【社説】日米首脳会談 人気取りの舞台ではない

 日米同盟を変容させる共同声明には唐突感が否めない。

 米ワシントンで会談した岸田文雄首相とバイデン米大統領は、覇権主義的な中国に対抗するため、日米同盟の位置付けを「グローバル・パートナー」に変えると宣言した。東アジアを超え、世界的な課題に協力して取り組むと、防衛や経済安全保障を軸に幅広い項目で合意した。

 とりわけ踏み込んだのは、自衛隊と在日米軍の指揮・統制機能の見直しだ。部隊の運用レベルでの連携強化であり、一体化に他ならない。これまで同盟は日米安全保障条約に基づき、日本が専守防衛の「盾」、米国が他国への攻撃力の「矛」と役割分担をしてきた。日本が矛も担うならば、質的に変わる。海外での武力行使を禁じた日本国憲法下で許されるのか、肝心な議論はされてもいない。

 それぞれ内政で揺らぐ両首脳が、政治的な思惑で前のめりになった結果に映る。

 バイデン氏は11月の大統領選で再選を目指すが、自国第一主義を掲げるトランプ前大統領の攻勢を受ける。岸田氏は自民党派閥の裏金事件で内閣支持率が低迷する。国際秩序を守るリーダーを自負するバイデン氏に岸田氏が歩調を合わせ、人気取りの舞台にしてもらっては困る。

 東アジア情勢が緊迫する中で日米同盟が重要なのは確かだ。しかし岸田氏の外交、安全保障政策は米国偏重が過ぎる。逆に緊張を招きはしないか。中国との対話は不可欠なのに、習近平国家主席とは会談もままならない。平和国家を掲げる日本が、安易にかじを切ったと国際社会から見られては国益を損なう。

 自衛隊が本年度末に陸海空を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を発足させるのに合わせ、米側が在日米軍司令部の機能を強化するという。訓練の立案や部隊の限定的な指揮権を与える案を検討する。林芳正官房長官は首脳合意を受け「米軍の指揮統制下に入ることはない」と述べた。

 だが、情報や装備で勝る米軍の影響力を踏まえると、自衛隊が独立性を保てるかどうかはおぼつかない。引きずられて思わぬ武力行使に踏み込む恐れは十分に考えられる。

 何より日本国内での議論が不十分だ。岸田氏は防衛費増額でも、国会での議論より先に日米首脳会談で約束する手法を取った。国民主権をあまりにも軽んじている。

 さらに首をかしげるのは、岸田氏のライフワークであるはずの核軍縮への本気度だ。共同声明で「両国は『核兵器のない世界』を実現することを決意している」としたが、具体策は示されなかった。

 広島市であった先進7カ国首脳会議(G7サミット)では、議長としてまとめた核軍縮文書「広島ビジョン」で核抑止力の必要性を認めた。1年近くたつが、核軍縮を進める新たな行動は見られない。

 会談では、核戦力を含めて同盟・友好国と連携しようというバイデン政権の安全保障戦略「統合抑止力」に、もろ手を挙げて乗っかった。日本外交の独自性が狭まる一方ではないのか。

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