【解説】津山市の美作大学が公立化を要望 背景と公立化検討のポイントは? 岡山

2024年1月、津山市の美作大学を公立の大学にしてほしいと運営する学校法人が市に要望しました。その背景と公立化を検討する上でのポイントを解説します。

(美作学園/藤原修己 理事長)
「少子化等を考えてみるとですね……。学園、とくに大学が3年先、5年先が見えない状況というのが、出てきてまいっております」

2024年1月、美作大学を運営する美作学園の藤原修己理事長が津山市役所を訪れ、谷口圭三市長に要望書を手渡しました。

要望書では、少子化や若者の大都市圏への進学志向が高まる中で、志願者数が減少し大学の存続が危ぶまれるとしています。

そして、学園単独での努力では限界があるとして大学を公立化することを求めています。

美作大学には1学部3学科があり、2023年5月時点で876人の学生が在籍しています。2014年から2022年までは、210人の定員に対し志願者数が400人前後で推移していましたが、2023年は大幅に減少し280人でした。

同じ美作学園が運営する美作大学短期大学部は、志願者の減少などにより2025年度以降、学生募集を停止することが決まっています。

津山市には、かつて作陽音楽大学と作陽短期大学音楽科がありましたが、1996年に倉敷市に移転しています。

美作大学は現在、津山市で唯一の4年制大学です。谷口市長は市に大学があることの重要性を強調します。

(津山市/谷口圭三 市長)
「大学が立地しているというこの事実は、津山市の、あるいは地域の文化とか、経済とか、産業とか、これらに非常に大きなインパクトを与えています」

(市民は―)
「私も短大の出身。公立の4年制ができるとうれしい」
「公立にするしない以前に、美作大学を残していただきたい」
「2024年で(高校)3年生です。県外に出ようとは思ってるんですけども、地元に(大学の)いい学部があれば残りたいなとは思います」
「学校があれば、自然と人が増えますから市が活性化される」

美作大学の近くにある不動産会社は、学生向け賃貸アパートの仲介・管理などを行なっていて、大学が今後どうなるかに注目しています。

(セカンドエステート/中村早百合 社長)
「住むイコール生活に必要なものを買ったりとか、いろんなことに影響していくと思うんですよ。不動産だけではなくてね。大学を公立化すると学費も安く済むから、倍率が上がってくるんじゃないかという期待もありますよね」

(津山市/谷口圭三 市長)
「どういった人材を育成していくのか、また、地域はどういった方を必要としているのか、まずはここが一番だと思う」

津山市は、2020年に有識者会議を設置するなどして中等教育や高等教育のあり方を検討してきました。

2021年に有識者会議が市に提出した報告書です。

人材育成の質を高めていく手段として、公立の高等教育機関を新たに設置することや、すでにある教育機関の公立化などが「選択肢」として提示されました。美作大学の公立化については「検討すべき選択肢の一つになり得る」としています。

そして、公立化を検討する場合は、施設の改修・維持にかかる費用や大学が保有する資産を精査し、事業の継続性を検証することや、市民の理解が必要だとしています。

(津山市/谷口圭三 市長)
「当然、財政的といいますか、運営に対する資金も考えていかなければならない。慎重かつ多角的に検討していく」

私学事業団の調べによると、2023年度は全国の私立大学の半数以上で入学者数が定員を割り込みました。

日本の18歳の人口は60年ほど前をピークに2022年は112万人、2040年には82万人ほどになるとみられています。

一方、大学の入学者数は進学率の上昇で増えてきました。ただし、これも2026年をピークに減少の局面に入るとみられます。

こうした中、自治体などが運営する公立大学は、35年前の39校から101校まで増えてきました。このうち12校は私立大学から移行したもので、うち4校は中四国です。

公立大学が増えている背景には、医療・福祉などさまざまな分野で地域に必要な人材を確保したいという自治体の狙いがあります。

また、国からの地方交付税を運営費に充てられることや、若者が住むことによる経済効果への期待なども公立大学の設置を後押ししていると言われています。

一方で、施設の維持などに税金が投入されることになるため、市民の理解が必要となります。専門家は、大学の公立化を検討するときは、地域の将来像を議論することが重要だと話します。

(岡山大学 教育学域/原祐一 准教授)
「哲学的な問いを立てれば、なぜ大学がそもそも必要なのか。問いの立て方が非常に重要になると思います。(大学は)学生さんが『これからの社会はどうあればいいのか』を改めて問う場所でもある。(大学は)地域や社会をどう変えていきたいか、ということとセットで機能する場所だと思う」

岡山大学で教育について研究している原祐一准教授は、大学を地域の中で機能させるためには仕組みが大切だと話します。

(岡山大学 教育学域/原祐一 准教授)
「実際に学生を動かしていくのは結構大変。市民の人たちも大学の中に入っていくということを考えていかないと。みんなが参画していく仕組みを作らないといけない」

原准教授は、一つの例として市民が地域の課題について大学に相談を持ち掛け、学生が学びながら解決策を提示する仕組みの導入を挙げます。

(岡山大学 教育学域/原祐一 准教授)
「(公立化を)するかしないかは結果だと思う。プロセスが大事だし、公立化することでどういう未来を描くのかセットになっていないと。これから議論のスタートに立って、結論はどうあれみんなで考え抜いていく。ポジティブに(街の未来を)考えていくきっかけになればいいんだろうなと思います」

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