傾斜地を撮る~桜編~ にし阿波に暮らす人々を撮り続けている写真家・小倉隆人さん【徳島】

「フォーカス徳島」では、にし阿波に暮らす人々を撮り続けている写真家・小倉隆人さんの活動をシリーズでお伝えしています。

今回、小倉さんは傾斜地を彩る桜や人々を撮影しようと、徳島県の美馬市とつるぎ町を訪ねました。

その一枚に込められた小倉さんの思いとは?

「桜」穴吹町の丸山集落

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「桜は春なんですよね。桜の美しさっていうのは、世の中がいかに乱れてても、状況が悪くても、桜だけはきれいだなといつも感じる」

徳島県吉野川市在住の写真家・小倉隆人さん(73歳)です。

長年、東京で書籍の写真などを撮るフリーカメラマンとして活動していましたが、9年前に帰郷しました。

今は、にし阿波の傾斜地に暮らす人々や、自然を撮り続けています。

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「お堂と桜ですね。ここ、風が強いと桜吹雪が舞うんですよ」

小倉さんがこの日、狙うのは「桜」。

まず訪れたのは、穴吹町の丸山集落です。

かつてここを訪れた時に出会った、農家の岩本富士子さんにモデルをお願いしました。

(農業 岩本富士子さん(76))

「これはネギ、細ネギね。去年のやつをここに移動して、ここに植えとんです。あれはニンジンです、520本植わってます。もう、働くのが大好きで」

わずか9軒の小さな集落が、大切に守り続けてきた「桜」があるといいます。

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「きれいだね」

(農業 岩本富士子さん(76))

「きれいですか?」

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「きれいです」

丸山集落の「しだれ桜」は満開を少し過ぎていましたが、2024年も見事に咲き誇りました。

元々、田んぼだった場所に二十数年前、集落の人がみんなで植えたそうです。

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「はい、いきま~す。ニッコリ笑ってください、いきますよ!」

今から約50年前、岩本さんが嫁いで来たころ、集落には20軒ほどが暮らしていました。

今はその半分、寂しくなりましたが、それでも桜が咲く姿を見ると元気が湧いてきます。

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「ちょっと(バンザイ)してみて。いいね、目がキラキラしてますよ。そういう人、都会じゃ少ないんですよ。70歳超えると、仕事やめると、目に力がない人が多い」

(農業 岩本富士子さん(76))

「山の暮らし大好きです。ほなけんね、じいちゃんと二人元気で100歳までおれたらおります、ヘヘ」

「桜」つるぎ町の家賀集落

次に訪れたのは、つるぎ町の家賀集落です。

被写体を探しますが、この日はあいにくの曇り空、なかなか満足のいく一枚が撮れません。

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「感じいいですよね、感じはいいんだけど背景が…空が白でしょ?だからどうしても、桜自体は弱くなるんです。空をできるだけ入れないように。きょうはこの道もいいですよね、石垣もいいし」

青空に映える桜は望めませんが、地域に残るお堂や緑を生かして景色を切り取ります。

つるぎ町貞光吉良地区の「エドヒガンザクラ」。

高さ約20m、樹齢は400年を超えるとされています。

隣の集落に住む横野健史さんは、地元の人と協力して周辺を清掃するなど、景観の維持に尽力しています。

吉良のエドヒガンザクラは1971年、県の天然記念物に指定され、以来、道路が整備されたこともあって多くの人が訪れるようになりました。

(吉良の忌部神社世話人会 横野健史会長(72))

「やっぱり木の古さというか、500年近く生きてきとるカリスマ性というか、木の力がある。リピーターが来るということは、何か癒されるとかパワーをもらえるとか、そういうことがあるんじゃ。花も美しいけど、木自体が持つ生命力というか、そういうものがやっぱりあると思う」

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「私が言いたいこと言ってくれた」

コロナ禍前に行われていた見物客へのお接待が、2024年に5年ぶりに復活しました。

小倉さんも、地元の人から温かいおもてなしを受けました。

(吉良の忌部神社世話人会 横野健史会長(72))

「我々も駅伝というか、四百何十年ずっとその区間・区間で守り続けてきて、我々も次の世代に受け渡さないかん。その責任がある。その間はみんな力を合わせて、管理をしていかないかんと」

「桜」つるぎ町貞光の僧地地区

最後に訪れたのは、つるぎ町貞光の僧地地区です。

小倉さんは、民家の畑にある桜が気になっていました。

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「この桜は、ここに嫁さんに来た時からあった?」

(森長岩子さん)

「あのね、父が亡くなった時に植えたんです」

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「お父さんが?」

(森長岩子さん)

「平成5年ぐらい」

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「じゃあ、お父さんの形見みたいな」

「桜に込められた亡き父への想い」、その思いを写真に焼き付けようと小倉さん、体を張ってシャッターをきります。

(写真家 小倉隆人さん(73・吉野川市))

「もう、這いつくばろうか。大丈夫、そんな感じでいいですよ」

「桜の花はめでたいし、きれいだし、美しいじゃないですか。どういうところに咲いた桜でも美しい。岩本さん、横野さん、森長さん、この3人に共通した人間性みたいなものを感じた。一生懸命生きてきたという人の姿というか、それは桜にもそうだと思う」

傾斜地の厳しい暮らしに、文字通り花を添えてきた桜。

きょうも、里山に笑顔の花を咲かせます。

私たちが普段何気なく見ている桜の木にも、もしかしたら知られざる逸話が隠されているのかもしれませんね。

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