シンガー・ソングライターのあいみょんさんの上に俳優の鈴木亮平さん、その左には落語家の笑福亭鶴瓶さん…。この並び、何かというと、えべっさんの総本社・西宮神社(兵庫県西宮市)に掲げられた絵馬のこと。2017年、えべっさん関連の絵馬を社務所内で飾り始めたが、20年にあいみょんさんが描いた絵馬が登場したことで若者からも一気に脚光を浴びることになった。以来、著名人の絵馬が増え、知る人ぞ知る「聖地」となっている。(土井秀人)
■鶴瓶さん、鈴木亮平さんら今や200枚超
同神社の境内には江戸時代に建てられた「絵馬殿」があったが、阪神・淡路大震災で全壊。震災を忘れないようにと、17年に地元の芸術団体などに依頼し、「えびすさまの心象」をテーマに絵馬48枚を描いてもらった。
その後、神社側が西宮市在住の鶴瓶さんを通じて同市出身のあいみょんさんに絵馬の制作を頼んだところ、手形が押されたものが届き、ファンの間で話題になった。
あいみょんさんは初詣でたびたび同神社を訪れており、22年1月1日発行の西宮市広報紙に寄せたエッセーでは青春時代のエピソードを披露。参拝を終えて自転車を押して歩く帰り道で友人と新年の抱負を語り合い、「痩せる!受験頑張る!貯金する!旅行に行く!好きな人に告白する!とか、ほんまにいろんな夢とか希望を西宮の街で話してきたんです」とつづっていた。
さらに22年秋、同市の阪神甲子園球場で凱旋ライブを開くにあたり、同神社で成功を祈願。この時はライブで流す映像のため、「福女」となり門から拝殿まで走る様子を撮影したという。ライブ当日の11月5日と前日は社務所の外にも行列ができるほどのにぎわいに。参拝に来たことを神社がインスタグラムに投稿すると、一気に拡散した。
以降、同神社は西宮ゆかりの著名人の絵馬を積極的に集め、テレビ番組の撮影で訪れた芸能人にも協力を依頼するようになった。同市出身の鈴木さんは厄よけの祈願に訪れ、自身の造語「不執研鑽」をつづった。プロ野球阪神タイガースの岡田彰布監督は昨年3月の必勝祈願で「アレめざす」と書き、優勝への期待が高まるごとにお参りするファンが増えていったという。今年は「連覇」としたためた。
当初、「現代の絵馬殿を再興する端緒に」と始めた取り組みだが、芸人やアイドル、スポーツ選手と幅広く並び、今や200枚超となった。権禰宜の小嶋今晨さん(28)は「来年で震災から30年。絵馬殿の再建はかなっていないが、有名人の描いた絵馬を通じて語り継いでいきたい」としている。