宇宙ゴミ除去衛星「アドラスJ」、対象との距離を数百kmに縮める–アストロスケール

宇宙ゴミ(スペースデブリ)の状況を調べるために打ち上げられた商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」が対象デブリとの距離を数百キロメートルに縮め、さらに距離を縮める近傍接近を開始した。アストロスケール(東京都墨田区)が4月11日に発表した。

2月22日から開始した接近の運用では、軌道投入時には対象デブリと異なる軌道にあったADRAS-Jを測位衛星と地上からの観測値の情報を活用して(絶対航法)、対象物体と同じ軌道に調節し、対象デブリの後方数百キロメートルにまで接近させた。

ADRAS-Jに搭載されている可視光カメラで対象デブリを捕捉して、衛星に搭載されているセンサーで対象デブリの方角情報を活用する「相対航法」(Angles-Only Navigation:AON)を開始した。

今後は、この方角情報を活用しながら安全に接近運用を続け、センサーが取得する対象デブリの形や姿勢などのさまざまな情報をもとに、さらに距離を縮めていく。数キロメートルまでは可視光カメラで接近、赤外線カメラに切り替えて数百メートルまで接近する。その後、レーザーで距離や形などを計測するLiDARで近付く。

可視光カメラから赤外線カメラ、LiDARといったセンサーをシームレスに切り替える必要がある。こうした流れも難易度の高いものであり、同社は「高速で移動しながら望遠鏡、双眼鏡、虫眼鏡を切り替える」イメージと説明している。

ADRAS-Jは、相対的に自らの位置を制御するための斜め向きの8本の推進器(スラスター)と、効率的に大きな推力を生んで大きく軌道を変更するための真っ直ぐな4本のスラスターを使い分けることでダイナミックかつ繊細な動きが可能という。本体サイズは約83cm×81cm×120cm(太陽光パネル展開時の幅は約370cm)。重量は約150kg。

アストロスケールは、デブリ除去などの技術実証を目指す宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「商業デブリ除去実証(Commercial Removal of Debris Demonstration:CRD2)」プロジェクトのフェーズ1の契約相手方として選定され、ADRAS-J(Active Debris Removal by Astroscale-Japan)を開発した。

今回のミッションは、2009年に打ち上げられたロケット「H-IIA」の第2段への接近、近傍運用(Rendezvous and Proximity Operations:RPO)を実証し、長期間放置された対象の運動や損傷、劣化といった状況を撮影する。

対象デブリであるH-IIA第2段は全長約11m、直径約4m、重量は約4t。今回のミッションの対象デブリは自らの位置情報を発信していない“非協力物体”。位置データや姿勢制御などの情報を得ることができない。

劣化や回転の具体的な状況など軌道上でのデブリの状態を把握しながら安全、確実にRPOを進めることは、デブリ除去を含む「軌道上サービス」を提供するための基盤になる。ADRAS-Jは実際のデブリに安全に接近し、デブリの状況を明確に調査する世界初の試みになる。ミッションの完了は5月中を予定している。

同社は、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」(End-of-Life Services by Astroscale – demonstration)で摸擬デブリとの距離を1700kmから160mに縮めることに成功している。

デブリに近付くADRAS-Jのイメージ(出典:アストロスケール)

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