塀の中 進む介護施設化 脳トレ、お手玉、歩行器…社会復帰へ“リハビリ” 「懲らしめ」から「立ち直り」へ…転換期迎える刑務所ルポ

無機質な空間が広がる府中刑務所の居室棟=東京都府中市

 「塀の中」で受刑者の高齢化が進んでいる。通常の刑務作業についていけず、作業の名の下で社会復帰に向けた“リハビリ”が施されている。認知症の疑いがある高齢者もいて、実態は介護施設さながらだ。2025年6月から刑罰の懲役と禁錮が「拘禁刑」に一本化されることになり、関係者は「受刑者の特性に応じた柔軟な処遇が可能になる」と期待を寄せている。

 2月下旬、日本記者クラブ主催の視察で府中刑務所(東京都府中市)を訪れた。収容定員2668人は国内最大規模で、敷地面積は東京ドーム5、6個分。犯罪傾向が進んだ刑期10年未満の受刑者を対象とする点は鹿児島刑務所(湧水町)と共通している。

■機能向上作業

 二重の生体認証を解除して収容区域内に入ると、コンクリートの無機質な空間が広がる。所々に段差があり、「バリアフリーは進んでいない」と案内役の刑務官。ベッドには寝たきりの受刑者もいる。

 刑務所内は受刑者が生活する居室棟、刑務作業に取り組む作業棟に大別される。作業棟の一角の「第10工場訓練場」では、緑の作業服を着た白髪交じりの高齢男性数人が、自転車型のトレーニングマシンをこいだり、パソコンで脳トレに励んだりしていた。

 数メートル先の台に向かってお手玉を投げている男性もいるが、自由時間であるわけではない。府中刑務所が21年6月から取り組む「機能向上作業」。加齢で衰えた体や認知機能の回復を図り、刑務作業に戻ることを目指す。作業療法士や介護福祉士が付き添い、事実上のリハビリといえる。

■最高齢は94歳

 法務省の犯罪白書によると、入所受刑者のうち65歳以上の高齢者が占める割合は右肩上がりだ。22年は14%で、過去20年間で10ポイント近く上昇している。他の年代が減少傾向にある中、特に70歳以上の増加が顕著だ。

 約1500人を収容する府中刑務所の日本人受刑者の平均年齢は53歳。最高齢は94歳で、65歳以上が全体の約2割を占める。足腰が弱って歩行器を使う受刑者もおり、刑務官の一人は「介護の要素は年々増えているように感じる」と話す。

■刑事政策の大転換

 政府は23年11月、「拘禁刑」を創設する改正刑法の25年6月1日施行を決めた。1907(明治40)年の刑法制定以来、刑の種類が変更されるのは初めてで、重点を「懲らしめ」から「立ち直り」に移す刑事政策の大転換だ。

 懲役受刑者に科される木工や洋裁などの刑務作業が義務でなくなり、立ち直りに向けた指導・教育に時間をかけられる。同刑務所の白川秀史所長は「折り紙やストレッチ、グループワークなどいろんなことができる」と意義を強調する。

 現在は犯罪傾向や国籍、性別などで分類され、刑務所ごとに収容の対象が決まっている。法務省は拘禁刑の導入に合わせて分類を見直す方針という。

 同省矯正局の細川隆夫総務課長は「例えば犯罪傾向が進んだ受刑者の中にもさまざまなタイプがいる。再犯防止のプロセスは一人一人の特性をきちんと見る必要がある」と力を込めた。

〈関連〉刑務作業に取り組む受刑者ら=東京都府中市の府中刑務所(画像の一部を加工しています)

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