2男4女8人の上野家「大家族って最高」 小遣い給料制、手伝いの出来高払い 6人目出産、みんなが後押し

12歳から7カ月まで、6人の子どもがにぎやかに暮らす上野さん宅=西脇市内

 日本人が子どもを産まなくなっている。2022年の合計特殊出生率は1.26と過去最低で、若い世代には「子どもを持たない」という選択が広がりつつある。そんな世間の流れに反し、「大家族」という生き方を選択したのが、兵庫県西脇市の上野拓生さん(40)と悦里さん(40)夫妻だ。子どもは12歳から生後7カ月まで総勢6人。ネットを飛び交う「正しい子育て」情報にとらわれない、おおらかな暮らしは笑いが絶えない。「大家族って、最高」。悦里さんの言葉は幸せに満ちている。(伊田雄馬)

 まず上野さん一家の愉快なメンバーを紹介したい。長男優太朗さん(12)、長女茜里(あかり)さん(10)、次女翠里(みどり)さん(8)、三女栞里(しおり)さん(6)、次男隆仁(りゅうじ)ちゃん(3)、四女咲里(えみり)ちゃん(7カ月)。優太朗さんは春から中学生。長女~三女の3人が同じ小学校に通い、年少の2人は未就学だ。

 拓生さんと悦里さんは大阪市に本社を置く鉄鋼メーカーで同僚として出会い、結婚。子宝に恵まれ、5人目の隆仁ちゃんまで、2年に一度のペースで出産した。もともと欲しかった人数は3人だったため、5人目の出産時には「もう十分」と考えていたという。

 「6人目を持つ」という決断を後押ししたのは、子どもたちだった。5人目の出産後、姉の産んだ赤ちゃんを抱っこした悦里さんは、その日の夜に思いがけず涙があふれてきたという。

 「そうか。自分は赤ちゃんが欲しいんだ」

 自身の感情の変化に戸惑いながらも、夫や子どもたちに「新しい家族が欲しい」と思いを打ち明けた。すると、優太朗さんが「僕たちも赤ちゃんが好きだから、いいよ」と悦里さんの思いを肯定。茜里さんも賛成し、家族を増やすことを決めたという。

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 8人家族の暮らしは、悦里さんの徹底した支出管理により成り立っている。家は悦里さんの祖母から受け継いだため住宅費はかからないものの、食費を週1万円に抑えるため、日々の買い物は必要性を吟味。学用品はもちろん上の子のお古で、家に菓子やジュースが出てくることは少ない。

 小遣いは給料制で、学年に応じた基本給に家事の手伝いが出来高で加算される。不正行為を防ぐため、毎日ホワイトボードに自分の行った家事を書き出し、悦里さんが確認する。

 家事の単価は20~30円に設定されているが、下の子の面倒を見るのは家族として当然なので、査定に含まない。そんな中、50円の「高額バイト」がある。夏に多く発生するアレの退治だ。「私が苦手なゴキブリです。発生すると『私の50円』と取り合いになる」(悦里さん)。

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 大家族の日常はにぎやかだ。車で出かける時には、出発前に車内で子どもたちの点呼を取る。

 「イチ」、「ニー」、「サン」…と上の子から番号を答えるが、声がしたからといって安心はできない。楽しくなって別の番号を代返してしまう子がおり、目視での確認も必要。晴れなのに長靴を履いていたり、そもそも靴を履き忘れていたりする可能性もある。

 小学校の授業参観日は、夫婦でシフトを組み、15分ずつ3人の教室を回った。階段を上り下りしている間に息が上がり、「子どもは参観日だけど、親は運動会だった」と笑う。

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 「死ぬか、死なないかを基準におおざっぱでいい」というのが、悦里さんの子育て観。栄養バランスが高くなくとも、風呂の水が多少濁っていようとも、子どもは元気に育つ。情報過多の社会で「正しい子育て」を過剰に意識すると、自らの首を絞める-と考える。

 大学の無償化など、国が打ち出す多子世帯への経済援助はありがたいが、支援に頼らずとも学費などを捻出できるように、児童手当には手を付けず貯蓄や運用に回している。その上で「あえて不自由な暮らしをさせている部分もある」とも。吹き口に歯形が付いたハーモニカや、色が欠けた絵の具を使うことで、物を大切にする価値観を身に付けてほしいという。

 家族が集まるリビングには常に子どもの声が満ち、悦里さんは「入場無料の動物園」と笑う。特にやんちゃ盛りは次男の隆仁ちゃんで、取材中に何度も記者のカメラに手を伸ばしては叱られていた。カメラの安否に気を取られていると、取材ノートの片隅に誰かが、かわいらしいイラストを描いていた。

 「みんな、なんで子どもを欲しくないんだろう。大家族って、最高ですよ」。子どもたちに囲まれた悦里さんは、心の底から幸せそうだった。

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