社説:経済安保法案 権利侵害の懸念拭えず

 幅広い市民のプライバシー侵害や知る権利の制約となる懸念が拭えない。与野党でさらに審議を尽くすべきだ。

 機密情報の保全対象を先端技術や重要なインフラにも広げる「重要経済安保情報保護・活用法案」が衆院を通過した。

 国が民間人を身辺調査し、資格を与えた人のみが情報を扱う「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」を導入することが柱である。

 政府は経済安保の機密保全制度がある欧米各国と足並みをそろえ、同盟国などとの情報共有や企業間の共同開発を進めるのが立法化の狙いという。しかし、どのような情報が機密に当たるのかを明確にしていない。

 サイバー攻撃対策や半導体の供給網などに関する情報が想定されるが、岸田文雄首相は審議で「運用基準で明確にする」と繰り返すばかりだった。

 運用基準は今後、有識者の会議を設けて検討するとしている。だが、政府の恣意(しい)的な機密指定で国民の知る権利を脅かしかねない。

 適性評価は家族の国籍、犯罪歴、精神疾患、飲酒の節度、借金まで調べるという。本人の同意を前提とするものの、具体的な調査の内容や判断基準は不明確で、人権侵害の恐れが否めない。

 評価取得のため、企業の上司からの指示を事実上強制される状況も想定される。だが、調査を拒否したり、適性が認められなかったりした従業員が、不当な解雇や配置転換などを被らないか保障されていない。権利保護の仕組みづくりが求められる。

 情報漏えいには5年以下の拘禁刑などの罰則を伴っており、政府の管理体制も問われよう。

 衆院では運用状況を毎年国会に報告するよう修正を加え、野党の多くも賛成して可決された。

 特定秘密保護法でも同様の仕組みを導入しているが、そもそも政府の情報開示が不十分な上、国会の審査会が秘密の開示を求めても政府側が拒む例が相次ぐ。

 国会が運用改善を求める「勧告」は、同法の制定から昨年までの10年間で海上自衛隊の漏えいに対する1件にとどまる。しかも強制力が伴わず、限界は明らかだ。

 なし崩しで機密の対象や範囲が広がる懸念への歯止めには、実効性のある監視体制を担保することが必要ではないか。

 参院では法案の不透明な内容と問題点を掘り下げ、国民の疑念に応える見直しを求めたい。

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