パリ・オリンピック開幕が近づいている。サッカー女子日本代表にとって、女子ワールドカップに並ぶビッグな大会である。この4月には、アメリカで開催された強豪がそろう大会「シービリーブスカップ」にも出場。来たる世界大会に向けて、どんな課題と手応えを得たのか。サッカージャーナリスト後藤健生が考察する。
■アメリカとの再戦「しっかりとパスをつないで勝負」
フィジカル的な能力では、アメリカが世界最高レベルにあるのは間違いない。そういう相手に、個人対個人の勝負を挑まれては、やはり日本は劣勢に追い込まれてしまう。
もちろん、最終的には1対1の勝負で頑張るしかないのだが(守屋都弥が早い寄せでロドマンと互角に渡り合っていたのは頼もしかった)、やはり、日本は集団的なサッカーで戦うべきだ。
しっかりとパスをつないで勝負するしかないのは間違いない。
日本代表としては、次に(たとえば、パリ・オリンピックで)アメリカと対戦したときには、しっかりとパスをつないで、相手陣の深いところまでボールを運ぶことだ。
そうすれば、自分たちが攻撃する(ボールを握る)回数、時間を増やすことで守備の組織を整える時間を得ることができるし、そして、ボールを奪われたとしても自分たちのゴールから遠いところで奪われたのなら、中盤で相手の攻撃スピードを遅らせることもできるだろう。
だが、「シービリーブスカップ」のアメリカ戦では、あまりに単純な技術的ミスが多すぎた。相手にプレッシャーをかけられたわけでもないのに、DFの間のパスミスが起こったり、GKからのパスをカットされたり……。あれでは、守備が整う前に攻撃を受けてしまう。
■日本が負った「ハンデ」と完敗後の新たな「希望」
気の毒だったのは、アメリカ戦の会場となったジョージア州アトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアムのピッチ状態だ。
アメリカン・フットボールのNFL(ナショナル・フットボールリーグ)のアトランタ・ファルコンズやMLS(メジャーリーグ・サッカー)の本拠地で、2026年の北中米ワールドカップでも多数の試合が行われる予定になっている新しいスタジアムだが、ピッチは人工芝だ(大きな屋根が付いた構造では、天然芝の養生は難しいだろう)。
そして、今回はこの天然芝の上に天然芝を敷いて試合が行われていた。
そのため、一見きれいに見えるピッチもしっかり根付いておらず、かなり柔らかそうで、パス・スピードも殺されてしまう。
「コンディションは両チーム同じ」とはいっても、グラウンダーのパスをつなぎたい日本としては、やりにくいコンディションだったはず。一方、長い、あるいは速いパスを敵陣に入れて、走力で勝負しようというアメリカにとっては影響は少なかっただろう。そして、おそらくアメリカの選手はこうした人工芝の上に天然芝を敷き詰めたようなピッチで試合をした経験が多いはずだ。
そういう影響もあって、「シービリーブスカップ」でのアメリカ戦は完敗という結果に終わったが、この試合での経験が大きな教訓となればいいのだが……。
ただ、先制ゴールを決めた清家貴子は、これからも好調を維持すれば、代表の攻撃のリーダーの1人になりうる。多数のポジションでプレーできるのも清家の魅力だ。
また、アメリカ戦で先発起用された谷川萌々子は5月に19歳になる若い選手だが、得点場面だけでなく、中盤の底で守備力の高さを見せた。何よりも、アメリカの選手たちにも対抗できるだけのフィジカル的な強さが魅力だ。
若い谷川を今後もフル代表に置いてオリンピックを経験させるのか、それともコロンビアで開催される女子U-20ワールドカップを目指すチームのリーダーとすべきなのか……。彼女の将来にも関わる大きな選択だ。
■中2日の強行日程!パリ五輪で「勝つ」システム
アメリカ戦の前半は谷川をMFで起用し、熊谷紗希と南萌華をセンターバックに置くフォーバック(4-3-3)で戦った日本は、前半アメリカの猛攻を受けたことで、テストも兼ねて後半はスリーバックに切り替えた。
谷川に替えて、さらに若い古賀塔子(2001年1月生まれ)を投入して、熊谷を中心に右に古賀、左に南という形だ。
従来、フォーバックで戦うことが多かった女子代表だったが、2022年の夏、つまりワールドカップの約1年前頃から池田太監督はスリーバックへの挑戦を始め、ワールドカップはスリーバックで戦ってラウンド16進出を果たした。だが、オリンピック終了後、池田監督は今度は熊谷をアンカーに置くフォーバックを試していた。
アメリカ戦では、さらに若い谷川をアンカーに使って、熊谷を最終ラインに置いたフォーバックとスリーバックを試したのだ。
2月に行われた北朝鮮とのオリンピック・アジア最終予選では、2つのシステムを切り替えることで勝ち抜いたなでしこジャパン。
オリンピック本大会は中2日の強行日程で、しかも登録選手が18人という過酷な条件で戦わなければならないだけに、いくつものシステムや選手の組み合わせをうまく使い分けられれば大きなアドバンテージとなるはずだ。