【社説】経済安保新法案 懸念拭えぬまま成立急ぐな

 機密情報の保全対象を経済安全保障分野にも広げる重要経済安保情報保護・活用法案が衆院を通過した。機密情報を扱う資格を与える人物か判定する「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入が柱で、身辺調査の対象が民間人に拡大する。

 対象情報の指定や適性評価の実施状況を国会が監視するよう政府案を修正することで与野党が折り合った。だが何が機密に当たるのか、肝心な点が明確になっていない。

 安全保障を口実に政府が都合のいいように機密を指定すれば、国民の知る権利を制限したり、プライバシーを侵したりすることにつながる。こうした弊害への歯止め策が不可欠だ。

 今回の新法案は、秘密保護法制の対象を経済・技術分野に拡大し、特定秘密保護法と一体運用する枠組みである。

 漏えいすれば重要物資の供給網やインフラを脅かす恐れのある「重要経済安保情報」として、外国から得た半導体などの先端技術、電力や通信といった情報が該当するという。漏らした場合は5年以下の拘禁刑などの罰則を科す。より機密性が高い情報は特定秘密に指定され、最長で懲役10年の罰則が科される。

 欧米の主要国には適性評価制度が整備されている。米中対立が解けぬ中、日本も足並みをそろえ、当局間の情報共有や企業の国際共同開発を円滑に進める狙いがある。経済界がビジネスの好機と法整備を歓迎しているのも事実だ。

 機密情報を扱う権限を与える対象には大学の研究者や企業の技術者らが想定される。高市早苗経済安保担当相は初年度の指定情報を数十件程度、身辺調査の対象は「多く見積もって数千人程度」と語るものの、根拠を示していない。指定範囲が広がり過ぎれば国民の萎縮を招く。企業活動も制約されかねない。

 最大の問題は適性評価の手続きだ。身辺調査の項目は犯罪歴や精神疾患、借金など機微な個人情報に及ぶ。家族が調べられる可能性もある。本人の同意が前提とはいえ、不安は拭えない。

 身辺調査を拒んだり、資格を得られなかったりした従業員が社内で不利益を被らない保証はない。事実上の強制になってしまうのではないか。

 見落とせないのは内閣府が一元的に調査を担う点だ。国家による監視強化との指摘もある。調査が適正に行われているかを確かめるすべもおぼつかない。

 政府は具体的な指定対象を、閣議決定する運用基準に盛り込むとする。罰則を科す以上、政府の一存でなく立法で規定すべきではないか。

 立憲民主党は政府・与党が国会への運用報告義務を認めたことで賛成に回ったが、これで監視機能が果たせるか疑問だ。特定秘密保護法で国会に設置された審査会が秘密の開示を求めても、政府側が拒む例が相次いでいることからも明らかだろう。

 参院では、政府の恣意(しい)的な運用を防ぐ仕組みを徹底的に掘り下げて議論する必要がある。今国会での成立を急いではならない。

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