2週間、東京の病院に入院したんですよ。
それは、治療のために入院したんじゃなくて、体がボロボロになっていたので、その治療に耐えられる体力、気力に戻すための入院だったんですね。
年末は、免疫の量が健康な人の5分の1ぐらいにまで下がってしまって、本当に危なかった。その状態でコロナとかにかかったら、一発アウトになる。だから、隔離してもらって点滴を打って、ちょっとでも熱が出たら抗生物質を打って、という繰り返しでした。ず~っと点滴で縛られているっていうか、スパゲッティ状態(点滴に両腕をつながれた状況を、腕を前に突き出して実演する森永氏)。

――本当に危険な状況は脱して、よかったです。

もともとは、すい臓がんのステージ4っていう診断だったんですけれど、血液パネル検査(血液中に流れるがんのDNAを用いてする検査)っていうのをやったら、95%の確率ですい臓がんじゃないっていうのがわかったんですよ。で、原発不明がんっていう新しい病名になった。がん細胞がどこにあるかわかんないけど、転移はしているので、体のどっかに本体はあるんだろうけど、それがどこにあるのか、何の種類のがんなのかっていうのは、まったくわからない。極めてレアケースのがんなんです。

勢力は拮抗「かすかに小さくなったかも」

ただ、原発不明になったおかげで、オプジーボっていう薬を健康保険で打てるようになったんです。 1か月全額、自腹だと70~80万円はかかっちゃうけど、今は20何万で済んでいるんですよ。
ただ、それは免疫療法なんです。がん細胞の軍団は、免疫細胞に泥団子みたいなのをぶつけてきて身動きを取れないようにして、免疫細胞からの攻撃を守ろうとするんですけど、その泥団子を取り除くのがオプジーボっていう薬。だから、当初の免疫細胞VSがん細胞のぶつかり合い、軍団同士のぶつかり合いの状態に戻すだけなんで、それだけだと、がん細胞にやられちゃうんですね。
だから、その治療に加え、NK細胞(ナチュラルキラー細胞の略。がん細胞やウイルス感染細胞を殺傷することができるリンパ球集団)を増殖させる血液免疫療法を、今は2週間に1回ずつ、自由診療でやっています。具体的に言うと、血を抜いて免疫細胞を増殖させて戻すっていうのを2週間に1回、それで、オプジーボとあわせて月100万円ぐらいかかりますね。
現在の病状は、この間、検査を受けた結果だと、免疫細胞軍団とがん軍団がちょうどこう勢力が拮抗してて。大きくはなってないんだけど、小さくもなってない。ま、かすかに小さくなったかもしれないね、ぐらい。

――がんの場所がわからないのに、大きさが小さくなっているというのは、なぜわかるんでしょうか?

冠動脈っていう一番太い動脈が走ってるんですけど、その周りにがんから浸潤してきた腺がん(体を構成する組織のうち、腺組織とよばれる上皮組織から発生するがん。胃、腸、子宮体部、肺、乳房、卵巣、前立腺、肝臓、膵臓、胆のうなどに発生する)があるんですね。それはわかる。だから本体がどこにいるかわかんないんだけれど、転移してきた部分、腺がんの状況から判断するんです。

――なるほど。がんの親玉がどこにいるのかわからないけど、その部下である腺がんがいるので、どこかにいる親玉の状況が分かるんですね。

サードオピニオンを聞いた後「10人以上」に

だから、その本体がどこにいて、どんな種類かわからないから、抗がん剤とか放射線とか手術とかで本体への攻撃ができないんですよ。タチが悪いっていうか困っちゃうの。 いじれるのは免疫細胞だけなんですね。ただ、免疫細胞をオプジーボで泥を取り除いて強くするっていうのと、血液免疫療法で免疫細胞の数を増やす。数を増やして強くするっていうのしか、今のところ手がないんです。

――でも、がんとわかって治療を始めるときに、サードオピニオンまで受けられて、すべての医者から「このままだともう桜も見られない」といった告知をされたと聞きました。でも、もう桜も開花しましたし、医者たちの診断を見事、くつがえしましたね。

そうですね。結果論ですが、おそらく、すい臓がんじゃなかったので、間違った抗がん剤を打ってしまったんですけど、誤診だとは思ってません。なんでかというと、サードオピニオンを聞いた後、実はその後、10人以上のお医者さんに聞いたんですよ。

――サードオピニオン以降に10人以上というと、全部で13人ですか。

わりとしぶといでしょ。当時のデータをもとに「どうですか?」って聞くと、全員が同じ結論に。一人の例外もないんです。だから、そのときの判断としては正しかったんだけど、その後、出てきた血液パネル検査のデータを見ると、どうやら違うみたいだったんです。

――それは、森永さんが諦めなかったから、別の結論にたどりつけたということですよね。13人の医師の話を聞いても諦めずに、さらに新たな検査を受けた。

諦めたらおしまいなんで。お医者さんの中には、免疫の3割は精神的なもんだって言う人もいるんです。もうダメだって思ったら、本当にダメになっちゃうんです。

――前向きな明るい心に、免疫アップの効果があるということですね。

ただ、今後はどうなるかわかんないんです。戦力は今、拮抗した状態で、ちょっとでもがん細胞のほうが強くなると、一気になだれ現象を起こす。だから、関ヶ原の合戦をやっているような状態。

――なるほど。小早川秀秋が裏切ったら、一気に劣勢になってしまうということでしょうか。ちなみに、お食事は最近、どんな感じなんでしょうか? 一時は、あまり食べられていなかったという話も耳にします。

去年の暮れは「3日間でイチゴ3粒」

食べる量は、そんなに多くないんですけれど、普通に3食、食べています。去年の暮れは、3日間でイチゴ3粒しか食えなかった。

――そのときに息子さんが心配されて、先ほど話されていた東京の病院に入院されたんですね。

やっぱり息子も「死ぬなって思った」って言ってました。私も「死ぬな」って思ってました。

――でも、告知を乗り越えた。そして、そうした状況の中でお書きになった本『書いてはいけない』が現在、14万部以上の大ヒット中です。本作は、日本のタブーであるジャニーズ事務所の性加害、財務省の財政緊縮主義、日本航空123便の墜落事故について歯に衣着せずに言及されていますよね。普通の人なら避けて通るであろう、それらの事柄に向かい合おうと思ったのは、どうしてなんでしょうか?

それを説明する前に、私の人生における3つのチェンジの話から始めましょうか。

具体的な治療費の金額、保険の適応の有無を含め、まるで他人の病気を説明するかのように、淡々と話す森永氏。その姿に「あきらめたらそこで試合終了ですよ」の名ゼリフで知られる名作バスケット漫画『スラムダンク』(集英社)の安西先生の姿が重なった。 試合を観戦していた安西先生が、劣勢に立たされ、試合を半ば諦めていた中学時代の三井寿に前出の言葉をかけると、発奮した三井は試合に勝利するのだが、それと同様の言葉を自分自身に投げかけて、森永氏は病と闘い続けているのだ。 医者のセカンド・オピニオンどころか、サーティーンオピニオンまで求め続け、それでも諦めずに新たな検査に挑み、医者の告知をくつがえした同氏。その折れない心は、どのようにして育まれたのだろうか。

もりなが・たくろうプロフィール
1957年、東京都生まれ。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。1980年に東京大学経済学部を卒業後、日本専売公社(現在のJT)に入社。その後、日本経済センター、経済企画庁、三和総合研究所などを経て、2006年から獨協大学経済学部教授に。昨年、財務省の暗部に斬り込んだ『ザイム真理教』(三五館シンシャ)がベストセラーに。今年3月には日本の3大タブーとされるジャニーズ事務所の性加害、財務省の財政緊縮主義、日本航空123便の墜落事故について迫った書籍『書いてはいけない』(三五館シンシャ)が14万部を超えるベストセラーとなっている。2023年12月、ステージ4のがん告知を受ける。

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