京都・祇園暴走事故12年 「あの日、あの時間に歩いてなければ」妻亡くした夫は悔しさ抱え

祇園暴走事故で犠牲になった岸本真砂子さんの十三回忌に合わせて買ったコチョウランを見つめる夫の貞巳さん(10日、大阪府豊中市)

 京都市東山区の祇園で軽ワゴン車が歩行者らをはねて19人が死傷した事故は12日、発生から12年を迎える。犠牲になった大阪府豊中市の岸本真砂子さん=当時(68)=の夫貞巳さん(81)は「あの日、あの時間に歩いていなければ」と言葉にならない悔しさを抱え続け、交通事故のない社会になってほしいと願っている。

 ■京都の名所が好きだった

 真砂子さんは京都の名所が好きで、それまでも何度も訪れていた。いつも通り楽しんでいると思っていた貞巳さんは祇園で大事故が起きたことをニュースで知り、嫌な予感がして警察などに問い合わせた。そこで知りたくもない事実を聞かされ、すぐに車を走らせた。病院で横たわる真砂子さんの体は「まだ温かかった」という。「桜の季節になると、どうしても思い出してしまう」と嘆く。

 貞巳さんはあの日の真砂子さんの行動が「何か一つでも違えば、事故に遭っていなかった」と悔やむ。階段から転倒して骨折し、回復したばかりだった。骨折しなければ、海外旅行に行っていた。いつもより出発する時間が遅かった-。

 歩くのが速かった真砂子さん。貞巳さんは一緒に買い物をしていたとき、先を行く真砂子さんを驚かそうと、物陰に隠れた。少しして近くにいない自分のことを探す妻の姿をほほ笑ましく見つめたことを思い出す。そんな小さな幸せを事故が奪った。

 ■一日も忘れたことはない

 40年以上連れ添った妻のことを「そばにいなくなってからも、一日も忘れたことはない」と語る。今月7日、命日を前に十三回忌の法要を営んだ。家族のほか、真砂子さんの50年来の友人も訪れ「供養できて良かった」とほっとした。

 それでも愛する人を事故で亡くした喪失感は消えない。時折、スマートフォンで「祇園暴走事故」と検索し、事故現場で倒れ、救護されている妻の報道写真を見つめ、一人で涙するという。悲しい事故がなくならない社会に対し、「無関心ではなく、交通事故で悲しむ人がいることを知ってもらい、過信せずに運転してほしい」と強く訴えている。

岸本真砂子さん(遺族提供)

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