大堀彩 パリ五輪確実 バドミントン女子単、初出場 福島県会津若松市出身 富岡高卒

■選考レースで奥原を上回る

 バドミントンのアジア選手権第2日は10日、中国の寧波で行われ、女子シングルスで福島県会津若松市出身の大堀彩(27)=トナミ運輸、富岡高出身=が今夏のパリ五輪代表入りを確実とした。代表選考ランキングで日本勢2番手の大堀は1回戦でグエン・トゥイ・リン(ベトナム)に2―0で勝って2回戦に進み、日本勢3番手の奥原希望(29)=太陽ホールディングス=が1回戦で世界ランク1位の安洗塋(韓国)に1―2で敗れるなどしたため。大堀は初の五輪出場となる。県内出身者のパリ五輪代表は同競技では初めて。

 パリ五輪代表の座は昨年5月から1年間にわたり各国際大会の総合成績で競ってきた。アジア選手権はその最終戦に当たる。奥原の敗退で大堀の日本勢2番手が決まり、他国のライバルの結果から同じ国・地域から2人目の出場が可能となるランキング16位以内も確定した。

 大堀は元富岡高バドミントン部監督でトナミ運輸コーチの父均さん(55)=日本バドミントン協会ジュニアナショナルチームヘッドコーチ=、実業団選手だった母麻紀さん(55)の影響を受け、小学1年から競技を始めた。富岡一中、富岡高時代から全国の舞台で活躍。富岡高卒業後は実業団のNTT東日本を経て、2016(平成28)年からトナミ運輸でプレーしている。

 選考レースでは昨年秋の杭州アジア大会で銅メダルに輝き、今年2月のタイ・マスターズでは準々決勝で奥原に2―1で競り勝って優勝。3月のフランス・オープンでも奥原との直接対決を制すなど、期間中の選考対象大会で実績を積み重ねた。世界バドミントン連盟の最新ランキングで日本勢2番手につけていた。

 パリ五輪バドミントン競技は各種目とも一つの国・地域から最大で「2人」「2組」が出場できる。シングルスは16位以内に同じ国・地域から2人が入れば、2枠を得られる。女子シングルスの日本勢は山口茜(26)=再春館製薬所=が既に出場を確実にしている。出場選手は今月30日付のランキングで最終確定する。

 パリ五輪バドミントン競技には、混合ダブルスで東京五輪銅メダルの渡辺勇大(26)、東野有紗(27)組=BIPROGY=、男子ダブルスで保木卓朗(28)、小林優吾(28)組=トナミ運輸=の2組が出場を確実にしている。4人はいずれも富岡高出身。渡辺、東野組は2大会連続2度目、保木、小林組は初の五輪代表となる。

■福島の「逸材」ついに 夢への再挑戦しぶとく強く 「進化できるよう努力」

 好敵手との熾烈(しれつ)な代表争いの末、夢の切符をつかんだ。バドミントンのアジア選手権の結果、女子シングルスでパリ五輪行きを確実にした福島県会津若松市出身の大堀彩(27)=トナミ運輸、富岡高卒=は1年に及ぶ代表選考で、実績に勝る奥原希望(29)=太陽ホールディングス=を2度破り、日本勢2番手の座を保った。東京五輪出場を逃してから3年。少女期から将来を期待された「逸材」が心身ともにたくましさを増し、初の大舞台に立つ。

 再挑戦となったパリへの選考では前回と違い、しぶとかった。男子の有力者が集う所属先で長いラリーに耐える体力を鍛え、長丁場のレースで目前の勝敗に一喜一憂しない精神力を磨いた。昨秋の杭州アジア大会で銅メダルに輝き手応えを得ると、以降もポイントを重ねた。それでも奥原を「高い壁」と評し挑戦者の立場を崩さなかった。

 迎えた五輪イヤー。負傷から復帰した奥原がポイント差を詰め、2枚目の切符を巡る争いは大堀、奥原のマッチレースの様相に。大堀は2月のタイ・マスターズで奥原を破ると、翌3月のフランス・オープンでも直接対決を制し、第一人者の追い上げをかわした。

 父均さん(55)、母麻紀さん(55)ともに実業団選手という家に生まれ、6歳でラケットを握った。トップアスリートを育てる双葉地区教育構想の拠点だった富岡一中に進み、長身と左利きを強みとした攻撃的なプレーで頭角を現した。

 ただ、競技人生は平たんではなかった。中学2年終わりに東京電力福島第1原発事故が起き、富岡一中、富岡高ともに猪苗代町に活動の場を移した。

 パリへの選考が佳境となる中、大堀は母校の流れを組むふたば未来学園中・高バドミントン部の3月発行の記念誌に一文を寄せた。苦手に向き合いスタイルを変え、勝つためのシミュレーションを重ねたこと、その結果、五輪を戦う位置にたどり着いた喜びをつづり、「進化できるよう努力を重ねる」と結んでいた。歩みを止めない姿勢を貫いた先に、夢舞台は憧れから現実となった。

■「自分らしく戦って」 県内関係者から応援の声

 大堀に、県内のゆかりの人々からは本番での活躍を願う声が上がった。

 富岡一中時代に大堀を指導した、ふたば未来学園中バドミントン部顧問の斎藤亘さん(52)は「不振の時期も知っている。喜びもひとしおだ」とたたえた。

 大堀は原発事故による避難という困難にも屈せず、3年時に全国中学校体育大会(全中)シングルスを制した。「奥原選手の銅を超えるメダルも期待できる。自分らしく戦ってほしい」と激励した。

 「諦めずに頑張ってくれた」。大堀が原発事故発生後に身を寄せた猪苗代町の宿泊施設「あるぱいんロッジ」の元オーナー平山真さん(75)は五輪確実の知らせに言葉を詰まらせた。

 大堀ら一家は半年間ほどを施設で過ごした。「町に明るい話題を届けてくれた。正々堂々、悔いの残らない試合をしてほしい」とエールを送った。

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