柿崎ゆうじ監督×出合正幸×竹島由夏が語る、『コウイン ~光陰~』で追求した警備のリアル

4月12日に公開される映画『コウイン ~光陰~』の監督を務めた柿崎ゆうじと、W主演の出合正幸、竹島由夏の鼎談インタビューコメントが到着した。

本作は、民間警備会社の生き様を描いた『第二警備隊』(2018年)の続編として製作され、監督の実体験をもとに作られている。

柿崎は、民間警備会社を舞台にした映画を再び作ろうとしたきっかけについて、「今、ウクライナ戦争、パレスチナ問題はじめ、世界中が不安定な世の中になっていまして、日本を取り巻く環境も決して安全とは言えない状況にある。その中で、民間の警備会社がどんな仕事をしているのか、どんな苦労をして人を守っているのかということをぜひ知っていただきたいという思い、そして、『第二警備隊』の頃から比べますと、技術も変わり、環境も変わっていますので、進化したエステックを見せたいという思いで製作しました」と明かした。

主演の出合と竹島は、本作の制作が決まったことを聞いた時、どのように感じたのか。出合は「最初にイメージしたのは、『第二警備隊』の高城をもう一度演じる、ということだったんです。ところが、監督から今回はあれから10年後の話だと。成長した高城を見せてほしいと言われたので大きな衝撃を受けました。10年で、高城がどう成長し、隊員たちとどう接するようになったのかをできるだけ見せたい。そこで、見栄えから動き方から、前作の高城とは差をつけたつもりです」と、前作からの成長を意識したことを明かした。

竹島は「前作は、監督の実体験をもとにしたドキュメンタリーに近い作品で、佐野という役も実際にモデルがいましたので、真実を伝えるという映画でした。私自身、前作に関わって、世の中に対する意識が変わり、『第二警備隊』で描かれていることは実際に起こり得るのだと思うようになりました。本作でも、女性が警護の仕事をしていることが描かれていますが、ウクライナ戦争でもまさに多くの女性が戦士となって戦っています。そういうことを、本作の中で、私が女性として表現できたらと思いました」と思いを吐露。続けて「佐野は、元不良という変わった設定の女性ですが、警備隊としての仕事を全うしているところを多くの方に観ていただきたいです。リアリティにこだわって演じさせていただきました」とコメントした。

そうしたそれぞれの“変化”をふまえて、完成した映像について竹島は「佐野は、前作の冒頭では警備隊に入社したての新人でした。それから時を経て、現場にも出るようになった佐野の10年間をどう作り込むかという時に思ったのは、元不良で、今まで真っ当な人生を歩んでこなかった佐野が、エステックに入って初めて人のためになる仕事をした、自分の仕事とても意義を感じた、ということでした。仕事に情熱を注いで、正義感を持って。ただ、根が不良なので表現の仕方がやや暴力的ではあるんですが、彼女にとって仕事が恋人であり、彼女に女性らしさが唯一あるとすれば、仕事に恋愛をしている、それくらいの気持ちを持って仕事を全うしている。そういう佐野を私は本作で表現したかったです。そして、完成した作品を観ての私の第一印象は、『佐野は女じゃないな』でした(笑)」と本音を明かした。

さらに「仕事に全然女を出していないですし、喋り方も何もかも。でもそれって、究極、命を懸けて闘っている姿が、男でも女でもなく、懸命に生きているひとりの人間がそこにいただけかなと。それは、前作で入社した時からの佐野の成長でもあり、佐野の生き方というものがこの作品の中で表現できたのかなと思います。そしてそれは、高城さんはじめエステックのメンバーとの強い絆があるからこそ、信頼する人がいるからこそ、自分が命を捨てても構わないという意識になったと思います。そういう意識が、本作の佐野に表現されているんじゃないかなと思います」と佐野の生き方について語った。

出合は「これは監督とも一緒にこだわったことなんですが、私は、見た目から意識しました。前作の設定は、撮影時よりも十数年ほど前の話だったので、7~8キロ増量して当時のスーツが似合う体形にして挑んだんです。年齢の設定も若かったので、体形を役にはめていきました。今回は、実年齢なんです。でも私は実年齢に見られないタイプなので、今回は6~7キロくらい減量して60キロくらいにし、顔に皺を増やして年齢に合わせました。過酷な現場なので、細身の方が人間的な色を出るのではないかと思い、真逆の体形調整をしたのです。それから、前作の高城は、敬愛する先輩を追いかけるという気持ちが強かったんですね。ですが今回は、追いかけていた人が亡くなって自分はどうすればよいのか、という問いに軸を置きました。追いかけていた人の言葉や行動が自分の中に残っていて、それを自分で体現しようとする。しようとするのですが、自分のチームの隊員への思いや外的要因から葛藤するんです。エステックの隊員としても、人間としても、高城というキャラクターをより複雑に表現しました」と、細部までこだわった役作りを明かした。

出合が“過酷な現場”と口にしたことについて、柿崎は現場がどのような状況だったかについて語った。「過酷ということでは、まずひとつには、場所、ですね。標高が1100メートルくらいあって、なにしろ寒暖の差が激しく、天候も不安定なんです。スタッフも俳優も、身に堪えるという過酷さがひとつ。それから、やはり過酷な物語を描いていますので、俳優の精神状態もどうしても過酷にならざるを得ない。撮っている我々スタッフも、俳優に寄り添っていこうとするので、当然気持ちの上でも同じ線上に立つ。振り返ると、心身ともに過酷だったように思いますね」と、過酷な現場を俳優とスタッフ一丸となって乗り越えたことを明かした。

本作は警護員の動きの緻密さや、専門用語が出てきても説明的なセリフが入らずに進行していくことで現場にいる緊迫感を味わえる作りになっている。出合と竹島は演技のリハーサルとは別に、警護員の動きの練習について聞かれると「(事前に)ありました」と回答。

竹島は「前作から続投するキャストもいましたが、今回新しく入るキャストもいたので、改めて警護の練習をしましたね」と答え、出合は「車の乗り降りもそうです。警護対象者が車から下りてくる時の基本の動きはこう、といったベースの部分は叩き込まれましたね。モデルとなった監督の警備会社の警護演習も拝見させていただきました。でも、演習、じゃないんですよ。隊員の皆さん、本気でやっていらっしゃるんです。バーンとタックルして、バターンと倒れて。あのように実際の勢いでやるから、現場で動けるんだということを感じました。動きの流れを見るのではなくて、その場の空気を感じる、そういう貴重な機会を与えていただきました」と実際の警護演習を参考にしたことを語った。

演出について、柿崎は「監督と俳優ですから、画の中でどういう見え方がするのかを考えて演出をするわけですよね。例えば俳優に、目線をこっちに振ってほしいという演出はできるわけです。でも、動きというのは、その意味がわからないとしょうがないんです。ですから、演出というよりも、警備の指導と一緒で、『あの森からライフルで狙えば400メートルくらいあるから充分届く、だからあそこを見る。ここはあそこの木陰に隠れているかどうかを見る』というように、実際の警護で襲撃されることを想定して説明しました。そうすると、目線は、狙われるであろう方向に対して向くようになります」と警護訓練のような演技指導となったことを明かした。

そうした演技指導について、竹島は「監督とは別に監修の方が入ってアドバイスするのが通常だと思いますが、監督にその知識が全部あるので、目線のやり方も、その意味を全部教えてくださって。手の動きも、こっちでガードすればこっちで動ける、といった理にかなった身体の動きというものを教えていただきました」と、監督を務める柿崎の経験が活かされた現場だったことを語る。

出合も続けて「実際は、動きが一連なんです。例えば、不審者が現れたら、身構えて、警棒を出す。その動きは別々で捉えがちですが、身構える頃には警棒を出しています。動きが流れているんです。流れているので、そこに表現を入れてしまうと、動きが嘘になってしまう。そのことを演じる我々は気づきました。気づいた反面、完成した映像を見ると、これはしっかり観てもらわないと、2つの動きがあることはわからないだろうなと思いました。一連の動きになっているので」と演技面での注目ポイントを明かした。

柿崎は、出合と竹島が警備員としての動きに馴染んでいくのは早かったと語る。「俳優は、演じる役をどう自分に取り込むかだと思いますので、警備員、ボディガードとしての素地を実際に持ってもらおうと思い、いろいろ教えました。ふたりともそれを欲していたし、一番身に着けたいことでもあったでしょうから、身に着けた上で、今までの感性を活かして演じてくれたんだと思いますね。実際ふたりの動きを見て、警棒を持つ手だったり、無線機を持つ手だったりが、非常に馴染んで見えました。吸収は早かったです。例えば警棒を出すシーンなどは、手元を寄りで撮って、警棒が伸びるところをまた寄りで撮ると、画的にはいい表現かもしれないですが、民間警備員はそういうものを所持していることをあからさまに見せてはいけませんから、いつのまにか抜いているという演出をしました。そこはふたりがちゃんと理解して、やってくれましたね」と太鼓判を押した。

本作では、先輩の殉職を胸に抱えながら仕事を続けていく2人、そしてチームの姿が描かれる。「守るべき人を守る」、「自分の命を大切にする」というテーマから、広い意味で「どう生きていくのか」というテーマまで描かれた本作について、柿崎が注目してほしい点は「目的を達成するために最善の努力をする警備員たちの心情を観てほしい」と語る。「刻々と選択肢がなくなっていく中で、それでも立ち向かっていかなくてはいけない。規模の大きい小さいに関わらず、大きいものは戦争でしょうけれど、大小に関わらず常に決断をして、そして動かなくてはいけない。その心情をぜひ観ていただきたいと思いますね。そこは、非常に皆が素晴らしく表現していたと思います」と熱弁。

さらに、実際の警備の現場では言わないことを言った唯一のセリフについても明かした。「自分が脚本でひとつだけ、非常に葛藤しましてね。ほぼリアルに言葉を選んだつもりなのですが、一か所だけ、本来自分が、自分の警備会社では言わないことを言ったんです。今観ると、しっくりこないです。けれども、観た方にとっては、多分その方がいいのかなと……。隊長に対して『相手が武器を持っていたらどうしますか?』という隊員からの問いかけがあるんですね。その時の、本来の正しい解答として『迷わず先に殺せ』と言うと思うんです。警備員としての本当の仕事であれば。さすがにそういう表現はできない。防災無線を持ち帰るという目的があるシーンだったので、だから、『必ず死ぬな』と言わせました。その言葉の奥を、想像してほしい。目的を達成するために最善の努力をするということは、イコール、非常時には相手との壮絶な闘いもあるだろうが、勝ち抜いてこいという意味です。そういう、言葉ではなかなか表現しきれないその先を感じていただけたら嬉しいですね」と語った。
(文=リアルサウンド編集部)

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