札幌市が進める「敬老パス」見直しに賛否 制度の継続的運用とのバランスをどう考える?

札幌市側が敬老パスを見直すに至った背景とは(はっさく / PIXTA)

各地で利用されている高齢者向けの「敬老パス」。安い金額で、バスなどの公共交通機関を使えるとあって、利用者からは絶大な支持の声がある。しかし、70歳以上の高齢者を対象としている北海道札幌市の敬老パスをめぐっては、市側が見直しを検討している。高齢者側の負担額が増えることになるため、一部利用者からは不満の声が上がっている。

上限額引き下げ、アプリなどにポイント付与も

札幌市は2023年11月、「市民の健康づくりと社会参加のきっかけを後押しし、健康寿命の延伸につなげていく」ことを目的として、現在運用されている敬老パス制度を「敬老健康パス制度に発展させる」とし、敬老パス見直しに関する素案を公表した。素案では現在の利用上限額7万円を25年度にも廃止し、上限額を2万円へと引き下げ、アプリやポイントカードにポイントを付与する制度の導入を検討している。

敬老パスは、当初は「無料フリーパス」として制度がスタートし、自己負担はなかった。しかし、05年から自己負担が始まり、現在は自己負担額1000円から1万7000円でバスと地下鉄、札幌市電を1万円から7万円分利用できるという制度に変化している。ではなぜ、札幌市側は敬老パスを見直すことになったのか。市側が説明していることをまとめると、以下のようになる。

  • 半数以上の利用者はチャージしていない
  • 対象者のうち5万円以上チャージしている利用者(9%)が事業費の約半額(約24億円)を必要としており、利用実態には大きな偏りがある(すべて22年度実績)
  • 敬老パス対象外のJRやタクシー利用者や、体調、年齢によって外出が難しい利用者は制度を利用できていない

以上の理由により、市側は「敬老パスの本来の趣旨に立ち返り、1人でも多くの市民に活用してもらえる敬老パスへと発展させていきたい」との考えを示している。

「敬老パスと健康増進を分けて考えられないのか」

では、敬老パスの見直しに対して反対している団体側は、なぜ反対しているのだろうか。敬老パスの見直しに異議を唱えている「札幌敬老パスを守る連絡協議会」の担当者が、本稿記者の取材に応じた。まず担当者は前提として、「見直しに反対しているわけではない」とし、「現行の制度を残してほしい。市側は、見直しの理由として『健康増進のため』と言っているが、それは関係ないだろう。なぜ敬老パスに『健康増進』を組み込む必要があるのか。敬老パスと健康増進を別のものとして分けて考えられないのか」と、疑問を呈している。

一方の市側は、「専用コールセンターや意見フォーム、市内10区で開催した意見交換会などの機会を通じ、市民のみなさまからさまざまな意見を頂いた」「敬老健康パス制度の導入にあたり、現行制度からの段階的な移行を望む声が多く寄せられた」としており、意見を踏まえて経過措置を検討。26年3月までに敬老パスの交付を受けている市民を対象として、新しい「敬老健康パス制度」または現行の「敬老パス制度」を選択できるようにする考えだ。

ところが、前出の協議会の担当者は憤る。

「市側は経過措置をうんぬんと言っているが、論理的ではない。市側は話し合いをしたくなく、市民の声を聞いていない。そもそも敬老パスは市が作ったものだ。それなのに、秋元克広札幌市長は『不公平感を感じないように』などと話している。なぜそのような話が出るのか。おかしいでしょう」

では、市側はどう回答するか。

札幌市保健福祉局の担当者が取材に応じ、「今年度、今まさにこれから敬老パスの見直しについて検討を始めるところだ。予算も7億2600万円いただいた」と胸を張った。そして、「(札幌市の)10区で意見交換会を実施してきた。参加者の中にも反対する方がいたことは把握している。高齢者の参加者も多く、さまざまな意見を頂いた」「市としては、将来を考えると、持続可能な社会をどう作るか。若者の負担をどう抑えていくか。それを市民と一緒に考えたい。さらに高齢者の健康を後押ししていければと考えている」と回答した。

敬老健康パスの制度(イメージ)(「健康寿命の延伸に向けて」(札幌市保健福祉局高齢保健福祉部)より https://www.city.sapporo.jp/somu/koho/hodo/202311/documents/kenkoujumyou20231122.pdf)

各地で進む敬老パス見直しの動き、継続できる制度を運用するには

日本各地で敬老パスの見直しを進める動きがある。例えば、仙台市の敬老乗車証では、仙台市内に住む70歳以上の高齢者を対象とし、市バスや地下鉄、宮城交通バスを利用できる。今年の9月30日までは1000円のチャージにつき100円を負担することになっていたが、今年10月1日以降は1000円のチャージにつき250円を負担することとなる。負担金が増える理由は「事業費の増加等が見込まれ、敬老乗車証を持続可能なものにしていくため」(仙台市の担当者)とした。なお、介護保険料の所得段階に応じ金額は上乗せされる場合がある。

名古屋市では、利用回数の数え方を変更することになった。名古屋市に住む65歳以上を対象とした名古屋市の敬老パスでは、市バス、地下鉄、名古屋観光ルートバス「メーグル」、ゆとりーとライン(ガイドウェイバスなど)、あおなみ線(名古屋臨海高速鉄道)を1年で730回利用できる。利用負担金は1000円から5000円。しかし、今年2月1日から利用回数の数え方が変わり、市バスと市バス、市バスと地下鉄を90分以内に乗り継いで利用した場合には、今まで2回分と数えていたところを、1回分と数える。数え方が変わった理由は、「乗り継ぎする利用者もおり、730回という上限回数を不安に思うとの意見をもらっていたため」(名古屋市の担当者)だという。そのほか、京都市や神戸市などでも敬老パスの利用者負担を増やしている。

札幌市の敬老パス見直しに反対する団体を取材した際、「高齢者といわれるが、今生まれても60年後にはみんな60歳を迎える。それを想定して考えてほしい」と話していたのが印象に残った。しかし、札幌市側が「利用実態に大きな隔たりがある」と見解を示している通り、制度を効率的、そして継続的に運用するには、利用実態などに合わせた制度運用が求められるはずだろう。

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