高齢な親を特殊詐欺から守りたいなら、親の寂しさを埋めるように頻繁に連絡を(和田秀樹)

和田秀樹氏(C)日刊ゲンダイ

【和田秀樹 笑う門にボケはなし】

オレオレ詐欺に代表される特殊詐欺の被害が相次いでいます。警察庁によると、昨年の認知件数は1万9033件、被害額は441億円。どちらもその前の年に比べて8.3%、19%も増加しています。1件当たりの被害額は、約240万円に上りますから、かなり深刻でしょう。

そのうち65歳以上の高齢者が占める割合は、78%と8割近い。さらに被害者を欺くツールとして使われたのは77%が電話でした。特殊詐欺のうち還付金詐欺と対面型に限ると、電話の使用率は99.9%です。

こうした詐欺には、予兆電話があって、事前にターゲットとなった高齢者に電話をかけ、住所、氏名のほか、資産の状況や金融機関の情報など個人情報がチェックされるといいます。手口はかなり報道されていますから、親と離れて住む子供は「おかしな電話には、絶対に出ないでね」と事あるごとに口を酸っぱくして親に伝えたりしているでしょうが、被害者が減りません。

なぜか。高齢者がだまされる背景には、寂しさが影響していると思います。高齢者が寂しさを感じていると、たとえ見知らぬ人であっても、親切にされたり、気遣われたりすると、うれしく思い、「お返しに相手も喜ぶことをしてあげよう」という考えに至ることは少なくありません。

1980年代、高齢者を中心に2000億円が奪われた豊田商事事件以来、寂しさにつけ込む手口は、高齢者詐欺の典型です。もちろん、そういう犯人は許されるものではありませんが、逆にいうと、そこに被害を防ぐヒントも隠されていると思います。

「親が詐欺に遭わないか心配」と思うなら、親の寂しさを埋めるように頻繁に連絡を取ることが大切です。ゴールデンウイークやお盆、正月などの長期休暇に帰省するだけでなく、数日おきに電話して、その日に実家の周りで起きたことや不安なことを電話で聞いてあげるとよいと思います。

こまめなやりとりを欠いた関係では、親の孤独感は増すばかりですが、ちょっとした連絡や会話の積み重ねで親の孤独感は少しずつ解消されるはずです。そうすれば、親がちょっとした孤独感や不安感から近くのだれかに頼りたくなることもなくなるでしょう。

親子の密なコミュニケーションができた上で、「おかしな電話がかかってきたら、相手にせず、すぐに切ってね」と念を押せば、聞いてくれるようになると思います。その関係がないときに、「電話に出ないで」と言っても難しいのです。

つまり、親が電話に出て、さらに相手の話に乗ってしまうのは、寂しさが強く影響しているということ。子供が親に不審な電話を取らないでほしいと思うなら、親が電話に出てしまう理由をもっと理解することが大切でしょう。

(和田秀樹/精神科医)

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