リジェネレーションは「ローカル」から始まる――サステナブル・ブランド創設者コーアン・スカジニア

Day1 プレナリー
コーアン・スカジニア サステナブル・ブランド創設者

リジェネレーシのコーアン・スカジニア氏が挨拶した内容を紹介する。

世界の現在地

「健全で持続可能な未来に向かう道筋として、皆さんと“リジェネレイティング・ローカル”とは何かを探求できることを光栄に思います」。スカジニア氏はそう話し、まずは世界が直面している課題を振り返った。

「気候変動に起因する自然災害は増え続け、それに伴うビジネスや経済、人間の混乱も増大してきました。世界中で数え切れないほどの生物種が失われています。そして、経済成長を続けるために、地球が1年に生み出す自然資源の量を上回る消費をし続けています」

スカジニア氏は、そのほかに感染症の脅威、人権侵害、社会的結束の崩壊、戦争の激化や脅威の増加、若者のメンタルヘルスの悪化、日用品の価格高騰、AIのリスク、さまざまな課題の結果として生まれる経済的損失などを課題として挙げた。

では、さまざまな課題があり、より複雑化する現代を生きるために大切なことは何か。スカジニア氏は「こうした課題を直視し、想像力と勇気、明るい希望をもって立ち向かうことです。それこそがサステナブル・ブランドが常に大切にしてきた価値観です」と話す。

そしてそれを実行するには、「サステナビリティだけでなく環境・社会的エコシステムのリジェネレーションを支援する製品・サービスを市場に提供する新たな方法をデザインすることが必要です。懸念は多いですが、希望はあります」と続けた。

リジェネレイティング・ローカルとは

世界各地でカンファレンスイベントを展開するサステナブル・ブランドが、リジェネレーションを初めてテーマに掲げたのは2021年。横浜で開かれた会議のテーマは“WE ARE REGENERATION(ウィー・アー・リジェネレーション)”だった。

では、なぜいま「リジェネレイティング・ローカル」か。スカジニア氏は「人類が直面する世界的な課題を解決し、私たちが望む未来を実現するには、まずはローカルの生態系とコミュニティの基盤を再構築することから始めることが必要です」と言う。さらに、非常に難しい問題であっても、個人や企業、コミュニティとしてローカルな解決策を探求することが前進につながると説明。「ローカルで生まれ、実行されてきた解決策は、他の場所に展開するためのひらめきやきっかけを与えてくれます」と続けた。

そこで、スカジニア氏は「リジェネレイティング・ローカル」の事例として日本航空の取り組みを挙げた。来日のために同社の飛行機に搭乗した際、アップサイクルや食品廃棄物の削減、福祉実験カンパニー「ヘラルボニー」との業務提携について知ったという。特にへラルボニーとの連携について、「ニューロダイバージェント・アーティストによる美しく心を動かすデザインを取り入れ、社会において重要でありながらもしばしば忘れられてしまっている人たちの希望や意義、目的を再生(リジェネレーション)することに取り組んでいます」と話した。

さらに、世界展開するサステナブル・ブランドとして、日本航空の取り組みを米国やアジア、欧州、南米の航空会社に共有したいとし、「共有することで、苦境に立つ地球に必要な変化のスピードで私たちは動き始めることができるのです」と述べ、こう付け加えた。

「ローカルを再生するには、自然への感謝の気持ちを取り戻す必要があります。私たちは、買い手と売り手、隣人と隣人、そして最も重要な、私たちと自然との間に密接なつながりを築き、再構築することが必要です。ローカルでリジェネレーションに取り組むことこそが、目標を達成するための最大の可能性を秘めているのです」

そして、サステナブル・ブランドにおいてコミュニティが重心であり、そのコミュニティは人々が自分の居場所を見つけ出し、つながりを取り戻し、補給をする場所であり、どこにいようともコミュニティに参加できると強調した。

自然に倣う

最後に、スカジニア氏は「より良く、サステナブルで、リジェネラティブなブランド、つまり自然と社会の両方が癒しと繁栄の能力を回復し、未来に存続するブランドを市場に送り出そうとしているのは皆さまお一人、または一社だけではありません。私たち全員が同じ使命のもとに一丸となり、それぞれのローカルで課題に取り組み、環境と社会のウェルビーイングのためのイノベーションへの道筋を見つけることで、より良い世界を切り開くことができるのです」と語った。

そして、困難なときにこそ自然に倣うよう話した。

「自然こそが、想像を絶するストレスの時代に対処する方法について無数の例を示してくれることを覚えておいてください。課題が増え、厳しさを増すにつれ、自然から学ばなければなりません。コントルタマツの木が火災の熱で鱗片を開いて種子を飛ばすように、生命は生命を生み出し、助ける条件をつくるよう設計されています。ですから、このことを思い出し、ビジネスを進化させるために前進する際に自問しましょう。『私たちは、市場に投じる製品やサービス、そして従業員や消費者、サプライヤーとの関係、依存している自然資源との関わりにおいて、生命を生み出し、助けとなる条件をつくれているか』ということを」(小松遥香)

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