「ペットの日」に読みたい! 社会現象を巻き起こした少女漫画『動物のお医者さん』心温まるエピソード

花とゆめコミックス『動物のお医者さん』第1巻(白泉社)

本日、4月11日は「ペットの日(ナショナルペットデー)」だ。2006年、アメリカで制定された記念日で、飼い主がペットに愛や感謝を伝える日であり、そして、保護犬や保護猫についての認知度を高める日となっている。

そんな「ペットの日」に相応しい漫画といえば、1987年から『花とゆめ』(白泉社)にて連載が開始された佐々木倫子氏の『動物のお医者さん』だ。本作は80年代後半〜90年代初頭にシベリアン・ハスキーブームなど数々の社会現象を巻き起こした名作で、現在でも人気は高く、2024年からは毎月1冊ずつ新装版が発売されている。

『動物のお医者さん』はその愛くるしい動物たちの描写と、シュールなコメディが魅力の作品だ。しかし本作には笑いだけでなく、ちょっと感動するようなほっこりエピソードも多い。今回は『動物のお医者さん』からハートフルなエピソードを紹介したい。

■雷のなか置き去りにされ…自力で帰ってきたチョビ

『動物のお医者さん』の感動エピソードといえば、置き去りにされたチョビが帰ってくるこのエピソードを思い出す人も多いだろう。

第55話で、主人公のハムテルこと西根公輝は、友人の二階堂昭夫と飼い犬のチョビと一緒に散歩に出かけた。なんとなく山に登ることを決め、チョビに道中で待つよう鎖を枝にくくりつけてロープウェイに乗った2人。しかし山頂に着くと天気が急変し、ロープウェイが運休となり降りれなくなってしまった。

雷が鳴るなか、1匹残され怖がるチョビ。落雷によりチョビはパニックになり、つながれていた枝を折って逃げ出してしまう。その後戻ってきたハムテルたちだが、チョビはいくら探しても見つからない。保健所やロープウェイの人たちに連絡をし、新聞にまで掲載するもチョビは帰ってこなかった。

実はチョビはパニックを起こして逃げる最中、切り株に鎖が引っかかり、身動きが取れない状況になってしまっていたのだ。

4日が経過し、ハムテルたちの心配がピークに達していた早朝、“ガチャガチャ”と怪しい音とともにチョビはハムテルの元に帰ってくる。駆け出し、思い切りチョビを抱きしめるハムテル。痩せて泥だけになったチョビも鼻をピスピス鳴らし嬉しそうだ。このシーンに心底ホッとした読者は多いだろう。

結局チョビは切り株を自分で掘り起こし、鎖につけたまま引きずって帰ってきていた。あまりにもワイルドな方法に“人に見られない早朝でよかった”と思うハムテルだったが、チョビの賢さにも脱帽してしまうエピソードだ。

■犬と猫は同時に飼える? チョビ&ミケの意外なエピソード

第26話では、子犬だったチョビがはじめてハムテルの家に来たときのエピソードが描かれている。

チョビを飼う前、ハムテルの家にはすでにニワトリのヒヨちゃん、猫のミケがいた。犬が大嫌いなミケは、チョビが近づくと“カーッ”と威嚇することが多く心配されていた。しかしチョビはミケのことが好きなので、いつも後ろをついて歩いていってはその都度怒られていた。

ある日、ミケのあとをついていったチョビたちは外に出てしまう。面倒になってミケは木に飛び移るが、近所にはジョンという恐ろしい大型犬がいた。

木に登れないチョビはミケの姿を見て追いかけようとし、ジョンの家の柵をくぐってしまう。するとテリトリーに入ったことに怒ったジョンが大きな口を開け、チョビを噛もうとした。その瞬間、ミケは木から飛び降り、ジョンの鼻を思い切り引っ掻く。

一連の出来事に腰を抜かしてしまったチョビ。ミケは“アホ!腰ぬかしとる場合か!”とチョビを咥えて引っ張り、無事救出するのであった。

最初はチョビに冷たかったミケだが、なんだかんだ人情家であり、その後はチョビの教育係として仲良くなっていく。チョビが“あそぼ”と言って強く噛んだときは容赦なく引っ掻き、甘噛みの加減も教えていく。犬と猫を一緒に飼うときはこんな関係になってくれたらいいなあと思う、ほっこりするエピソードだ。

■何とかして動物の命を救いたい…奮闘したハムテル&祖母

第32話には、ハムテルとその祖母の活躍が描かれるエピソードがある。

獣医学部の学生であるハムテルだが、祖母が“孫は獣医学部だからネコでも鳥でも気軽に相談して”と近所に触れ回ってしまい、近所の人は次々にハムテルの家にペットを連れて相談に来るようになった。

そんな状況が嫌でハムテルは遅くまで大学に残っていたが、ある日、学生が“自転車で子犬を轢いてしまった”とやって来る。教授はおらず、頼りの先輩も逃げてしまい、残ったのはハムテルと二階堂だけ……。しかも子犬は白目を向いており、自分らで太刀打ちできる状態ではない。

一方そのころハムテルの家にはぐったりと翼を広げた文鳥が運ばれて来ており、祖母1人で対応しなくてはならない事態となっていた。

“早く何とかしてくれ”という依頼者の目に迫られ、窮地に陥る両者。しかし白目の子犬はチョビが舐めたことで意識を取り戻し、応急処置で折れた足に割り箸を固定させ事なきを得る。一方、祖母が対応した文鳥もサラダ油で肛門をマッサージしたことで卵詰まりが治った。祖母は「ああ、お医者さんってすばらしい」と安心し、その後、ハムテルにもっと勉強するようはっぱをかけるのであった。

交通事故や出産トラブルは、人間だけでなく多くの動物でも起こるものだろう。そんな状況をとっさの判断で対応する獣医師は本当に大変だ。まだ獣医師ではないハムテルやその祖母が、何とかして動物の命を救った心温まるエピソードである。

『動物のお医者さん』には涙してしまうほどの感動エピソードは少ないが、とにかく佐々木氏の描く緻密な動物描写が素晴らしい。とくにチョビが赤ちゃんの頃のエピソードは物凄く可愛く、読むだけで涙が出るくらいキュンとしてしまう。

ぜひ「ペットの日」に合わせ、多くの胸キュン動物が出てくる『動物のお医者さん』を読んでみてはいかがだろうか。

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