【MIPTV2024速報レポート】61年続いた歴史に幕を下ろしたTV業界マーケット「MIPTVカンヌ」 ~今こそ変化、来春立ち上げ「MIPロンドン」説明会~ / Screens

フランス・カンヌで開催されたTVコンテンツ国際マーケット「MIPTV」が現地時間4月10日に閉幕した。同時に、61年続いた歴史に幕を下ろし、今回が最後のMIPTVの開催となった。期間中、主催のRXフランスは新たな春の業界のマーケットとして来年2月に立ち上げる「MIPロンドン」の説明会をカンヌ現地で行い、MIPTV/MIPCOMディレクターのルーシー・スミス氏は「今こそ変化を起こすべき時だ。それが正しい判断であることを確信している」と語った。

■最終回は昨年の5500人参加よりさらに縮小

第61回MIPTV2024はプレイベントを含む期間中の4月6日から10日まで、フランス・カンヌ現地の会場に84カ国から3537人が集まり、1133人のバイヤーが参加した。国別ではフランスからの参加者が最も多く、次いでイギリス、アメリカ、ドイツ、スペイン、イタリア、トルコ、中国、カナダ、ベルギーの順となった。日本からは約50人が参加、NHK/NHKエンタープライズ、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、読売テレビ、東映アニメーションが出展した。

ドキュメンタリー専門のMIPDOCとフォーマットビジネス専門のMIPFORMATSはMIPTV開催直前の週末にあたる4月6日から幕を開け、5日間にわたって基調講演をはじめマーケティングプレゼンテーションやスクリーニングセッション、そして国際共同制作やFAST&AVOD、AIなどの業界注目分野に焦点を当てたサミットなどのカンファレンスプログラムが企画された。

そんななか、最大の焦点はこれまで61年間、国際コンテンツビジネスの業界イベントとして牽引してきた春のMIPTVが今回で最後の開催となったことにある。終了されることは開催前の3月26日に既に発表されていたが、参加者は会場前に広がるコート・ダジュールの波の音が時折聞こえてくるほど静かなマーケットを目の当たりにした。

MIPTV期間中の4月9日に行われたプレスカンファレンスでRXフランス エンターテインメント部門MIPTV/MIPCOMディレクターのルーシー・スミス氏は「MIPTVは上半期最大のマルチジャンルを扱う国際コンテンツマーケットとなりましたが、昨年の5500人参加規模よりはるかに小さいことは事実。ここ数年、減少傾向が続いてもいます。だからこそ、我々は変化を起こすことが必要だと考えました。今が行動を起こすべきタイミングです」と、MIPTVの歴史に幕を下ろすことを決断した背景を説明した。

■ロンドンでバイヤーとの出会いの場を促進

RXフランスはもう一つの新たな行動も起こす。それが来春に立ち上げる「MIPロンドン」だ。MIPTV期間中、この「MIPロンドン」の計画についてMIPTV全参加者を対象に説明会も開催された。バイヤーのニーズに合わせた新しい形のMIPマーケットを目指すとあって、説明会場は満席で立ち見が出るほど関心を集めた。

「MIPロンドン」がイギリス・ロンドンのウエストエンド地区にあるサボイホテルとIETロンドン/サボイ・プレイスを会場に、初回の会期を2025年2月24日~27日に設定、本開催前日の2月23日にはプレオープニングイベントが行われることは既に発表されていた。また2021年から本格的に始まって以来、業界内で注目を集めている「ロンドンTVスクリーニング」を補完する形での開催であることも明確に打ち出していた。

説明会で強調されたのは「形式も規模もMIPTVや地域特化型のMIPカンクンとは大きく異なるコンテンツマーケットである」ということ。スミス氏は「ロンドンで開催することで、新しい市場のニーズに応えることができると考えています。バイヤーとの出会いを提供できるようなショーケースや上映会ができるイベントスペースを目指します」と説明した。

バイヤーは無料で参加できることが特徴の1つにある。「今年2月には750人のバイヤーがロンドンに集まり、今回のMIPTVには1100人のバイヤーが参加しました。つまりこれは、2月のロンドンにもっと多くのバイヤーが集まる可能性があることを意味していると思っています」とスミス氏は続け、スクリプトおよびノンスクリプトの両方のバイヤーを対象にプログラムを進める計画を示唆した。

キッズジャンルやドキュメンタリー、バラエティフォーマット向けにもプログラムが開発されることも計画されている。プレオープニングデーにはいくつかのカンファレンスを用意することも検討されている。スミス氏は「皆さんの声をフィードバックしながら、随時アップデートしていきます。MIPロンドンの立ち上げによって、大きな新たなチャンスが生まれることを信じています」と語っていた。

■アジアやラテン地域をアピールする場は?

実際のところMIPTV参加者はMIPロンドンにどのような反応を示しているのだろうか。会場で聞いた限りでは、前向きに参加を検討している声から、別の既存のマーケットに目を向け始めた話まで、立場によって受け止め方は異なる様子だった。プレスカンファレンスでは記者から「国際的なテレビ市場にとって、この変化は大きな損失になるのはないか」という厳しい意見もあった。

またアメリカ最大手の業界誌WorldScreenのトップジャーナリストのMansha Daswani氏は「MIPCOMは大手に押され気味であるのに対し、MIPTVは常にアジアやラテン地域などが輝けるチャンスがあった。今後、MIPCOMやロンドンで彼らが作品をアピールする機会があるのか、気になる」と率直に意見した。まさにこれは売り込む作品がある日本にとって喫緊の課題だ。スミス氏は「様々な地域を紹介する機会が作れるようにしていきたいと思っています」と答え、MIPロンドンでは国別パビリオンの展開も前向きに考えていることも明かした。パビリオンの場合、政府のサポート体制が求められるだろう。いずれにしろ、新たなコンテンツマーケットの形に合わせたPR方法を考えていく必要がある。

スミス氏は最後に感謝の言葉も述べた。「MIPTVは素晴らしい形で幕を閉じ、この60年間、世代や地域、ジャンルを超えてMIPTVを支えてくださった国際的なテレビ業界の皆さんに感謝しています。カンヌでの活動は今後、MIPCOMカンヌにのみ注がれ、今年で40周年を迎える記念すべき回から業界にとってフラッグシップとなる国際エンターテインメント・コンテンツ・マーケットを提供し、成長させていきます。今こそ変化を起こすべき時です。それが正しいことだと確信しています」

MIPはコロナ禍にどのコンテンツマーケットよりもいち早くリアル開催を復活させ、テレビ放送の衰退や配信へのシフトといった業界の変革期を受けとめる場を積極的に提供してきた。これが今回の決断に影響しているのかもしれない。時代のニーズに合わせて具体的にどう変化させていくべきか。その答えを出すきっかけも与えていきそうだ。

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