遺産相続“あるある” 関係ない人が出しゃばって揉める…税理士がよく目の当たりにするケースとは

姉の夫から遺産分割に口出しの電話が…(写真はイメージ)【写真:写真AC】

誰でも起こり得る遺産相続トラブル。「うちはきょうだい仲が良いから大丈夫!」なんて思っていませんか。実は、きょうだいの仲が良くても、周囲の口出しで仲違いすることがあります。豊富な実務経験がある税理士で、マネージャーナリストの板倉京さんが解説。よく聞く「法定相続分」とはなんなのでしょうか。

◇ ◇ ◇

「法定相続分通りに分けるものだろ」 姉の夫から怒りの電話

遺産相続“あるある”のひとつに、直接関係ない人が出しゃばってきて、遺産分割の話し合いをぶっ壊すということがあります。なかでも、妻の実家の相続に夫がくちばしを入れてくるパターンが多いように思います。今回紹介するのも、そのケースです。

「母が亡くなり、姉とふたりで遺産の分け方を話し合って決めました。その後、姉の夫から電話がかかってきて『そんな分割は納得できない』と怒鳴られてしまったんです……」

相談者の奥田恵子さん(仮名・52歳)には、遠方に嫁いだ仲の良い姉がいました。姉の結婚相手は資産家で、その家への遠慮もあり、親の面倒は実家の近くに住んでいた妹の恵子さん任せだったといいます。

その後、父親に続き母親が亡くなり、遺産を分けることに。恵子さんに感謝していた姉は「私は親の面倒を一切見ることができなかったから、実家の財産は妹が全部相続すれば良い。自分は生活に困っていないんだから」と考えていました。

一方、恵子さんは「自分が全部もらうなんてできない。やはりお姉さんにももらってほしい」と考えていたそうです。ふたりで話し合った結果、自宅は恵子さんが相続し、そのほかの現預金は恵子さんが3分の2、お姉さんが3分の1の割合でもらうことで話が決まったといいます。

このように、仲の良い姉妹がお互いを思いやって、円満な相続を迎えようとしたところに割り込んできたのが、姉の夫です。

ある日突然、恵子さんの元に姉の夫から電話がかかってきました。そして、「相続というのは、普通は法定相続分通りに分けるものだろ。姉妹なんだから、財産は2分の1ずつ分けるのが筋だ!」と怒鳴りつけられたそうです。

姉の夫いわく「妻は恵子さんに遠慮して言いたいことが言えないから、自分が代わりに交渉するんだ」とのこと。姉も、夫の剣幕に圧倒されて抑えることができず、連絡も途絶えがちになってしまったそうです。結局、恵子さんが折れる形で遺産を折半することになり、姉との関係は気まずいままになってしまいました。

遺産は法定相続分通り分けるものではない あくまでも目安

似たようなケースで、友人知人が相続人に入れ知恵をして話を複雑にしてしまうこともあります。そんなときの決まり文句は「そんな話、普通納得できないでしょ」。

相続に「普通」があるのかどうかはわかりませんが、そういう人が参考にするのは「法定相続分」です。財産は「法定相続分通りに分けるもの」と考えている人もいるようですが、あくまで目安にすぎません。どう分けるかは、相続人同士で自由に決めれば良いのです。

では、なぜ「法定相続分」があるのか? それは、分け方の目安がないと、相続人同士で自由に遺産の分け方を決めるのが難しいケースがあるからなのだと思います。

たとえば、子どものいない人のケースで考えてみましょう。夫が亡くなって、残された妻がその財産を義理の親やきょうだいと「自由に分けなさい」なんて言われても、どうすれば良いのかわかりませんよね。そこで、どう分ければ良いのかの目安として「法定相続分」が用意されているというわけです。

相続分割はそれまでの長い歴史を勘案すべき

最近は相続についての知識を持つ人が増えたように思います。ですから、ついつい他人の相続にも口を挟みたくなるのでしょう。でも、それは大きなお世話というもの。

私個人としては、相続は亡くなった時点の「点」で考えるものではなく、それまでの長い歴史を勘案すべきものではないかと考えています。

赤の他人同士であれば、財産を等分に分ければ良いだけ。「法定相続分通り」でなんの問題もありません。

でも、家族には、ひとつ屋根の下で長い間暮らしてきたからこその問題や、互いの関係があります。それをしっかり考慮して、みんなが納得できるような分け方を決める。簡単なことではありませんが、これが円満な相続につながるのだろうと思っています。

そんな家族の歴史を踏みにじるかのような外野(失礼!)の登場は、相続に揉め事をもたらすことはあっても、円満解決に導くことはまずないでしょう。世の夫、妻、友人知人のみなさま、他人の遺産分割には口を挟むことなかれ! です。

板倉 京(いたくら・みやこ)
1966年10月19日、東京都生まれ。神奈川県内で育ち、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。保険会社勤務後に結婚。29歳で税理士資格試験の受験を決意し、32歳で合格する。36歳での長男出産を経て、38歳で独立。主な得意分野は、相続、税金、不動産、保険。テレビでは「あさイチ」「首都圏ネットワーク」(ともにNHK)、「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)、ラジオでは「生島ヒロシのおはよう一直線」(TBSラジオ)などに出演して解説。主な著書は「夫に読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「相続はつらいよ」(光文社知恵の森文庫)、「女性が税理士になって成功する法」(アニモ出版)、「知らないと大損する! 定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など多数。

© 株式会社Creative2