「根底が違う」 元CAが感じた国際結婚の価値観のずれ 埋めるために必要だったこと

鈴木みどりさんとスウェーデン人の夫【写真提供:鈴木みどり】

航空業界で注目され始めている、消臭効果の高い「Flight Stockings(フライトストッキング)」を開発した奈良県の株式会社鈴木靴下・鈴木みどりさん。配偶者はスウェーデン人で、スウェーデンにはない“婿入り”前提で国際結婚しました。さまざまな分野で活躍する女性たちにスポットを当て、その人生を紐解く連載「私のビハインドストーリー」。後編では、スウェーデン人の夫との結婚生活から学んだことについて話を伺いました。

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スウェーデン人夫との出会い “婿養子”が前提だった結婚

鈴木さんは大学卒業後、日系航空会社で客室乗務員(CA)として勤務しました。元CAの国際結婚と聞くと、その仕事柄、機内やフライト先での出会いかと思いきや「実は高校時代なんです」と振り返ります。

「夫とは、約20年のつきあいになります。高校時代、私はアメリカに留学していたのですが、日本に帰国後、奈良県の別の高校に留学していた夫と出会いました」

夫がスウェーデンに本帰国する1か月前に出会い、帰国直前、鈴木さんから告白しておつきあいが始まったそうです。

スタートから遠距離だったふたり。その後、夫が日本へ再留学するなどして関係を深め、結婚を意識するようになりました。しかし鈴木さんにとって、結婚となると婿養子が大前提でした。

「『家業を継いでくれ』と親から言われたことはなかったのですが、長女ですし、家族からも『鈴木家を守っていってほしい』と言われて育ちました。ですから婿養子は仕方ないことなのかなと。夫には、最初から『私は奈良から離れられない。申し訳ないけれど、婿養子になってほしい』と話をしていました」

ただ、スウェーデンに婿養子という概念はないようで……。夫は理解し、受け入れてくれましたが、夫の家族に理解してもらうにはやはり時間がかかりました。

「夫はご両親が離婚しています。お義父さんは『寂しいけれど、息子が望むなら』と承諾してくれましたが、女手ひとつで息子を育ててきたお義母さんに理解してもらうには時間が必要でした。お義母さんは思いやりのある本当に優しい方なのですが、婿養子の話になると『どうして私の息子が日本へ行かないといけないの? あなたがスウェーデンに来たらいいんじゃない』とつらそうでした。」

鈴木さんはスウェーデンと日本とを行き来。日本の家族もスウェーデンに行くことで、義母の日本に対するイメージが変わり、少しずつ理解を得ていったといいます。そして、日本で行った結婚式に出席してくれたときは「本当にうれしかった」と鈴木さん。式では、お義父さんもお義母さんもそれぞれお祝いのスピーチをしてくれ、今でも良い関係性を築いています。

スウェーデン人の夫から知る「日本の不思議」

結婚当初から、「やっぱり違うと思うところはあった」と鈴木さん。たとえば、日本のように「家業を継ぐ」「家を守る」という考え方は、スウェーデン人の夫にはない感覚だったようです。

「実はお義父さんも、その父(義祖父)も会社を経営していました。業種は同じですが、お義父さんは会社を継がずに自分の会社を立ち上げています。それに夫も、父や祖父の会社を継がずに、自身はエンジニアとして働いています」

ただ、鈴木さんは出会ってからずっと「家を守っていかなあかん、守りたい」と言い続けてきたそうで、「夫もだんだんと理解してくれるようになった」と感じています。

ほかにも、定期預金ひとつを取ってみても、社会福祉や保証制度が充実している国で生まれ育った夫からすれば「なんのためにするの? それって結局、銀行にとって都合が良いだけだよ」と疑問に。また、結婚式での引き出物の存在も、夫にとっては新鮮だったそうです。

「日本だと、引き出物という『来てくれてありがとう!』のお礼の品を贈りますが、逆なんですよね。『結婚おめでとう!』と周りからプレゼントをいただくシステムのようで、不思議がっていました」

夫との出会いでコンプレックスの塊から変わるきっかけに

夫が日本での生活で不思議だと感じたことと同様に、鈴木さん自身もまた、スウェーデンで生まれ育った夫と一緒に過ごすことで、発見したことがあるといいます。それは「今を楽しむ」ということです。

「たとえば私、ものすごく仕事人間なんです。結婚した当初、まだ夫婦ふたりだったときは、夕飯を食べるためにいったん自宅に戻り、ごはんを食べたらまた仕事しに出かけて、真夜中まで仕事したり、週末や休日も仕事したりしていました。すると夫から、『僕たちはなんのために結婚して、僕はなんのために日本に来たの?』と言われて。その一方で夫は、すごく多趣味な人なのですが、仕事は仕事、休みは休みとメリハリをつけられる人で、休みの日も家族との時間が最優先。そのうえで、自分の趣味の時間も大切にしています。3Dプリンターを使って雑貨を手作りするなど、自分の時間もやっぱり楽しんでいるんです」

夫の結婚生活で、鈴木さんは、何に対しても「○○しないといけない」という思いがとても強かった自分に気づいたといいます。

「そんな私に、夫は『みどりは責任感が強いところが良いところだけど、今を楽しむことも大事だよ』と言ったんです。そこでハッとさせられました。時間をかけて夫と対話を重ねるたびに、『今を楽しむことも忘れてはいけない』と考えるようになりました。夫は、日本の文化や価値観を理解し、受け入れながらも、自分のスタンスをぶらさずにきちんと持っている人です」

また、夫と出会い、鈴木さんは「自分のことが好きになったんです」と笑顔を見せます。

「つきあっていた当初、私は自分の容姿や性格すべてに自信が持てず、コンプレックスの塊でした。そんな私に、夫は、小恥ずかしいくらいのポジティブな言葉を常にかけてくれて(笑)。毎日毎日ポジティブな言葉をかけてもらうと、不思議なんですけど、だんだんとポジティブに考えられるようになってくるんですよね。そうやって少しずつ自分に自信がついてきたような気がします」

スウェーデン人の夫の存在は、鈴木さんの仕事に対しての向き合い方にも大きな影響を与えています。

「主人からのポジティブな言葉がきっかけとなり、私は変わりました。ちょっとしたきっかけが人を変え、笑顔を生み出すことを、身をもって実感しています。今、鈴木靴下は自分たちの社会的意義を改めて考え直す時期にきていますが、それを考えるうえでこの実体験がいきているように感じています。『自分たちの商品が誰かの悩みに寄り添うことで、コンプレックスをも愛せる、ありのままの自分をも愛せるきっかけになってほしい。それが、今の自分をもっと楽しむことにつながるのでは』と感じています」

しなやかさと強さを得た鈴木さんは、今後ますますの飛躍を目指しています。

◇鈴木みどり(すずき・みどり)
1958年に奈良の地に創業した、株式会社鈴木靴下 米ぬか事業部部長。幼い頃より家業を見て育ったが、大学卒業後、日系航空会社にてキャビンアテンダントとして約3年間勤務。その後、家業である株式会社鈴木靴下に就職した。父が開発した「米ぬか繊維」を活用した商品の開発に加え、元CAというキャリアをいかし、「Flight Stockings(フライトストッキング)」を開発。現在、大手航空会社の社内でも販売されている。また、高校時代に日本へ留学していたスウェーデン人の男性と国際結婚し、2児の母である。

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