清家が先制も1点差の「完敗」が示す「個人」の差【パリ五輪前アメリカ遠征で浮上「なでしこジャパン」問題と希望】(1)

アメリカ戦は清家貴子のゴールで先制するも…。撮影/中地拓也

パリ・オリンピック開幕が近づいている。サッカー女子日本代表にとって、女子ワールドカップに並ぶビッグな大会である。この4月には、アメリカで開催された強豪がそろう大会「シービリーブスカップ」にも出場。来たる世界大会に向けて、どんな課題と手応えを得たのか。サッカージャーナリスト後藤健生が考察する。

■ブラジル、カナダ他、世界の強豪が集う大会に参戦

パリ・オリンピックでの上位進出を目指す女子日本代表(なでしこジャパン)が、アメリカで開催された「シービリーブスカップ」に参加した。アメリカ(4位)、日本(7位)、カナダ(9位)、ブラジル(10位)と、FIFAランキング上位国が参加する大会で、オリンピック前の強化試合としては貴重な機会となった。

だが、初戦で開催国アメリカに敗れ、3位決定戦に回った日本は、ブラジルとは1対1で引き分け、PK戦で敗れて最下位に終わった。

もっとも、この大会は公式戦ではないし、本番に向けてのテストをしながらの試合だったので「結果」や「勝敗」に大きな意味はない。強豪相手に、どんな内容の試合ができたか。どのような成果や教訓を持ち帰ることができたかが大切だ。

初戦(準決勝)のアメリカ戦は、残念ながら「完敗」だった。

アメリカは現在、かつてのような“絶対女王”ではなく、2021年の東京オリンピックで銅メダルに終わり、昨年の女子ワールドカップではラウンド16でスウェーデンに敗れている(PK負け)。

しかし、現在もFIFAランキング4位と、この大会に出場した国では最高位におり、日本がこれまで1度しか勝ったことのない強豪だ。

ただ、日本は昨年の「シービリーブスカップ」では0対1で敗れはしたものの、内容的にはアメリカとの試合で初めて日本が主導権を握るゲームを繰り広げ、その後の女子ワールドカップでのベスト8進出に向けて、大きなはずみとなった。それだけに、今年もアメリカ相手に良い試合をして、パリ・オリンピックでの上位進出につなげたいところだった。

だが、「昨年と同じ1点差の敗戦」とは言っても、今年の大会は完敗だった。

むしろ、「アメリカの猛攻をよく2失点で凌ぎ切った」という内容だったし、逆にアメリカ側から見たら、あれだけの内容で2点しか取れなかったことが反省材料になったことだろう。

■「先発出場したほうがいい」浦和・清家が先制点

日本は前半1分に(開始から30秒で)先制ゴールを奪った。

キックオフ直後にロングボールの蹴り合いがあった後、中盤の深いところから谷川萌々子が蹴り込んだロングボールに右サイドハーフの清家貴子が反応。スピードを生かして相手を置き去りにして、一歩前でボールをコントロールすると、そのままドリブルで進み、中央に視線を送って相手を牽制しながらファーサイドのポスト内側に当てるシュートを決めた。

三菱重工浦和レッズレディース所属の清家は、WEリーグでもここ数試合、絶好調。負傷で安藤梢と猶本光といった攻撃の中軸を欠く浦和レディースの攻撃を引っ張る存在となっている。

3月27日のWEリーグのアルビレックス新潟レディース戦でも縦パスを受けて、そのまま持ち込んで先制ゴールを決めたが、試合後、浦和の楠瀬直木監督は「清家は先発出場したほうがいい。代表でも先発させてもらうといいのに」と語っていたが、まさにその通りの結果につながった。

清家は、もともとフィジカル能力が高いのは定評のあるところで、もっと早く代表に定着していてもおかしくない選手だった。浦和ではサイドバックとして使われていた時期もあるが、現在はサイドアタッカーとして活躍。フィジカル能力に加えて、繊細なボールコントロールの技術が身に着いてきている。

■アメリカ選手の「走力」を前に押し込まれる展開

アメリカ相手の先制点は、その清家が最近の好調さをそのまま発揮したゴールだった。

清家の先制ゴールで日本が勢いに乗るかと思われたが、10分もたたないうちにアメリカがスピードを生かしてチャンスを作り始める。

右サイドのトリニティー・ロドマンの個人的な走力。左サイドバックのジェンナ・ナイスワンガーとサイドハーフのマロリー・スワンソンが絡んだ仕掛け。そして、最前線のアレックス・モーガン、トップ下のリンゼー・ホラン、ジェーディン・ショウの流動的な動き。それらが連動して、再三チャンスを作ったのだ。

そして、アメリカ選手の個人的走力を前に、右サイドバックの清水梨紗も守屋都弥も押し込まれる状況になってしまった。

さらに、悪いことには日本のパスが高い位置でカットされる場面が多かったため、中盤でアメリカの攻撃に規制をかけることができなくなってしまい、アメリカの速い攻撃に対して個人で守らざるをえない場面が多くなってしまった。

21分に同点とされた場面も、DFの熊谷紗希からのボールが直接アメリカのアンカー、サム・コフィーに渡ってしまい、そのまま持ち込まれ、最後はフリーになっていたショウに狙いすましたシュートを決められたものだったし、後半の逆転のPKを与えてしまった場面も、交代で入った左ウィングバックの杉田妃和が1人でソフィア・スミスのドリブルに対峙する場面を作らせてしまったのがきっかけだった。

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