『虎に翼』シソンヌはなぜコンビで起用されるのか? 俳優として役に与える“色気”

伊藤沙莉が主演を務めるNHK連続テレビ小説『虎に翼』にシソンヌ(じろう、長谷川忍)が登場し、SNSの話題をかっさらっている。

シソンヌは、2006年に結成したコント師。『キングオブコント2014』(TBS系)で優勝を果たし、近年では『有吉の壁』(日本テレビ系)、『LIFE!』(NHK)、『何か“オモシロいコト”ないの?』(フジテレビ系)など、バラエティでも活躍しているが、特筆すべきは俳優業でもその名が轟いているところだろう。

記憶に新しいのが、長谷川が演じたNHKドラマ『正直不動産』、『正直不動産2』の大河真澄役。インパクト抜群のヘアスタイルが目を引く大河は、部下たちに時代錯誤のパワハラをぶつけまくった。なんとも印象深い人物で、本編ではコミカルなシーンも担っている。

一方、じろうは2023年に『心霊内科医 稲生知性』、『心霊内科医 稲生知性2』(フジテレビ系)で主役の稲生知性を演じた。稲生は、怨霊と会話ができる不思議な能力を持った心療内科医。本作が深夜に放送されるやいなや、シリアスなじろうの演技に魅了される人が続出した。こうしてシソンヌは、ドラマの世界でアクセントにもメインディッシュにもなれることを証明した。

俳優としてのシソンヌに注目するべきところはまだある。それは、コンビで映画・ドラマに出演している点だ。お笑いコンビやトリオだと、基本的には1作品に対してひとりで出ることがほとんど。しかし、シソンヌに限っては、ふたりで出ることが多々ある。

例えば、映画『銀魂』、ドラマ『聖☆おにいさん』(NHK総合)などの福田雄一監督作品には、キングオブコント優勝前から出演。『今日から俺は!!』』(日本テレビ系)、『親バカ青春白書』(日本テレビ系)などにもコンビで出演しており、もはや福田組には欠かせないキャストとなっている。

言わずもがな、彼らの魅力が最大限に発揮されるのは「コント」である。現在も忙しい合間を縫って単独ライブを行っている彼ら。コロナ禍前までは、コントで47都道府県全国行脚を実施。こちらは、照明は地明かり、衣裳の着替えなし、セット・小道具なしという60分公演だった。

じろうが書き上げる上質な脚本を、演技力の高いふたりで表現する。彼らのコントをひとたび見れば、違う作品も知りたくなる。一度ハマったら最後。中毒性あるコントに溺れていく……。

そんなふたりにしか出せない空気感、俳優としてのポテンシャルの高さもあって、ドラマや映画の世界でも「シソンヌをコンビで起用したい」と思うスタッフが多いのだろう。

今回の『虎に翼』にもふたりで出演中だ。それぞれキャラクターの濃い弁護士を熱演し、舌戦を繰り広げた。妻・峰子(安川まり)側の弁護士(じろう)が感情を込めて声を荒げれば、夫・甚太(遠藤雄弥)側の弁護士(長谷川)はロボットのように冷たく言葉を放つ。ふたりのコントラストが非常に面白く、満足感あるやりとりを見せてくれた。

「コント師としても俳優としても“その他大勢”にならないパワー」「どのポジションに置いても、自らの仕事をきっちりとこなすユーティリティプレイヤー」……彼らの魅力を挙げればキリがないが「役に“色気”を与える」点は唯一無二ではないだろうか。

コントでも、映画・ドラマでも、シソンヌは演じる役に色気を与えるように思う。じろうや長谷川が演技をすることで、役の魅力が増幅する。ただ、命を吹き込むだけではない。観ている側が、彼らが演じる人間を好きになってしまうのだ。これは、コント師としても、俳優としてもシソンヌならではの能力だと思う。

この色気は、同じ作品にふたりがいると尚更感じるものである。朝ドラで“それ”を実感した人もいたのではないだろうか。『虎に翼』では、ふたりの法廷での掛け合いがどんな帰結を迎えるのか。楽しみでならない。
(文=浜瀬将樹)

© 株式会社blueprint