『プリシラ』“彼の世界”に生きる確かな幸せと孤独の痛み

世界が憧れるスパースターとの夢のような恋。可憐な装いだった少女が、タイトなドレス、髪を黒く染め高く盛ったヘアに濃いアイメイクに。誰にも否定することが出来ない愛がそこにはあったはずだが、果たして“恋”は、愛する人の望む姿になることなのだろうか?(文・児玉美月/デジタル編集・スクリーン編集部)

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コッポラ映画でもっともほろ苦い作品

代表作『ヴァージン・スーサイズ』(1999)や『マリー・アントワネット』(2006)などで知られ、「ガーリーカルチャー」の代名詞であるソフィア・コッポラが、エルヴィス・プレスリーの唯一の妻であったプリシラ・プレスリーの視点から、知られざるラブロマンスを描いた。

異国の地で二人が出逢うオープニングは、東京という異国の地で心許ないアメリカ人の男女が同じ時間を共有する『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)の再来も感じさせる。

稀有なシンデレラストーリーでありながらも、普遍的な感情が詰まっている。コッポラ映画とすぐにわかる煌びやかな世界観は顕在でありつつ、少女がひとつの失恋を通じて大人の階段をのぼる、これまででもっともほろ苦い作品となった。

プリシラ・プレスリーとは

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1945年、ブルックリンに生まれる。1967年にエルヴィスと結婚し、その後すぐに出産。人気テレビドラマ「俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ」で女優デビューを果たす。1985年にエルヴィスとともに過ごした14年間が綴られた回想録「私のエルヴィス」を刊行。エルヴィスとの離婚後は、数多くの男性との交際が報じられた。

あらすじ

1950年代の終わりに故郷のアメリカから離れた西ドイツで、14歳のプリシラは大スターであるエルヴィス・プレスリーと運命の出逢いを果たす。二人はお互いに抱えていた孤独を共有し、すぐに意気投合する。

エルヴィスが兵役を終えて西ドイツを離れた後も交流はつづき、やがて彼らはメンフィスにある邸宅で暮らしはじめる。夢のような生活のなかでプリシラは結婚と出産を経験するが、少しずつ彼女のなかに別の想いが芽生えてゆく……。

登場人物

プリシラ・プレスリー(ケイリー・スピーニー)

14歳で初めての恋に落ちたエルヴィスと結婚し、不安定な彼に振り回されながらも献身的に支えた。

エルヴィス・プレスリー(ジェイコブ・エロルディ)

「キング・オブ・ロックンロール」と称される世界的スター。数々の女性たちと浮き名を流した。

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プリシラの視点

「エルヴィス・プレスリー夫人」としてではなく、あくまでもプリシラ自身の物語にするために、プリシラ・プレスリーを製作総指揮として招いている。コッポラにとってプリシラがこのストーリーに納得することは何よりも大事だったという。エルヴィスもまた、演者としてではなく、私生活においてプリシラが彼をどう見ていたかで構築されている。

衣装

衣装は『SOMEWHERE』(2010)以降、コッポラとタッグを組んでいるステイシー・バタットが手がけた。映画でプリシラは、おとなしいピンクのニットにチェックのスカートの制服姿から、エルヴィスと出逢って彼の好みであるラグジュアリーなドレス姿へ、そして大人へと成長するにつれてより洗練されたブーツカットのパンツスタイルへと変貌してゆく。

ヘアメイク

印象的で華やかな本作のヘアメイクを手がけたのは、コッポラと初のタッグを組むクリオナ・フュレー。プリシラは出産に向かう時ですら、つけまつ毛を重ねづけする。化粧はエルヴィスの恋人であり妻であったプリシラがつねに大衆からのまなざしに晒されていたことを示すと同時に、自らを守る武装であったことも伝えている。

グレースランド

アメリカのテネシー州メンフィスに位置するエルヴィスの邸宅がある広大な敷地。当初は農場として所有されていた。大勢のファンが集まって近所に迷惑をかけてしまうため、エルヴィスが1957年に購入。現在でもファンにとって聖地であり多くの人々が訪れるが、2階は未公開のプライベート空間になっている。亡きプレスリーの眠る場所でもある。

音楽

コッポラの夫トーマス・マーズのポップロックバンドであるフェニックスが手がけた。楽曲は当時の時代に限らず、現代のものまである。ラストではドリー・パートン「オールウェイズ・ラヴ・ユー」がプリシラの心情を見事に代弁。エルヴィスの楽曲は権利が降りず使用を断念したが、コッポラはおかげでよりクリエイティヴになれたとも語っている。

インタビュー ケイリー・スピーニー&ジェイコブ・エロルディ

ケイリー・スピーニー

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ケイリー・スピーニー プロフィール

1998年アメリカ合衆国出身。2018年に全米タレント・サーチで優勝したのち、『パシフィック・リム:アップライジング』(2018)のヒロインに抜擢。その後、『ホテル・エルロワイヤル』(2018)とルース・ベイダー・ギンズバーグの伝記ドラマ『ビリーブ 未来への大逆転』(2018)にて注目を集める。待機作にはアレックス・ガーランド監督『Civi lWar(原題)』がある。

“彼女(プリシラ)はとにかく芯の強い人で、私は本作でそこを表現しようとしたの”

──プリシラ・プレスリーの役柄についてどのような準備をされましたか?

役柄に入り込むための基盤は、プリシラ・プレスリーの回想録『私のエルヴィス』を読んだことだと思う。脚本はあの本をしっかり下敷きにしているから、その後でプリシラ・プレスリー本人に会い、じっくり腰を下ろしてふたりの生活について詳しいことを聞いたの。プリシラ・プレスリー本人とあの時間を持てたこと、その時間を設けてくれるほどに彼女がとても親切で優しくしてくれたことが、私にとっては何よりも大切だったの。

──彼女の物語は異なる世代の女性たちにどう訴えるでしょうか?

彼女は多くの女性が欲しいと思うものすべてを持っていた。あの時代と世代では、夫と子供が決まった役割を果たして、それが女性を幸せにしてくれるとされていたのでしょうね。自分自身の道を見つけて築き上げるのは世界共通で、みんなが共感できると思う。世界中の女性にとって、とても励みになるはずよ。

──名声というものは、プリシラにとって、そしてエルヴィスにとっても、どれくらい困難なものだったと思いますか?

私が驚嘆し続けているのは、彼女が脚光を浴びる間ずっと、強くあり続けたこと。うまく言葉には表現できないけれど、接していると確かに感じられる。プリシラ・プレスリーの前に座るといつでも、彼女にその強さを感じるの。優しさでもある。彼女はとにかく芯の強い人で、私は本作でそこを表現しようとしたの。

ジェイコブ・エロルディ

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ジェイコブ・エロルディ プロフィール

1997年オーストラリア出身。2018年「キスから始まるものがたり」シリーズでティーンから注目を集め、HBOドラマ「ユーフォリア/EUPHORIA」(2019-2022)でその演技が高く評価された。エメラルド・フェネル監督の『Saltburn』(2023)にも出演。また、第二次世界大戦を舞台としたリミテッド・シリーズ「The Narrow Road to the Deep North(原題)」(2024)でも主演を務める。

“今作のような物語を語るほうが、俳優である僕にとってはより興味深い”

──エルヴィスとプリシラ・プレスリーの関係をプリシラの視点から描いた映画をどう思いますか? 新しい試みですね。

最初から大興奮だったよ。とにかく独特で、聞いたこともなければ、考えたこともないものだったからね。プリシラの物語に貢献できてうれしかった。エルヴィス・プレスリーを演じる時は、他の誰かのために貢献するなんて考えないものだろうが、僕にとってはそこが一番わくわくした点だった。物語そのものでなく、物語の一部になるわけだからね。

──エルヴィス・プレスリーを演じるためにどのような準備をしたのですか?

少しだけ不安な時もあったけれど、同時期に他の映画も撮影していたから幸運だったよ。イギリスで昼間にその映画を撮影した後、ホテルの部屋に戻ったんだけど、そこをプリシラ・プレスリーに捧げる聖堂みたいなものにしていたんだ。壁のいたるところに彼女の写真が貼ってあった。そこで夜通し映画を観たり、音楽を聴いたり、本を読んだりしてどっぷり浸かってから、崖から飛び降りるようにして本作の撮影を始めたんだ。

──本作はエルヴィスの個人的な側面を描いており、歌を歌う場面はごくわずかですね。

そういう物語を語るほうが、俳優である僕にとってはより興味深い。謎があってそれを解いて、どういうことか理解し、自分の解釈をいくらかもたらすことができる。それに、僕にとっては歌手を演じるよりも、そのほうがずっと自由度が高い。

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『プリシラ』
2024年4月12日(金)公開
アメリカ=イタリア/2023/1時間53分/配給:ギャガ
監督:ソフィア・コッポラ
出演:ケイリー・スピーニー、ジェイコブ・エロルディ

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