「責任が重いのは嫌なので一生平社員でいてもいいですか?」”出世をしたくない”若者たちと、潜む”老後への影響”とは?

出世したくないと思う若者は珍しくはない

まず、出世の定義について考えておきましょう。

「会社の代表になる」「業界で有名になる」といった、社会的に大きな成功を収めることを出世という方もいらっしゃるかもしれませんが、今回はよりイメージしやすくするために、「会社で役職に就くこと」を出世と捉えておきます。

出世について、東晶貿易株式会社の行った「出世欲」に関するアンケートによると、20代の男女2327人のうち77.6%が「出世をしたくない」と回答しています。理由としては「責任のある仕事をしたくない」という声が最も多く、他には「プライベートを大事にしたい」「会社内の地位に興味がない」などといった声があります。

理由はさまざまですが、現代において出世を望まない若者は珍しくないようです。

一生平社員でいて後悔する可能性もある

働き方は人それぞれであり、出世を望まないことも人それぞれの自由です。しかし、若いうちは出世をしたくないと思っていたとして、年を重ねていった先でもそのまま同じ気持ちであるとは限らないでしょう。

出世の有無で収入は異なるため、年齢を重ねるごとに出世を選んだ同期や友人知人など周りの人とは収入に差がついていきます。加えて、結婚や出産、子育てに親の介護など、必要となるお金も年々増えていきます。出世していないため収入が変わらない、もしくは低いままだと後悔することにもなりかねません。

参考までに、厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査の概況」によれば、非役職者の賃金28万1600円に対し部長級の賃金は58万6200円となっています。その差は月間30万4600円、年間では365万5200円とかなり大きな額になるといえます。

係長級でも賃金は36万9000円となっており、非役職者と役職者とでは大きく給与が異なることが分かります。出世を回避し平社員のままでいた場合、役職者と収入に大きな差がつくことは覚悟しておかなければなりません。

老後への影響を忘れてはならない

出世の有無による影響は老後も続きます。その一つに年金に関することがあり、厚生年金の受給額は現役時代の収入におおむね比例しています。

一例として、月収28万程度で賞与が年2回(年収およそ400万円)の平社員として働き続けた場合の年金受給額を調べてみましょう。計算には厚生労働省の公的年金シミュレーターを使い、設定は下記のとおりとしました。

__●生年月日は1995年5月1日
●20歳から21歳まで学生として国民年金に加入
●22歳から59歳まで年収400万円の正社員として働く__

この場合、年金見込み受給額は158万円、月額換算するとおよそ13万円となります。令和6年度現在における厚生年金の平均受給額はおよそ14万4000円のため、上記の年金見込み額は平均額よりも1万4000円ほど低い額になります。

老後、年金13万円で生活することができるのか、不安に思う方もいらっしゃるでしょう。老後までに十分な資金を貯めることができればいいのですが、誰もがそうできるとは限りません。

このように、今出世を拒み収入が低いままだと、年金受給額が思うほどの額にならず、老後に後悔する可能性もあります。

まとめ

責任が重くなることを嫌がり、一生平社員でいたいと考える若者は決して珍しくありません。しかし、将来的には同世代と大きく収入の差がついたり、結婚や子育て、老後の生活などで必要となる支出を思うように賄えなくなったりすることもあり得ます。

もし、出世を回避し続けたいのであれば、今だけでなく将来の生活や収入についても視野に入れた広い視点から考え、準備をしていく必要があるでしょう。

出典

東晶貿易株式会社 出世欲に関するアンケート
[厚生労働省
令和4年賃金構造基本統計調査の概況(14ページ)](https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/dl/13.pdf)
公的年金シミュレーター
令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況

執筆者:柘植輝
行政書士

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