大宮高校 安元利充監督#2「サッカーを通じて考える力も養成したい」【文蹴両道】

大宮・安元利充監督

 埼玉県立大宮高校の今年の難関大学合格者は、東大が昨年と同数の19人、早大が98人で慶大が50人、東京理科大には134人が受かった。医学部は国公立・私立合わせて29人が合格している。

 男女共学の公立校では県内で最も偏差値が高く、定員40人の理数科は今春東大に44人が合格した浦和高校をしのぐ難しさだ。授業は1コマ65分で土曜日も隔週で実施し、2学期制を採用。夏休みの短縮などを合わせると、授業日数は年間30日分以上も確保でき、3学期制で50分授業の学校に比べると、勉強時間は大幅にアップする計算だ。

 サッカー部も優秀な生徒が多く、安元利充監督は同じく進学校の浦和市立高校(現市立浦和)出身。2001~13年までJリーグ担当審判としてJ1、J2合わせて168試合で副審を務めた。

――部活動においても、“自ら学び、自ら考える”という学校の特長を生かしているのですか?例えば練習メニューなどで。

 いや、トレーニングの内容についてはいろんな条件や要素を考慮して私が考えています。さすがに選手間でメニューをつくって練習するところまではいっていませんね。

大宮・安元利充監督

――部活動に精を出し過ぎるため、勉強がおろそかにならないよう、先生のほうからハッパを掛けることもあるのですか?

 それについては個人面談もしていますし、言うべきことはしっかり助言しています。勉強と部活動のバランスで悩んでいる時などは、その都度アドバイスもしています。成績を向上させるには何といっても予習、授業、復習が最重要であることを伝えます。予習だけで時間が足りなくなり、復習にまで手が回らないという生徒がいましたので、いつなら復習する時間を確保できるのか尋ねてみました。すると「考えてみます」と言い、その次のテストでは成績が伸びていたんですよ。どんな工夫をしたのか聞いてみると、土日を集中的に予習の時間に充て、授業のあった日には確実に復習をこなし、少しあいまいだった事柄を明確にするようにしたら、さらに得点がアップしたそうです。また、長期休業期間には可能な限り予習に時間を割いたというのですから、さすがだなと感心したものです。「こうしてみたらどうかな」くらいの感じでたまにはアドバイスもしますが、自分たちで考えられる生徒ですから、私のほうから「やれやれ」と尻をたたくことなどはありません。

大宮・安元利充監督

――安元先生が着任されてからの9年間で、サッカー部から東大生は生まれましたか?

 残念ながら現役で合格した生徒はまだいませんが、浪人して受かった生徒はいますし、千葉大に現役で合格し通いながら勉強して、翌年東大に入った教え子もいます。京大や東工大、医学部は現役で合格していますね。どの生徒も自分で決めたことをやり抜く力がありました。現在の部員の中にも5段階で4.9、学年で2番の生徒がいます。受験すれば東大も行けるんじゃないでしょうか。サッカーをやっているから勉強ができない、というのはどの選手にも当てはまりませんね。

――安元先生が浦和市立高校の頃と比較し、今の高校生気質とはどこが決定的に違うと感じますか?

 例えば塾通いをしてテクニックや解法などに頼って答えを出してきた生徒というのは、入学してからそれほど成績が伸びませんよね。本当に理解した上で次に進まないと、なかなか点数は上がらないものです。サッカーも同じではないでしょうか。見よう見まねではいくらやっても駄目です。その本質を見ないと成長するのは不可能だと思います。今はスクールなどレッスン場がたくさんあって手厚く教えてくれますが、やっぱり最終的には自分で考えながらやらないとうまくはなりませんよね。私にしても(高校時代の恩師である)磯貝(純一)先生から、そんなにあれこれ教わったわけではありません。あの場面、どうして1対1で抜かれてしまうんだろうと観察し、「ああ、こういうタイミングで動き出せばいいのか」など、とにかくいろいろなことを考えながら、うまくなろうと取り組んでいた記憶があります。今の子どもは様々なものに頼り、守られていて自立し切れていないのかな、とも思います。そのあたりに世代の違いを感じますね。

大宮・安元利充監督

――今シーズンのサッカー部の目標はどこに置いているのですか?

 全国高校選手権予選で夏の1次トーナメントを突破し、秋の決勝トーナメントに進むことをまずは第一に目指しています。最近はずっとこのテーマを掲げているんです。

――監督のチームづくりに対する考え方を教えて下さい。

 一人ひとりがきちんと情報収集し、それを基に正しく判断してプレーするサッカーです。指導陣の「蹴れ」とか「つなげ」「走れ」といった指示に任せて動くのではなく、自分たちが持っている引き出しの中から何がベストのプレーなのかを考え、行動することを求めています。強い相手と戦えば守備に人数を割いて、ブロックを形成した守備的な戦法を選択することもありますし、やれる手応えを感じたら前からプレッシャーを掛け、怖がらずにボールをつないで攻める展開にもなります。勝つことはもちろん大事ですし、そこを目指さないといけないのでしょうが、うちは勝利だけ追求しているわけではなく、サッカーを通じて考える力も養成したいと思っています。

――本格的なチームづくり、チーム強化はこれからでしょうが、現時点で大宮の特長や強みはどのあたりにありますか?

 新3年生は力のある選手がけっこういます。1月の新人大会は南部支部予選3回戦で、浦和学院に0-4で負けてしまいましたが、前からしっかり追い掛けて球際でも頑張って戦っていました。技術的には決して高くはありませんが、そんなチームカラーを生かしながら何とか目標をなし遂げたいですね。内容のあるいいサッカーもやりたいし、勝ちたい思いも相当なものです。うちは大学の体育会で続けるような選手は皆無なので、ここで結果を出したいという気持ちがものすごく強いわけで、絶対に決勝トーナメントへ到達し、達成感に浸りたいと考えています。本当は大学に行ってもプレーしてくれる選手が出てくれたら最高に嬉しいのですが……。

――埼玉を代表する進学校の教師、監督としてのやりがいは、どんなところに感じているのですか?

 それは生徒の成長に尽きます。それまでできなかったことができるようになり、さらに自分たちで考えてコミュニケーションを取って何かを創り出してくれた時などは、指導者として誇りに思います。サッカー部に関してなら、私のほうから指示や示唆をしたわけでもないのに、キャプテンが率先して部員に発信したりする姿を見た時は、「いいな」ってすごくやりがいを感じますね。               

(文・写真=河野正)

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