10年間で約30倍…広がる“脱・勝利至上”への賛同 甲子園でも成果「対戦相手は仲間」

リーガ・アグレシーバに参加する慶応は昨夏日本一を達成(写真は神奈川大会決勝)【写真:荒川祐史】

2015年にスタートした「アグレシーバ」…リーグ戦形式が高校生にもたらす成長

高校野球といえば、負けたら終わりのトーナメント。悲劇と背中合わせの必死のプレーが、多くのファンの心をつかんできたのは事実だ。一方で勝利至上主義と一線を画し、リーグ戦を行う動きが広がりつつある。「LIGA Agresiva(リーガ・アグレシーバ)」。2015年に発足し、当初の参加校は大阪の府立高校6校のみだったが、趣旨に賛同する高校が徐々に増え、10年目の今年は34都道府県の175校が参加する予定だ。創設者でNPO法人BBフューチャー理事長の阪長友仁氏に聞いた。

「リーグ戦には、勝っても負けても次があります。もちろん、野球において勝利を目指すことは大事な要素ですが、勝ったから良かった、負けたからダメだったで済ませてはもったいない。勝っても負けてもしっかり振り返りをし、次の試合に向かっていくことが大事だと思います」

リーガ・アグレシーバにとって昨年は、「飛躍の1年になったのではないかと思います」と阪長氏。参加校のうち4校が夏の甲子園大会に出場し、慶応(神奈川)が全国制覇、おかやま山陽(岡山)もベスト8入りを果たした。

「リーガの仲間から日本一の学校が出たのは非常に喜ばしいですし、ひとつの成果だと思います。どうすれば選手の成長につながる仕組みが作れるかと取り組んできた中で、結果的にその仲間の中から勝利をつかむチームが出てきたことは、私自身も大きな勇気をいただきました」と阪長氏はうなずく。

参加校は全国数十地区に分かれ、10月〜11月を中心に、それぞれリーグ戦を行っている。各地区の事情に合わせて形式は様々。「多いところは1チーム15〜16試合、少ないところでは3〜4試合という地区もあります。きちっと平等に総当たりで行っているところがあれば、試合数をそろえて順位をつけることが目的ではないので、試合数が多少バラバラになっても、選手の成長のために日程内で、できる限り多くの試合をやることにしている地区もあります」と説明する。

NPO法人BBフューチャー理事長の阪長友仁氏【写真:本人提供】

球数制限、低反発金属バットを先行導入…変化球割合制限も

リーガ・アグレシーバでは、選手の将来を考えて独自のルールを採用してきた。高野連は2020年の春から投手の球数制限を設け、2022年には反発性能を抑えた金属バットの新基準を制定し、2年の猶予期間を経て今年の選抜大会から完全以降したが、リーガ・アグレシーバでは、球数制限は2015年の発足当初から、低反発金属バットは2018年から、いち早く導入していた。

低反発のバット(もくしくは木製バット)を使用することによって、ピッチャーライナーなどによる負傷事故を防ぐとともに、打者にはバットの芯でボールをとらえる技術がつき、投手もストライクゾーンにどんどん投げ込むことで成長を見込めると、早くから考えていた。

さらに、故障のリスクの高い変化球の割合にも制限を加えている。「変化球の割合は全投球の25%以内──というのを“推奨ルール”として、実際のルール設定や運用は各地区に任せています」という。

試合終了後、両チームの選手が一緒に試合を振り返り、健闘を称え合う“交歓会”を行うのも特徴的だ。ラグビーに同様の「アフターマッチファンクション」という習慣があることにヒントを得たもので、「ラグビーはあれだけ体をぶつけ合う競技なのに、相手選手と言い争いになったりする場面が滅多にない。対戦相手は敵ではなく、自分を成長させてくれる仲間だという認識が浸透しているのだと思います。負けたら敗退のトーナメントでは、対戦相手は『勝たなければいけない敵』と見てしまいがちですが、勝っても負けても次があるリーグ戦であれば、スポーツマンシップを学び実践していくこととマッチすると考えています」と持論を語る。

阪長氏は1981年生まれで、新潟明訓高3年の夏に甲子園出場。立大野球部で主将を務めた。スリランカ、タイで代表チームのコーチ、ガーナで代表監督を務め、その後は中南米で野球指導を行った。野球強豪国のドミニカ共和国の育成システムに触れたことをきっかけに、「自分が海外で学んだことを日本の野球に還元したい」と帰国を決意。リーガ・アグレシーバの取り組みを開始した。「リーガ」は中南米で広く使われているスペイン語で「リーグ」、「アグレシーバ」は「積極性」の意味だ。

小・中学生、女子野球、特別支援学校生にも広げたいリーグ戦の輪

「ドミニカ共和国では、目先の勝ち負けではなく、将来活躍する選手を輩出することを第一の目的として、システムをしっかりつくっています。指導者と選手の関係は、上下の関係ではなく対等。中学生くらいから投球数や登板間隔を考えて選手起用をし、木製バットで試合を行っています」と紹介。リーガ・アグレシーバのコンセプトやルールに落とし込んでいる。

「帰国してから、もっと日本野球の発展につながるやり方があるのではないかと考えながら、自分なりに活動してきて、いつの間にか10年がたちました」と阪長氏は感慨深げだ。

昨年には実験的に、小・中学生のチーム、女子高校野球チーム、知的障害を持つ特別支援学校生のチームもリーガの取り組みに参加した。「これから参加形態を練り上げて、性別も障害の有無も関係なく、野球を通じて成長する仲間を広げていきたいと思っています」と阪長氏。リーグ戦の広がりは、アマ野球界のダイバーシティを実現する原動力となるかもしれない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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